決勝T1回戦 第2試合目 3~ 1回戦 第3試合 1
適切な処置をする開発部局長、彼女らの声が救護室の方へ遠ざかっていく。そんな中、すぐそこの観客席の人々が倒れた姿を見たフリッツが青い顔になって立ち尽くしていた。
(えっ……。何で僕の試合を見た後に倒れて……僕がなにかしちゃったんだろうか)
そんな様子のフリッツを気遣う観客席からやって来たティアラだが、彼の耳に入っていなさそうである。
「フリッツさん、勝利おめでとうございます。精神的な疲れがお話する事でやわらぐなら遠慮しないでくださいね」
フリッツが落ち込んでいるようにみえるわねとばかりにルーウィンは彼をのぞきこむ。だが、大したことないかと勝手な認識で興味を失ったようだ。
「試合なんだから仕方ないじゃない。でなきゃ、あんたがやられていたかもしれないし」
やっぱり面倒事は俺に回ってくるのかよと溜め息をつくラクトス。次の試合出場選手の邪魔になるかもしれないと思ってフリッツの目を覚まさせた。
「おいっ、フリッツ。しっかりしやがれ」
ラクトスが体を上下に揺さぶって何度目か、フリッツの意識がはっきりしたようである。それでもまだ今の状況の認識に追い付いていないようで――
「あれ? ラクトスとルーウィン、ティアラ。どうやってここに?? ここは選手専用の場所のはずじゃ……」
「そこから覚えがないのかよ。あのなっ、お前が観客の倒れた所を見たって事はどこにいたかわかんだろ。考えろ!」
「……あっ、そうか。僕は観客席付近に来ていたのか」
「本当はフラナっつー、この世界の研究者の声が聞こえていたらわざわざ俺の言う事じゃなかったが……。倒れた観客連中は自己責任を怠ったんだよ」
それってつまり? とまだ疑問を覚えていそうなフリッツにラクトスが簡単な説明ですます。
「自分はグロい映像が問題ないはずって奴らほどスプラッタで気分悪くなったって事だ」
「ありがとう、ラクトス。楽になったよ」
お礼を言うフリッツに、次の相手はやべえだろと心配している表情をする彼。そんな顔は見せたくないのでそっぽを向いてわかれば良いという感じのラクトス。
「それで良いんだよ。次のリオって奴は今までの敵より比較にならねえほど強いのは間違いねえ。今すぐから対抗策を用意しとけよ」
ラクトスの素直じゃない部分をルーウィンがからかう。
「周りくどい言い方じゃなくてわかりやすく言ってやんなさいよね」「うるせえっ」とラクトスが言い返す。ある意味いつも通りなやりとりにフリッツとティアラはどこか安堵した。
◇
「続けて3試合目です。観客の皆様、お楽しみに」
いろんな武器を持っている人がいろんな体格の種族を相手にする。見る見ないは自由とはいえ、フリッツ達は観客席で観戦する事を選んだ。選手控え室からマントを羽織って登場する謎の人物、腕組みをして対戦相手を待っている。彼の対戦相手、巨人族の者が特別に作られた巨大な入り口から足音を響かせて現れた。だが、そんな振動にも謎の男は微動だにしていない。
「こんな豆粒をつぶすだけで大会賞金がもらえるんだよな?」
そう問う巨人族にセグがわかりやすく答える。ついでに体格が違いすぎて余裕だと考えていそうな巨人族に油断してほしくないと進言しておいた(最近巨人族の成績が芳しくないというのもある。出来れば息詰まる攻防が見たいのだ)
「わかっているだろうがお前らの種族は大会で負け続きだろう? 余裕ぶっている場合じゃないと思うがな」
事実を言われて逆上した巨人族がセグの体に拳を振り下ろす。だが、そういう行動に出るだろうなとわかっていたのか彼は被害を受けない位置に移動していた。
「事実を言われて怒るな! どうして欲しいんだ? 失格か!?」
セグの強さを理解したのか、巨人族は気持ちを押し殺していた。ものすごい肺活量で深呼吸して、やり場のなくなった感情を対戦相手にぶつけると決める。
謎の人物がリング上から挑発的な手招きのような事をする。それにイラッと来たのか巨人は突進して彼の眼前まで迫った。風圧で(それ以外の要素の方が強いかもしれないが)恐怖を覚えても不思議はないが、謎の人物は至って涼しい顔だ。
「もう試合を始めて欲しくてウズウズしているようだな。それならもうステージ変更だ」
セグの合図を受けてフラナがステージ変更装置を動かす。
ステージ変更
場所 Cコート内全体 条件 電流金網リング
Cコートが金網に覆われていく。こういう大会だからコート内は広い方とはいえ、巨人にとっては狭くてやりにくいリングになったかもしれない。一般論通りになるか、面白い試合になるかは試合内容を見れば明らかになるので見ていよう。
「我ら巨人族の中には単細胞な輩も多く存在しているのは認める。だが俺様はたかが人間ごときが考えた作戦なんぞ無意味にしてくれようぞ」
巨人の自信たっぷりな態度に謎の人物が質問する。
「ほうっ、お前の様なやつもいるのか。しかしなっ、一流の格闘家は駆け引きにも負けないと覚えておけ」
謎の人物の話し方で決勝T進出者の誰かとつながりがあるかどうかわかるかなと密かに思っていたリオだったが当てが外れたかなと思う。演技に引っかかった形だ。
「前回大会、醜態を晒してしまった父を教訓として貴様の行動を見てくれる」
巨人族の言動から判断すると、どうやらデカックの息子だったらしい。名前を名簿に書いていない事から巨人という名称とする。ここで電流金網リングについて記そう。人間の体内に流れると危険な電気の単位(『70mA』)に設定されているリングは1秒だけ猶予あり。2秒以上、身体または武器が触れていると電気が流れてくるようで。この大会ではダメージが精神面にいくという事だが、精神的な影響で身体に電気が流れる感覚・体が痺れる感覚・最悪脳波などに異常が発生して数日寝たきり状態になる可能性が0ではない。
(ふむ。単純に大振りしたり、突進をしたりして来ない巨人を倒すのは何とやりにくい)
しかも人間にとって危険な電気の強さでも、大きさが規格外な巨人にはそこまで気にする必要がない罠なのではないか。装置開発部のあの人なら今の時点ですぐ対応に移っていそうだが、期待をしないようにした。
「そっちが攻めて来ないのなら、こっちが動くだけだ。我が一撃を放つ」
巨人の重低音な声が響き渡った。今回巨人は種族全体が良く使用するジャイアンとオックスを持っていなかった。謎の人物としては武器がかぶらなくて良かったとは思う、それでもなめられているかもと考えると面白くはない。
コンクリート位の硬さがありそうな巨人の腕が試合会場を破壊していく。
「予想していた様にちょこまかと動くものだ。どう制限してやろうか」
破壊行動をしながらも巨人の冷徹さは残っている。謎の男は戦いづらさを感じつつも、巨人の力を利用するしかないかと気付かれないよう罠の方に誘い込んだ。巨人がつかもうとしてくるのを回避回避また回避。そして横目でリングのロープがある地点に来たのをチェック、そこで後ろではなく横に躱した。
コラボ協力に感謝♪
不揃いな勇者たち としよしさん
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