決勝戦 1
試合当日 午後十二時四十分~
ファーディ登場の際の観客の声援の質に、リオは凄まじさを感じる。リオはファーディからの声かけに期待したが、願い届かず、コート場外の選手用椅子に座るのを確認した。気を取り直して、リオは改めてお守りに祈りを捧げる。
「ようっ、貧民の坊主。忘れていて悪かった」
一分にも満たない内に近くに来たファーディからの声がかかった。
「え? あのっ、特に気にしては…………」
「つもる話もあるだろうが次の機会にな」
リオが戸惑っている内に彼は所定の位置に戻っていった。開始直前、二人はコート中央に向い、儀礼の挨拶をする。
「三十・二十・十……、五・四・三………………」
観客からの試合開始までのカウントダウンがあり、審判の合図と共にリオが先手を取った。
長槍とファーディの持っている盾のぶつかり合う音が響く。リオは反撃の回避、ファーディは連撃を警戒して防御を優先させると二人とも読みが外れた。リオが風速の強い風圧をまとった長槍(リオの突きの速度でそう見えただけ)で突きを放つ。恐ろしい程にスピードが速い長槍をファーディは受け流して長槍の威力をそいだ。リオは長槍を上手くいなされたので反動を受け、体勢を崩されてファーディからの剣による鋭い一撃を食らう。
(これを食らったらもう終わっちゃう)
リオは武術経験者でも躱すのが難しい、武道の達人以外回避不可能なはずの攻撃を無理矢理回避して右腕の骨を痛めた。彼は起死回生をかけて長槍の強烈な一撃をファーディの肩に刺したが、ファーディからの一撃を脇腹に受けて痛み分けになる(ダメージはリオの方が重い)
リオは痛みをこらえるため全神経を長槍所持中の手に集中させた。攻撃を受けた脇腹がうずくが、右腕よりはマシなようである。予想以上のダメージ軽減に、リオは戦闘スキルの上達を実感して内心喜んでいた。王者ファーディがリオのことを見据え、先手をうちに来た。
(選択肢は多くない。でも勝利のためにはこの長槍を回転させ続けて、大逆転の一撃を警戒させ続けて大胆な策は出来ないと思わせないと)
リオの考えた作戦が功を奏する。ファーディの戦法が整うより前に、リオが隙をついて長槍を全力で投げつけた(武器を持たないということは、それだけ勝率が下がる)長槍がまるでミサイルかのように襲いかかる。ファーディの行動を先読みするかのごとく、リオが次の一手を狙いに動き出していた。
リオの決死の一撃にファーディは意表をつかれた。ファーディは回避より防御を優先させる。盾で防ぎきるつもりでいたが、衝撃がかなりのものであった。彼は受け流すか跳ね返すか少し迷う。だが、彼の体は迷うことなく受け流すことを選んでいた。盾の傾きで受け流されたリオの長槍が芝生に深く刺さる。ファーディは自分の瞬発的判断力に感謝した。だが、いつの間にか視線の先にいなくなっていたリオを見失う。準決勝のリオの戦法を元に上空に注意を向けたが、いなかった。ほんのわずか探し場所に迷った結果、油断(隙)が生じる。その時、死角から猛スピードで迫り来る人影が視界の隅に移った。
しかし、気付くのがタッチの差程度で遅い。すでにリオの力がこもった拳が肩甲骨近くに強く入った(今回のファーディの防具が胸当てな感じのため、肩が露出している部分がある)強烈な痛みをこらえつつもファーディは冷静な分析をする。体勢を建てなおされる前に、リオが立て続けにファーディの右腕を掴んだ。先程の一撃で傷んだ身体はファーディの思うように動かない。ファーディの左足にリオの右足がかかった。リオがキレイな投げを決める。バランスを失念したファーディの平衡感覚が悲鳴をあげていた。




