決勝T1回戦 第6試合 2
ステージ変更
場所 崖付近(足場が崩れる可能性あり) 条件 Bコート内全体
「ゼロライフ殿、黒石ユウト殿。ステージ風景は変わっただろうか?」
5試合目《前の試合》でシミュレーション装置の不調があったため、セグは確認した方が良いかと思い、訊ねた。これから試合に集中しようという両名だが、うなずきで意思表示する。
ステージ内の崖、ユウトは怖いもの見たさでのぞきこんでしまった。崖の下側から吹いてくる風の異様な音の反響も相まって恐怖心が増大していく。
「な……何で崖下を見ようとしちゃったんだろう……。足がすくんじゃいそうだ。だけど、怖くなんてない!」
彼は所詮シミュレーションにすぎないと思ってしまっていたのかもしれない。ところが装置が相当なハイテクでつよがりを口にしていても震えないようにするだけで精一杯だ。
相手がそれを見逃してくれるとは思えなかった。
「今のお前、すぐ倒せても、それじゃつまらない。早く気合を入れ直せ」
どうやらユウトがしっかりと戦える状態になるのを待つ気の様だった。恐怖に立ち向かう、相手の出方を考えて戦い方を変化させようと彼が気持ちを切り替えた所でゼロライフが鎌を構える。
「こいつって倒せなかった不命に似てるんだ。さて、どうしたらいいだろう」
恐怖を感じているのをごまかしているだけで、怖さは蓄積されていくのである。ゼロライフの放つ殺気めいた気配に飲まれて一瞬卒倒しかけた。
――気絶しかけたのに完全覚醒した理由は単純、鎌で狩り取ろうという空気の音が耳に聞こえてきたからだ。すれすれの所で回避したユウトは改めてゼロライフを見た。黒い長髪で焦点の定まっていない瞳から人ならざる相手にするのが不気味な者を彷彿とさせる。髪の色は黒ではないが、血のように赤い色だったらあいつに似ている!?
「貴様のアホ毛、ちょうだいする」
まるでアホ毛自体が意思を持っているかのように反応。良く見るとアホ毛がゆっくり回転している!? ユウトは攻撃に移らないとジリ貧だと考えて武器を具現化する指輪を天に掲げる事で棍を出した。髪を狩り取られて部分ハゲにされるなんて冗談じゃないとユウトは危機感から身体能力向上中、火事場のバカ力というものだろうか。
鎌は風圧だけでカマイタチを起こしているようだが、ユウトは運良く躱し続けられていた。
(避石さんな今の状況、いつまでも動くのは無理だからどうすべきか)
ユウトはゼロライフの攻撃の合間で棍を体に何度かぶつけてはいる。しかし、痛ぶる素振りはまだしも微動だにしていない様子がわかる。ダメージを与えている感触がないので不気味さが際立っていた。
今まではシミュレーションステージの崖が崩れ出したりしていなかった。だが心に油断が生じた段階あたりで急な崩壊を起こし、ユウトは一転、窮地に陥る。
崖に両手をかけている踏ん張っているユウトだが、そこへゼロライフが鎌を振り下ろすという彼にとって絶望的な一撃。敗北だろうと覚悟を決めて目をギュッとつぶったユウト、しかし勝ち名乗りを聞く羽目になりそうなのに何も聞こえない。どんな状況になっているのかと混乱しつつも理解するようつとめた所――
ゼロライフがユウトの防具に鎌のどこかを引っ掛けて崖から落下しないようにしていた。
「お前、俺の手で始末」
どうやらゼロライフは地形の問題で死にかける感覚なんてものより、自分で手をかけたいという心境っぽい。それらしき行動をしていた。崖から落ちたらまず助からないという絶望感と、まさか救出されるなんてという安堵感がないまぜになって困惑がひどい。
まだ現実感を意識しきれない状態のユウトがゼロライフの鎌を首に当てられている。すぐにわかったのは首に冷たい冷酷な武器がかけられている事、今度こそ詰んだだろうか。やられる前《敗北前》にせめてもの抵抗をとユウトは考えた。棍をゼロライフの骨とか体の急所(胸の臓器に当てる感じ)目がけるように。
しかし、それよりゼロライフの鎌速度が上かに思われた。どうした事かゼロライフの手が止まる。
「これは……痛みか!? ほほぅっ、面白い。気が変わった。今しばしお前で遊ぶ」
ユウトはまだ反撃の糸口がつかめない。彼の気味悪い瞳で睨まれるのも苦痛になり得るが、ゼロライフは何故か明後日の方向を向いていた。
(ゼロライフ、貴様に命を狩り取って欲しい凶悪な輩がいる。今すぐに来い)
彼にしか聞こえない声を聞いているかのような動作をしているかと思えば、ゼロライフ自ら断崖絶壁に落ちていく。ゼロライフが一体何をしたいのか理解出来ないまま敗北感だらけの勝ちを得た。
「個人的な推測ですまんが、どうやらゼロライフなる者は死の門番な感じか。人外な存在、死神。そう考えれば納得の不気味な気配の持ち主だった。勝手に意識を飛ばしたのは死神の仕事にでも誘われたのかもな」
シミュレーション終了後もユウトは対戦相手に感じたものによって、全身から汗を吹き出していた。ずぶ濡れ状態な位出るとは! 水分補給後に早くシャワーを浴びたい程である。
「くそっ! 何なんだよ今の戦闘は。いくら相手にしたくない様なイメージの奴が相手でも」
いくら戦いづらい奴とはいえ、もっとやりようはあったかもしれないのに。ユウトがそういう考えを思い浮かべながら悔しがっていた。
「これは……勝ったという事でいいんですか? 能力をろくに使えなかった」
「そうだな、君にとって苦い勝利だろうが勝ちは勝ちさ。こんな常識外の経験を無駄にするか否かは今後にかかっていると思うよ」
進行役のセグから勝ち名乗りをもらった以上、いつまでもここにはいられない。観客席または一時的に控え室へ行く事にでもしないと弱気な姿を衆目にさらしてしまうと思った。
(このままマリ姉の所へ戻っても、マリ姉におちょくられているのは目に見えてるけど行かないなら行かないで追求されそうだし)
ユウトがコートから去りつつもどうすべきか迷っているとマリ姉と目があった。マリ姉が指で来るように合図をしているので結局選択肢はなくなったようだ。
「ユウちゃん、流れはどうあれ勝利を手にしたわね。お疲れ様」
まるで先輩が後輩を褒めるような慈愛の笑みを浮かべたマリ姉と呼ばれている女性に迎えられるユウト。大半の人々には微笑ましい光景に映っているに違いない。だが、ユウトはどSなマリ姉が「何のつもりでこんな行動を!?」と気が気ではなかった。
コラボ協力どうもありがとうです。
夕凪(来進)さん
http://ncode.syosetu.com/n3410bl/ If start story (イフ・スタート・ストーリー) ~ボッチな問題児は異世界で大暴れするようですよ?~




