格闘大会1回戦終了後 店で騒ぐ、親友・父との絆
『ラウンド1 第7節』
「おっ、小僧達来たな! 貧相な面を見せに」
店の店長がいつも通りおちょくり接客をしてくる。誰にでもそうだ。なので店長には『あっかんべー』を返した。それから奥の二人がけの空席を見つけてマギーと座る。
「いらっしゃい。そしておめでとう、リオ」
顔見知りのウエイトレスが声をかけてきた。この店の看板娘、アメリアがよく通る声で大会のことを聞いてくる。
「あのデカブツを一撃らしいわね? 信じられない!」
「僕……もだよ」
リオは照れくさそうに応えた。
「照れるな、少年。それで今日の注文は?」
二人は同じ物を注文した。"ビワのパイ"と "パインアイス"。
「私がおごってあげる」
アメリアは笑顔をリオに向け、店長に注文を大声で伝えた。この店は『パトリ・オープン』の時に限り混みあう。今までの格闘選手のサインが所狭しと壁に飾られているのも格闘ファンの目当てだろう。それよりも格闘ファン達の一押しは昔、ファーディがお客さんの横柄な態度に怒って破壊した壁である。店長はそれにかこつけて壁の修理をろくにせずに「格闘家が店内に潜んでいる」「荒くれ者には要注意」との嘘八百な張り紙をつけ続けていた。
店長が自ら注文の品を持ってきて机の上に置いた。
「お金は店の連中で割り勘する。どうせなら超スッパイ・ケーキをつけてやるぞ」
「勘弁してよ」
店長がおごりの約束を陽気にしてくれたので、超スッパイ・ケーキには露骨に嫌な顔をしつつもお礼をする。
「好意、ありがたく頂きます。店長!」
「礼を言うのはこっち……」
店長の言葉をたまたま遮る形で、そこにメーリ(アメリアの愛称)から声をかけられる。リオは若くて好みの少女が笑顔で手を降ってきたのでドキドキした。
他のお客さんの声に紛れて何を言っているのか聞き取れないが、祝福してもらえたのは間違いない。リオはその少女に控えめに笑顔を返して目立たないようにメニューで顔を隠した。
「堂堂としろ!」
「まだ一回戦に勝っただけじゃないか」
「何だって?」
店長がリオの物言いに語気を荒げる。
「パトリ・オープンの勝利がどれだけすごいことかわかってねえな。そもそも…………」
リオは聞こえないフリをした。店長は他のお客さんから次次と注文が入ってくるので話の腰を折られたことに対して舌打ちする。彼は戻り際に大声で叫んだ。
「次はもっと荒っぽい歓迎になるかもな」
「お前、それだけ期待されてるんだよ」
店長と親友マギーに褒められて(二人はリオの照れ具合を面白がってはやし立てている感もあるが)リオは恥ずかしがる。リオは今、マギーにパーラの勝敗を聞いて結果を知った。それより今のリオは相手のデカブツを倒した余韻をまだ味わっていた。
「お前、まだあいつを倒した実感がないだろ。間違いなく俺もこの目ではっきり見たからな」
意味が無いと自覚しているのにリオは、マギーに世界ランクの話を振る。
「でもマギー、あいつ世界ランク三十位だよ
「パーラは十六位。でも三位に勝ったから七位くらいにはなるかもな。ちなみにお前は百二十六位から五十八位にジャンプアップだ」
リオはマギーに最新ランキング表を渡されて、話題を変えられた。
「パーラは攻撃をうまく攻撃を回避する奴なんだ」
「自信なくしちゃうよ」
「パーラは確かに天性の才能があってむかつく。でもお前は不公平だと思うなよ。強いのはお前なんだから」