リオ1回戦後 ファーディの話 3
リオの名前を書き殴ると一息ついてから護衛を呼んでリストを渡した上で役員を病院に連れて行かせる。
「……理由はくだらないだろ? 俺は誰も推薦すべきじゃなかった。推薦状を破り捨てるべきだったんだよな」
馬車は郊外に向かって走っている。メッレンが流行遅れのタキシードを選択したからまだ慈善パーティに参加すると予測した。
「その役員の面白話以外はどうだっていい話だったろ? え?」
メッレンはすでに興味がなさそうである。
「否定は出来ない。たしかにそのリオへの観客の反応は彼を威圧していたぞ。同情はするが辞退するのが自然の流れだからな」
「悪いのは推薦した俺なんだろ」
メッレンが肩をすくめて言う。
「人の話は最後まで聞くもんだ」
ファーディはうめいた。リオの話を聞く。
「試合はたった一撃で終わったんだ。相手はほらっ、世界ランク三十位程のデカブツ(興味なし)。あいつが無名の選手なんて冗談だろって試合だったぜ」
「それはBMSにいるからだろ。パーラ以外にはチャンスを与える気さえないと噂されているからな」
「それならお前のおかげだ。チャンスはお前の気まぐれだが観客も、そして俺も彼と戦えることを楽しみに出来る。わくわくするぜ」
ファーディがその話と次の対戦相手に無関心でいる。
そこをメッレンに、頭を指でこづかれた。
「つまらなそうな目はすべての景色をくすんで見せるぞ。やめておけよ?」
メッレンがファーディの心配を吹き飛ばそうと笑いかける。
「裏切り者なら、バウアー・ナグを推薦にしただろ。気にするな」
ファーディは自分のマヌケさ加減が嫌になると嘆いた。
「いつも貧民に気を配る? 無理だ。仮に皇帝だろうと時には羽目を外すぞ、柔軟にな」
「考え方が……なかなか……なっ」
続けてメッレンが例え話で話を続ける。
「例えばこの推薦は貧民にもチャンスを広げる転機になったとかな。誇りを持て!」
理由は不明だが、メッレンに褒められると嬉しくなる。ファーディは感謝の印として手を差し出した。
「お前に味方してもらえるのは心強い」
「友情の握手ってか!」
馬車が通る少し先の建物にファーディがしみじみ言う。
「懐かしい店だ」
ファーディの近くに来てメッレンが尋ねる。
「どの建物だよ?」
ファーディがその建物を指差して教えた。
「すぐそこの。昔にバイトしていた店なんだ、格闘ファンのための店。店にお前の肖像画があってな、俺はソレに頂点に追いつく決意を超スッパイビワ(実は梅)ケーキ作りをしながら誓っていたもんさ」
その店を見つめたまま思い出し笑いする。
「今でもスッパイのが見たくもなくなる味なんだろうな。梅干し口一杯に入れられたくらいのスッパさで感覚マヒを起こした……か」
「俺はお前がそれくらいだった頃、現役だったよな」
「何言っているんだ。まだ今でも三十四歳だろ。ビワケーキのネタ、面白くなかったか?」
メッレンがふざけたことを言っていると感じて、ファーディがそんなことを言うなよといった感じになった。
「思い出のAコートで再び相まみえよう」
「思い出ぇ!? 引退するんじゃあるまいしよ」
メッレンに顔を向ける直前、店<店名 スーヤコ>に入ろうとしている少年が目に入った。活発そうな短髪君が長い柄のもの(槍?)を持っている。格闘の聖地で闘うのを夢見ていそうである。彼らに実力を試す機会を。どんな形であっても。ファーディはメッレンに微笑みかけ、本音を言った。
「もしかしたら彼らが同じコートに立つ日があるかもな。そうなってほしいぜ。違うか?」
「そうだな。いい方向に向かっているはずさ。そうは見えなくともな」
メッレンはファーディをじっと見つめながら答えた。何かを懐かしむように。
編集作業中のため、読んでくださっている方がいらしたら申し訳ありません(汗)