リオ 武術スクール編 2
模擬戦闘のつもりで見せなければいけない授業のお手本ではあったが、リオとメッレンの熱戦に触発されていそうな生徒がいるかもしれないのでそういう生徒っぽい者を中心にメッレンが教えを伝える。
「いつでも真剣勝負! その心構えは大事ですよ」
つつがなくカリキュラムを消化し終わったリオ達。この約1年間同じクラスの仲間との関係は良好なリオだが息抜きに遊んだり、休息を大切にしたい同じ志を持つ仲間とは違う行動をしていた。
◇
日課になっている放課後の自主トレでリオは1週間後にある『教官採用試験』がどういう事を合格の基準にしているか不明だが合格可能性の高める計画性を練る。
「ここの教官になった方が他格闘スクールの強者と対戦できるだろうしね」
健康的に体から雫を光らせているリオの元に、マントで顔を覆面のようにして顔を隠した人物が現れ、自分の部屋に戻ろうとしているリオの前に立ち塞がる。わかるのは声という判断材料からまず男だろうという事くらいだった。
「体格・適性等に問題はない。だがその程度ならお笑い草だな」
いきなり現れた人物に好き放題言われるのはリオにとっても苛立たしい事であったものの、これは相当な奴だぞと相手の力量を気から読み取る。
「くっ、これで倒す」
長槍の突き・なぎ払う・斬るという動作を熟練者っぽい相手の急所狙いで行ったのだが、まさかの鋼性三節棍の鎖部分にしっかり受け取められていた。
「まだ甘い」
相手に一言で決めつけられて、格闘スクールの主席として黙っていられなかったのでそれならと必勝の一撃を繰り出すつもりになる。
「この一撃なら。行くぞ、槍串……」
技名通り貫通させて謎の男の武器を使えなくするつもりだったのだが目にも留まらぬ速さで三節棍の鎖を巻きつけられて槍の攻撃速度を激減させられてしまった。プラスして三節棍を手甲の上から叩きつけられて衝撃で技も技名さえ言えずに不発させられたし、長槍を落とさせられてしまった。
武器を破壊されないだけマシだったかもしれないが、謎の男の行動理由が不明なのでリオは身構え直した。誰しも命を賭ける勝負をした場合は命を守るのは生存本能として当然であろう。リオのそんな無意識行動をただ一瞥して闘気を消した謎の男が一言だけつぶやいて去っていく。
「必殺の奥義は漢字通り確実な場面以外使うべきではない」
謎の男に去り際に言われた一言はリオの胸中に突き刺さる。リオはその存在をいぶがりつつも弱点対処の業をもっと意識する必要性を高めないといけないと意識が変わった。
『格闘スクール教官試験』までの約1週間、最近は晴天続きなのでバケツに水を入れてぬかるんだグラウンドを再現してみたりいつもと違う武器を使用する事を決めて長槍にはない戦術・戦略を体感したりして最終的にイメージの中で長槍の戦法に消化する。
そして、やるべき事をやって休息も十分にとったリオは自信を持って試験に望む。筆記試験の格闘に対する中級から上級の問題もリオにとっては知っていて当然の知識しかなかった。重要なのは実技試験である。どんな行動が求められているのかを答えなくてはいけないという試験が大半を占めているみたいだ。
実技試験の場合は知識で知っているだけでは意味がない。肝が座っている=胆力が充分でなければ実戦は厳しいだろう。これもリオならば問題ないはずだ。彼はどんな試験だろうとしっかりとこなせば問題ないはずであった。
ついリオがそう思ってしまったのには理由がある。まさか格闘スクールの『教官採用試験』で武器を指定されるとは思わなかった。理事長のメッレン自ら多種多様な武器を入れ込んでいるプラチナの入れ物の中から適当なエモノをつかみとり、リオに投げ渡してきたのである。それをしっかり正しく受け取った事も採点に値するようだ。
「もう始まっている訳だけど、さすがに油断していなかったようだね」
今回の武器はムチだった。射程範囲は中~遠距離、槍とリーチ的にかなり似通っている。どちらかといえばやりやすい武器なのでリオの運が良かったともいえる。
「教官ならどんな武器でも一定以上使えなければ話にならない。リオ君、教官になれる器か確かめさせてもらおう」
模擬戦闘の頃とは違う。例えるならパトリオープンで戦った時の緊張感に近い。肌で感じるそれにリオは喜びを覚えていた。
「この時のムチ軌道は……」
リオは実戦の中でも探求に余念がない。メッレン理事長自ら複数の状況を作り出し、それに対する最善の方法を示せればまず『教官採用試験』合格のつもりなんだろうと感じられた。
まず短剣や飛び道具を使用する相手ならどう対処するか?
逆に大剣やオノを振りかぶっている相手の武器のどこをムチで絡め取れば武器を落とせるか? あわよくば奪えるか
ムチは必殺の一撃が可能なのか、それとも相手を痛めつけるのがメイン!? それに対する解答をリオは行動で示す。
メッレン理事長の目に叶う……リオは期待通りの動きをしたと認めてもらえたようだ。『教官採用試験』合格! 晴れて教官に採用と決まった瞬間だった。




