決勝Tの1回戦 第4試合
「Aコートにて、試合開始の用意をさせて頂く。フラナ開発部長もステージ変更をいつでも可能な様に頼んだ」
セグの呼びかけにAコート横にある研究室へ向かう途中だったフラナがOKサインを出した。研究室に入る所を見届けたので試合開始宣言をする。
「3試合目を始める準備が整った。ステージ変更が始まるからそのつもりで緊張感を持つのも良いんじゃないか」
ステージ変更
場所 森林ステージ 条件 物理攻撃で木々を傷つけられない倒れない(火に弱いのは変わらない)
Aコートがジャングルの様なステージに変化していく。そのままでは観客全員に彼らの姿が見えないので大型ビジョンで応援するよう案内放送が繰り返された。
ファーディの位置は森林ステージ中央付近、ブーメイは右端からの試合開始のようである。そのブーメイ、武器の扱い方と地形の利用でベストゲームに出来そうだと予測した。
「枝と枝の間を通して攻勢に出れるか? 鋼のブーメランを使う予定だから簡単には弾き返せないだろう。とにかく工夫次第で格闘王者の余裕を無くせるかも。そこまで出来れば勝率数パーセントとはいえ伸ばせそうだ」
ブーメイが気配をないも同然にするよう努力し、ファーディの姿を確認可能な位置まで歩いていた。注意深く動き、ファーディの姿を見つけた彼は狙いを定めてブーメランを投擲する。
対するファーディは相手の起こし得る行動からどんな攻めをしてくるか攻撃予測が出来ていた。彼はブーメランから発せられる回転音を耳を澄ませて確認。武器の通る軌道を読みきって回避行動に移る。それどころか迂回してブーメイの方へ追撃しようとしていた。
「ステージ的に視界も悪いからこっちがうかつに動かなければそう簡単に僕の位置を探り当てられないはずなのに」
まだ場所はわかっていないはずの相手がぐんぐん近づいてくるように思えてブーメイは困惑した。理由を考えてみて一流選手が可能そうな読みを想像する。
「まさか!? 武器の音を耳コピしてこっちにでも来ているというのか……。それならこれでどうだ」
戻ってくる系の武器、ブーメランを背中側に2つ背負っているので追加。こっちに戻ってくるブーメランの音を全力で投げたブーメランの音を重ねてシャットアウト。気持ち軽めに投げた木のブーメランで撹乱を誘った。
「おっ、すぐには負けたくないという気持ちの表れか。対戦者の彼なりの戦術って訳だな。だが甘い」
ファーディはブーメランの音から推測して距離を縮めてきたが対処されたかと表面上は残念そうにしていた。だが対処された場合の策も織り込み済みだったようである。今までのブーメランの音などから戻る場所を絞り込む。すでに相手は複数の武器を投げているので今は武器装備が外れた状態だろうと考えて目立つ位置に移動した。森林ステージ内の近場にある高い木から周辺をまんべんなく眺める。ファーディがそこから威圧感を発揮、気配を悟られちゃいけないとブーメイはわかっているはずなのに体を震わせてしまった。
「やばい! 今ので葉がゆれちゃったんじゃないか。この場にいたら一瞬で勝敗を決められてしまう」
ブーメイの位置を掴んだファーディがこっちへ向かうつもりなのがわかる。でも、そこでブーメイは気がついた。相手は気づいていなさそう。ブーメイの放ったブーメランが当たりそうになったのだが――――。
(偶然だとしか思えないけどブーメランが戻って来てくれた。あの位置まで近づいているなら回避は出来ないはず。防御が精一杯だろう)
ブーメイの位置をつかんだファーディ。こめかみにブーメランがかすりそうな時、始めて気付いた。それなのにファーディの反応速度は人間離れしている。コンマ秒くらいの剣速で相手の武器を弾き飛ばした。そして達人らしく木の枝から枝へ移動しつつ対戦相手の所にたどり着く。
「投擲系の武器使いが接近戦に持ち込まれたら実力差のある者ほどあきらめるしかないよな。どうする? ギブアップをすすめるが」
確かに格闘の腕を磨いている程度の者と、格闘で人離れした存在のファーディでは天と地ほどの差があるとブーメイもわかってはいる。だが彼は意地を見せ始めた。
「勝てる訳ないとは理解出来ています。それでも僕はあなたとの勝負を少しでも長く続けたい、何でなんでしょうか。勝算のない相手には後退が美学だと思っていたはずなのに」
「確証はない、けどね君の疑問に答えよう。君にブーメランで世界一を狙いたい野心が生まれたんだと思うよ。だからただ敗北するよりって心境の変化さ」
たった一撃を与えるだけで決着をつけられるこの状況、ファーディはブーメイの勝負に対する心の変化に気付いて会話する。
彼の性格的になきにしもあらず程度だが、闘いに身を委ねる者の素質がありそうだと思っていた。
「いつまでも先延ばしにされても恐怖が長引くだけかな。よしっ、ひとおもいに行くよ」
胸から腹を斬撃するような動き、そこにたまたま木のブーメランが戻ってきて剣に当たる。
「邪魔されてしまったね。運が良かったのかどうかって思わないかい? 残念だけど不運を呪ってくれ」
この攻撃をされる位なら先ほどのやられ方をした方が良かったという強烈な一撃。ファーディの剣が肺のある位置に突き立てられていく。生温かい液体が体から流れ出ていくかのような感覚、喉の奥や口内などに鉄の味というものを覚えながら意識を失った。
「勝負あり! 勝者は順当にファーディである。念のため彼を救護室に連れて行ってくれ」
救護班数名でブーメイを担架に乗せて連れて行った。彼を応援していた女性の一部が興味をなくし、他には悲しげな悲鳴をあげたりしている少女などがいたりしたみたいだ。
一方、退場時に格闘王者とその候補として話をしに来たリオのお話。ファーディに戦いぶりの苦言を呈する。
「やりすぎたか!? って表情に出ていましたから強くは言いませんけど致命傷な感覚はショックで最悪な結末に……がないとは言い切れませんから注意した方が」
「その通りだね。いくら安全性を高めたシミュレーション装置といっても体への影響は未知数だ」
しくじったと理解しているファーディはリオの意見に耳が痛い思いを味わう。格闘大会発展のために新しい試みを行っている今の状況も慣れていないからだろう、最終的にファーディはリオを選手控室に誘って意見交換を求めた。
さすがに格闘大会王者は強い!




