ラウンド2 準決勝前 2
母親はリオを優しく抱き寄せてリオの興奮を鎮めることに成功した。
「家族の心配をしてくれているんだね。大丈夫よ。何があっても立ち向かう力はある」
リオは母親に背中と首を優しく支えられて顔を上に向くように指で動かされる。
「堂堂としていればいいんだから」
「でも負けたらまた貧民としての扱いが……」
「そんなマネをされるいわれはないというのを実力で認めさせればいいの」
リオは母親に自分の正しさに自信をもつよう教えを確認させられた。
「貧民街出身はファーディも同じだもんね。何かスッキリしたよ」
「彼の方が私達より扱いが悪い場所からの成功者だものね。あんたは絶対を考えないと」
リオはしばらく母親にきつく抱きしめられる。
「このお守り、効果なくならないよね? どうも疑っちゃうんだ」
「あーあ。今ので効果三十%ダウンね。これは厳しくなってきたわ」
リオは母親の意地悪な答えに少し慌ててお守りに誓いを願い直す。
(メッレンに勝利、ファーディとの勝負を願って勝つぞ)
リオは誓いを新たにして、お守りをバックに入れて家を飛び出した。
『パトリ・オープン』会場控え室。メッレンがすでにスケルメイルとショルダーアーマーを準備中である。メッレンは昔なら五十キロの鎧でも苦がなかったのに、今は十キロでも大変だと思っていた。"引退"の二文字がちらつく。だが、メッレンは気持ちを奮い立たせて耐えた。
(ベテランの技が通用するか? パーラやリオ、彼ら若き才能は予想以上だと考えられるな)
メッレンにとっても今回の試合は正念場だ。彼は雑念をふり払った。"武器"と"闘争心"に集中する。
2.
十分後。リオはファーディの控え室が開いていたので声をかけて入ってからお守りを見せてみる。
「何だ? お守りか? くれるならありがたく」
「あっ……いや、そうじゃな…………ちょっ……」
「そいつは悪かった。ならサインでも……?」
そこにメッレンがやってきた。
「ファーディ、ゆっくり待ってやれ。って君はもしかしてファーディの話に出てくる?」
リオは恥ずかしくなって慌てて逃げた。
「ははっ、性格はわからないでもないけど何をして欲しいか言ってくれなきゃな」
「本当に他人は気にしないのな。彼も重要な一選手だよ」
メッレンはファーディをにらみつけてパーラとの勝負に関する気持ちを問う。
「ナーバスな気持ちなら大歓迎なんだが」
「俺が初出場の奴になんか負けるかよ」
「初出場優勝したのは誰だったかな?」
ファーディが何か言いたそうにしつつも、ただメッレンを見つめた。
「言いたいことがあるならはっきり言え! 引退を撤回しろだの相談なしにとかは聞く気はない」
「決意を変える人じゃないって知ってるさ。卑怯者だが」
卑怯者といわれたことをメッレンは自業自得だとわかっていた。
「ああ、パーティに何も教えずに連れて行った件ね。そうじゃないと来なかっただろ?」
メッレンはファーディを連れて貴族の社交パーティに出席させたのだ。メッレンはファーディにもどの貴族がスポンサーにふさわしいか見てもらいたかったのである。
「武術スクール創設の助力をしてくれねえのか」
「それはない。だが、少しはこっちの話も……」
続けてメッレンが武術スクールを創設しようとしている理由を語った。
「まぁ聞け。俺は金がないと武術スクールに入れない壁だと経験したんだ。だからこそ誰でも入学可能なスクールを創設するつもりさ」
ファーディはメッレンの考え方の間違えに軽く怒りを全面に出す。
「スクールの話は賛成だ。でも俺が言いたいのはお前の引退話に取り乱したかってこと」
メッレンが彼の問いかけを茶化す感じで聞き返した。
「それはこれからするだろ?」
「まじめに答えろ!」
ファーディの真剣な視線にメッレンは顔を見つめ返せなかった。
「パーティの時はずっと嫌でもいてくれたじゃないか」
「自分の気持に素直な方が良かったぜ。お前の態度に傷つけられたからな。だが、赦す。今のお前は冷静じゃないからよ」
ファーディが気を静めるためか部屋から出ようとする。




