決勝T1回戦 第3試合目 2~ 1回戦 第4試合直前
巨人は謎の男の策略通り、電流金網リングに突っ込む。闘技場の左右正面に設置されている大型ビジョンに電気の値150mAと表示された(これは人間の一般成人2倍位の身長な巨人に合わせた設定だと思われる)
「グオォォォォ~~~~!!」
超高濃度な電気を食らった巨人がのたうち暴れ回る。ここぞという時に一撃加えて大ダメージを与えるつもりだった謎の男だが、考えが甘かった。巨人の一撃必殺な攻めはすべて避けたのだが、回避位置をミスったからか斧が2秒程度リングロープに触れてしまい電気を受ける羽目に。
(く……そぅ、こんなくだらないミスで……しっかりしろ俺。ここで正体がバレるなんて恥すぎるぞ)
謎の男は運動神経を司る神経回路が焼き切れてしまう様な感覚に襲われる。だが絶対に倒れてたまるかという意志が感覚を凌駕していたようでふらふらした足取りながらも歩く位は可能なようだった。一方の巨人はというと――暴れなくなり、体が痙攣を始めている。電気の送料ダメージが強すぎたのかほとんど動けずにいた。相手が様子を見にか、少しずつ確実に近付いてきているので捕まえて力を入れるという2ステップだけで勝てるというのに身体を動かせない。動けずにいるのが恨めしい巨人は目が霞んで来ていた。どうやら脳内ダメージ=精神ダメージの負荷に耐えられなかったようで気絶したようである。
「巨人が気絶してしまったようだ。勝者は謎の男とする」
巨人にふらふらした状態でも出せるありったけの力を込めて斧を振り下ろそうとしている最中だった謎の男は、どうにか微調整して巨人の横にある石床の一部を崩した。
「改めて、勝者は謎の男お前だ。それから一部観客の者達、物足りなさそうだから謝罪しておこう。謎の男がどうやって巨人を倒すのか楽しみにしていたという思いを持っていそうだからな。最新シミュレーション装置がステージの主役になってしまい、すまなかった」
謝罪しつつもセグは説明するのを忘れなかった。巨人に大ダメージを与えるために回避に特化した謎の男による作戦についてや、人間または巨人にも当てはまると思われる電気抵抗は人によって変わってくるという話も忘れずに。
(何にせよ勝利は手にした。さて、救護室に行こう)
今の謎の男は怪我をしたから医者に看てもらおうという考えのみでふらふらと動いている。その彼がよろめいた所をコロシアム選手用VIP席にいたメリアが支えた。
「おっと、危なかったです。私が救護室までお連れしますね」
同じく選手用VIP席にいたリオが助力を申し出る。
「一人で平気かメリア!? 俺が運んだ方が良くないか?」
「平気です、リオ先生。自分で歩けるから肩を貸してくれる程度で構わないって言われました。先生はライバルの戦いぶりでも見学していれば良いと思いますよ」
メリアが支えながら歩いた所、謎の男も同じペースで歩くという動作が可能なようだった。あれなら問題なさそうだと判断したリオ。次の試合会場に行くかと行動に移す。
「さて、次の試合はBコートで開催だ。見学したい者は移動してくれ。この大会、出入りは自由なので街にあるいろんな施設を利用するのもすすめよう」
Cコートでは救護室の救護グループだけでなく、緊急の急患が出た場合などに待機していた救急隊員数名も手伝って巨人を運ぼうと約十名で頑張っている。特別製の担架に乗せるのを最後はセグも手伝った。
◇ ◇
救護室まで謎の男を運んだメリア、お医者さんに任せて退室するつもりだったが――
すぐに彼の診察結果を大会ドクターに告げられたので耳を傾ける。
「お嬢さん。いや、大会出場者のメリア選手か。ここまでありがとうございました。どうやら身体精神ともに目立った外傷なし、彼には一眠りしていくと良いよと伝えるつもりだから」
人当たりの良さそうな五十代間近の格闘大会専属ドクター、それだけ患者を診てきたのだろうから診断ミスはないだろう。
「特に怪我なく元気のようですから安心しました。それではお大事に」
メリアは謎の男が横になろうとしているみたいなので、Aコートへ行こうかと考える。しかし、謎の男がマントを脱いで休もうとしているのがわかったので気にしてしまった。
「メリアさん、助かったよ。実際問題俺はあいつに正体がバレなきゃいいから君には見られても構わない」
「マギーさんじゃないですか!? なるほどっ、私にとっては先生のリオさんにこの様な方法で助力していたと」
勘違いしてないから心配しないでくれと伝えたメリアは、逆にそこまでしてくれる存在がいてくれるという事実に羨ましい関係と思った。ここを去る前に考えていた通り、Aコートへ移動する。
◇ ◇ ◇
3試合目から4試合目の紹介の際、この大会以外の街見学もすすめたセグはお客さんがほぼ減っていないのを確認してこの街にいる多くの者は格闘大会をそれだけ楽しみにしていたんだと再確認(もちろん一部の人達は一足早い食事や、いつもなら混んでいるお店または施設を快適に利用しているようだが)
「4試合目が始まるぞ。この試合にファーディ登場という事で観客の皆様も注目していたのかもな」
格闘王者の相手、20代位の一般的にはハンサムな部類の青年は女性応援団の黄色い声援に手を振って応じている。相手が悪すぎるが、応援してくれる人達がいる以上ベストを尽くそうと決めた。
そしてファーディが少しの驕りも見せず、真剣な顔つきでAコートへやって来る。彼がコートに入るまでの間、老若男女の声援が物凄かった。最近は対戦相手が試合前から諦めている事が多かったので今日の対戦相手が実力を認めた上で、それでもどうにか勝算を考えている事実が嬉しい。
「君とも初対戦じゃない訳だが、前より戦う覚悟を決めているみたいで好印象だよ。動機なんてどうだっていいしね」
「あなたの考え通り、女の人達から声援されているからっていう不純な理由ですとも。敗北したとしても、女性の幻滅を減らす方法を探ります。負けという結果のみで僕を幻滅した方は最初から合わなかったそれだけ」
ファーディは格闘チャンピオンとして、腕組みをしながらただ立っているだけでも観客席の歓声を浴びている。ブーメイはブーメイでとにかくかっこ悪い姿だけは見せられないぞと意気込んでいた。




