ラウンド2 準決勝 心構え 1
「待ってくれ。こんな時に引退しようとした非礼を詫びる。おまえとの十五勝同士の決着もある」
「お前にここ七試合連勝している俺にかなうかよ」
メッレンがファーディに宣言した。
「結果は二人して決勝進すればおのずとわかるか。この時代の"偉大な王"は一人だけで十分だからな」
やっとファーディが笑った。
「誰が今の"王"なのか教えてやるぜ」
リオはファーディを前にしてみっともなく逃げた自分を呪っている。選手として真っ向から堂堂と聞けばいいことを話せなかったことに対して。
「ううっ、くそ! ちくしょ――――――っ」
リオは情けない自分にカツを入れようと大声を出した。自分の控え室に近づく間にも悲しさを覚える。ファーディがお守りのことを忘れていたからだ。住んでいる世界が違うのかと考えた。マギーと同じように値のはる服(装備)を着ていた気がするからである。
だが、リオはその考えを振り払い、壁に八つ当たりした。
「何ならファーディのサインをもらうんだった。失敗したな」
落ち着いた所でリオは自分に用意された控え室のドアを開ける。すでに室内には親友と嫌味な教官がいた。
「お先にいたんですか、角居教官」
「あんたはなってないね。最低二時間前にはイメトレと実戦練習をしろといつも」
リオは逆らわないように殊勝な心がけで(実際は逆らうと面倒くさいし)謝罪する。
「返す言葉もないです。今から可能なことをして試合に備えます」
この教官からも普段、扱いをぞんざいにされているのでリオは反省しているフリをしたのだ。
(ゾン教官なら歓迎するのに)
この教官から文句を言われない内にとリオはすぐ鎧を装備したりした。リオはマギーが差し伸べてきた手に応じる。
「この広い室内なら武器をなじませるとか可能なことがいくつもありそうだけどね?」
リオは角居教官の嘆き節を聞いても武器(長槍)の練習のウオーミングアップ込みで三十分あれば最高の状態に持っていけるので邪魔をしてほしくなかった。角居教官が持論を実証しろと催促の視線を送ってくる。
(僕なりの練習方法があるといっても駄目だろうな)
リオが困ったと表情に出すと、マギーが助け舟を出してくれた。
「角居教官。うっかり忘れていましたけどさっき教官の指導方法を聞きたいと記者の方が」
「そうかい? じゃあ田中リオさん。しっかり」
控え室から出ていった角居教官が例えデマだと気づいてもあの人ならBMSの宣伝に利用すると想像できた。
「角居教官は持論を強要しすぎだね」
「田中リオさん。槍の練習をしなさいな」
マギーが角居教官のモノマネをするものだから、リオは本気で嫌がる。
「教官相手でも自分の意見を言えるようになれよな。勇気を持て!」
「そうだね。それで結構損しているかも」
後悔なんていつもの事だ。リオは話題を変えた。
「ゾン教官は?」
「パーラの控え室だよ」
マギーのパーラへの悪口はなかった。
「なかなかお前こないから気でも失っているのかと」
「ごめん。"元"王に勝利する算段を考えてて」
リオは母親の言葉を思い出して胸が熱くなる。
気持ちを楽にしてくれたので感謝もする。
「あまりに遅いから新聞記事を気にしてるのかと。『バトル・ニュース』は中立だけど、『ウィク・メモリ』の辞退すべきだったとか『スポート・スタッツ』のパーラ褒め、リオ潰しな記事に打ちのめされたのかと心配したよ」
マギーが自分のために怒ってくれている。それでリオは勇気数倍になる気持ちを感じた。
「その気持ちが嬉しいよ、マギー。僕は誰からも期待されてないしね。気にしないよ」
「久しぶりに前向きな発言をしたじゃないか」




