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格闘家の卵  作者: 霜三矢 夜新
伝統の格闘大会 教官と生徒 そして格闘を通して多くの出会い
44/88

人間離れした格闘熟練者とゲストの関係?

     ◇                 ◇

 この歴史の長い『格闘大会』さかのぼっていけば源流は古代のイタリアコロッセオをモチーフにして開催している。今までは男女の体格差や性別差別などの関係でどちらかといえば女性が冷遇されてきた。だが時代と社会に合わせてルール見直しとなった今大会。男女の体格差や実力差が近づいて来たという過去3大会前までの戦歴などで判断して男女平等の大会エントリーに変更された。また、近未来的シミュレーション装置を用いて地形などをいろいろ変化させたりするという試みを導入する予定。男女平等エントリーのため、出場者が増加するので予選を経て本選出場者を絞り込むといった具合に大きな変更点がいくつか。


 この予選に使用するコートの上側(下段が一般観客席で上段がゲストルームなどという造りのコ-ト)、貴賓席のすぐ近くにて参加者を見物している者達がいた。その人物は格闘大会創始者バトメット。その彼の元にセイルグ(愛称セグ)がやって来て告げた。

「バトメット、参加者達のレベルが全体的に高い気がするな。そうだ、あなたの所に来たのは他でもない、客人が遠路はるばるお越しくださったお客人を連れてきたんだ」

 

 筋肉質のセグが、相当な修練を積んで格闘王に登りつめたバトメットのいる場所にやって来て客人をお連れしたと言う。セグに案内されて姿を現した客人が、バトメットにセグの評価を告げた。

「人間、鍛えていけば(・・・・・・)ここまでの強さを手に入れる事が可能なのかってなもんだ。良い側近を持っている」

 人間を観察して感心したような声を出しているゲストの人物。対面している客人はバトメットより若いようにしか見えない。それなのに全身から老滑でのらりくらりとした印象もある。客人のこの不思議な感覚は何なのか、それは『仮死の法』を使った人物だから。客人はいつもなら老師の姿をしている、それはどういう事か? 心臓を1年に10万回しか動かしていない普段は山奥の湧き水を遠くから眺めている老師が何故か若い姿で現れたのだ、今回大会に何かが起こるのか、それとも?


 そもそも客人の老師がどうこうという情報をまだ出していない、これから徐々に明らかにしていきたいと思う。早速少し情報提示。本人に聞いた信じがたい情報によると千五百年生き続けているのだとか。仮に『仮死の法』が真実だとすれば、肉体的には4、5年しか経過していない事になる。力強い瞳と極限まで絞りこまれた筋力バランスを見ると誤張ともいえないか……

「私が最終書類チェックを済ませたかったが予定より早くお越しいただけたな。さて、どうするか?」

「困ってんなら俺に任せておけよ。俺で手に負えそうになかったらフラナに頼っから」

「悪いな、助かる。ついでに予選終了用の書類をフラナに渡しておいてくれ」


 自分がやる予定だった仕事を代わりに終わらせてくれると聞いたバトメットはありがたく好意に甘えることにした。書類を手渡したセグに「頼んだぞ」と声をかけて見送る。

助力のおかげで客人と向き合うバトメット。この二人には相当深い何かがあるようだ。時を待たずして、この場に誰も近づけそうにない異様な雰囲気が支配する。両者の<気>のせいか、誰も容易に近づけそうにない。体感時間の長そうな気のはりつめあい。やがてバトメットが丁重に頭を下げた。

「久しぶりに会いましたね、清流さん。あの日に対峙して以来ですか!?」

 清流と呼ばれた者が堅苦しい口調はやめろと言って、滑らかな発音で返答した。

「そうなるな。お前が初対面の頃から人間の限界以上の強さを追い求めていたのを覚えているよ。どれくらい前だったか、俺の退屈しのぎになる格闘戦を見せてもらった覚えがある」

「懐かしい話です。前にも感じていたのですが、あなたは闘気を超越した名状しがたい気をお持ちですよね」

 バトメットは清流に実力を認められている。とはいえ、彼の強さに近づいているはずだという実感を持てない事実もあるのだが。彼がそんな焦りの色を覚えているのを知ってか知らずか清流が見抜く。

「お前に敵う存在がいなくなって力を持て余しているといったところか。仙人への道に踏み出した所だというのに」

 痛いところをつかれたバトメットは慌てて話題転換を試みる。清流の傍らにいる物静かな少年に気付いてそちらの方を向いた。

「えっと、そちらの少年はあなたとどういう関係ですか?」

 どういう関係か? と疑問符がついたのは、その少年が十代後半にしか見えなくて、清流という青年と兄弟のように見えたからである。

「なるほど、そう思うか。俺の身の周りの世話をする弟子で泉海いずみってやつだがな。修行を積ませている」

 

 バトメットが清流と話せているという事だけで感嘆に値するようで、どこかリスペクトしているような声色を発する泉海。

「あなたは人間離れした強さを持つ者なんですね、数多ある格闘競技の世界王者でも話せない清流様と苦もなく話せている所を見ると」

 そんな少年に対して清流が言う。

「そいつは総合格闘で誰の手にも負えない程の実力と天賦の才を身につけた。でも、元は人間なのだ、お前も至るかもしれない桁外れの闘気を感じさせてもらえ」

 少年が清流の言う事を聞くように返事した。

「人間以上の気ってものを知ってはいます。僕の力量がついてくれば清流さんと長時間会話可能な闘気の質量を理解出来ればと」

「わかった。それでは君が望んでいる力を感じてもらう事にするよ」

 気合を溜めて肉体全てからエネルギーをめぐらせていくかのようなバトメット。そこまでは人間の達人の仕草、最初から闘気が全身から立ち昇っている。そこまでは人間の達人レベルだ、体から幻想世界の恐ろしい生物が出現する幻覚を見せる程に膨張した力の波動を体内から放出するのというのが次の段階――これ以上期待するのは酷だという人間の限界。そのはずだが不敵な笑みを浮かべたバトメットがまだ余裕を残している様子で更に力を全身に集めていた。それで泉海が感じ取った気から読み取ったものはさながら龍のごとし。


「清流さんからは麒麟きりんのような神々しさを感じるのは普通だと思うけど、人間の限界を超えれば『龍』などのイメージを見せる事が可能だとわかりました。修業を続ける気が増しましたね」

 泉海とバトメットノやりとりを見ていて、清流がバトメットにそいつの相手を頼むわと態度で表している。別にずっと相手にするつもりはないとはいえ、泉海の人を見極める力はどうなんだろうと気になって格闘大会の展望を聞いた。

「そうですね、僕の考えではちょうど今、コロッセオのコートにいる人達は実力不足なんじゃないか~と感じます。でも、一人は違います。あのピンク色の髪の子なんかは別だね――あの女性なら良い線行くかもしれません」

 

 せっかく物珍しい場所に連れてきてもらったんだ。他にも――と、あんな強さの人達もいるんだってつぶやく彼の指差す先にはリオとファーディの姿が認められた。

「やはり目の付け所が違う。彼らは人に教える側なんだよ。1人は現格闘大会チャンピオンだから」

 


 控え室入口付近で話し込んでいる二人についてバトメットが清流へ何かを問いかけようとした時、またしても踊り子のような二人組がやって来た。バトメットは美しいアクセサリーがつけられている踊り子服に見とれてしまう。


「バトメット様、こちらのお席を用意していただいたのでお間違えありませんか?」

 どちらがどっちか不明な見目麗しい瓜二つの少女が声を重ねて挨拶した。

「この度は私達をここに呼んだ事に感謝申し上げます。申し遅れました、私の名前はミーニャ、この子はマアと言います。お見知りおきの程をお願いしますね」

 伝統舞踊の継承者だと名乗った二人、バトメットの傍らにいる美青年に気付いて更に深く頭を下げた。


「これはこれは――あなたはまさか清流様ですか、いえ、だけど……言い伝えの方のはずが?」

「伝統の踊り子か、随分昔に歌い舞う姿を見せてもらった覚えがあるな」

 流石、長きに渡る時を生きる清流。その交友関係は想像付かない! 様々な時代、様々な国に出会った者に覚えがあるのだ。格闘王バトメットは心底驚嘆し、尊敬の念を深くした。


 彼らは主催者のバトメットに改めて今日の予定を確認しにいった。

「お初にお目にかかります。本日はこの大会を見学させていただきますわ」

 声がシンクロした伝統舞踊の者達(と名乗るもの)にバトメットは会った事がある既視感を覚えた。

「あなた方にはどこかで!?」

 それに対して清流がこういう理由だろ? と推測する。

「格闘王。彼女らとは初対面のはずだ。もしかしたら俺がこのような人物との出会いを、という出会い話を聞かせた事があるからかもしれないな」

 格闘王バトメットは清流の仮説に納得した。




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