第十二話 死がもたらす恩恵
「以上のように、現在ゼインクル領ではすでに【妖魔】と土地の死によって壊滅状態にある集落が多数出ており、その数は直接確認できた三十七集落のうちだけでも二十七。また、壊滅に至らないものも含めるなら、妖魔のものと思われる破壊の痕跡があった集落は二十八、作物の生育に影響がみられた集落は三十二に上っており――」
「ああ、失礼」
会議の席で、資料を片手に現状を報告するエルヴィスに対して、もう何度目になるかもわからない横槍が入る。
もういっそ無視してしまおうかとも思ったが、流石にそれをやると相手の思うつぼだと思いなおして相手の貴族の質問を受け付ける。
その相手が宰相アルドヘルムの手のものであった時点で、その質問もその意図も見え透いていたくらいだったが、やはりというべきか、投げかけられた質問は酷くくだらない物だった。
「確認できた、と申されておりましたが、それはクロフォード卿ご本人が直接確認されたのですかな?」
「調査は我がクロフォード家騎士団のものと、ゼインクル領に駐留する北方騎士団が合同で行っております」
一人の人間が全部見て回れるわけないだろうがと思いながら、それを隠してエルヴィスは回答する。他にも聞けることはあるだろうに、先ほどから行われるのは普通に考えればわかるような、する意味の無い嫌がらせのような質問ばかりだった。
かと思えば、時折本命とも言える、隙を突くような質問も発せられるから侮れない。
「妖魔による破壊の痕跡、とおっしゃいましたが、その定義は?」
「確認した作物の種類は?」
「集落への影響は皆一様だったのですか?」
「パスラの毒物によるものという可能性もある。井戸水は調べたのですか?」
まあ、エルヴィスとして学者である。農作物の不作についてだけなら、冷害をはじめとするさまざまな別の原因を思いついていたし、可能性をつぶすうえでもそれらの情報を決して採取しなかったわけではない。
だがそれらが原因ではないことはすでに説明した範囲で分かるはずだし、実際相手もわかってはいるのだが、それでも隙あらば原因を別のものとすり替えようとする質問は後を絶たなかった。
それは他の原因が考えにくい、直接的な破壊である【妖魔】の痕跡についても同様だった。
いや、むしろこちらの方が現象としては新しい分そういった働きかけは露骨だったと言えるかもしれない。
「その現象は本当に魔術ではないのですか? 何らかの魔術によるものでは?」
「隣国パスラの新兵器という可能性の方が高いのでは?」
「確かうちの国でも生物に直接魔方陣を刻み込む研究があったはず……」
爵位の高いエルヴィスの証言を直接疑う発言こそなかったものの、口々に発せられる言葉はやはりというべきか、隣国パスラの作った新兵器なのではないかという意見が多数を占めていた。ある種現実的な意見ではあるものの、原因となる【妖属性】が【死属性】から変質したものであるとするエルヴィスの調査結果からはやはり対立する形の意見である。
現在、この会議室内には大きく分けて三つの勢力が存在している。
一つは宰相、アルドヘルム・ベルト・オールディスを中心とする一派。四大貴族の一角であるオールディス家に追従する者達で、この場で最も人数が多く、要職についているものもやはり最も多い。
それに続くのはその政敵とも言えるポスフォード家当主、フィンレイ・ポスフォードを中心とする一派。こちらも四大貴族の一つであるポスフォード家に追従する一派であるため勢力としては数も多いが、オールディス家を中心とする一派と比べると権力や人数で若干劣り、この一派に所属していたパイアス・マコーマック氏がゼインクルで不祥事を起こして死亡したため、今回の事件でも劣勢に立たされる立場となっている勢力だ。
そして、最後に来るのがエルヴィスを中心とする一派。こちらは改革を推し進めていた一派が最近エルヴィス・クロフォードをトップに迎えて集まっている勢力で、その影響力はまだそれほど大きくはない。どうかすると、その他大勢という括りで括られてしまいそうなほどだった。
そんな三勢力が、今この室内で皇帝アンスガー・ノール・フラリア立ち合いの元、昨今ゼインクルで起きていた農作物の不作と、【妖魔】と名付けられた怪物騒ぎについての対応策を会議検討している。ただし、それは表向きの名目であり、エルヴィスに言わせればここでの話し合いはこの問題を名目にした醜い権力争いだった。
三派のこの場での立ち位置は明白だ。
まずエルヴィス率いるクロフォード派は今回の騒ぎを治めるため、少しでも解決の糸口となる具体策を多勢力に認めさせたいと考えている。ある種最もまともな感覚を持っていると言えるはずの一派だが、生憎とこの会談の場では最も少数派と言える集団だった。エルヴィス個人としては【妖魔】の発生原因ともなっている【妖属性】の魔力、およびその前身でもある【死属性】魔力の周辺環境に与える影響を訴えることで【死属性】の使用禁止へとつなげたいところだったが、しかし今回はさすがにそこまでできないこともわかっているつもりだった。結果として彼の立場は、まずは事態の鎮静化を最優先する形にとどまっている。
次に、ポスフォード家率いる一派だが、こちらは前述したように、ゼインクルの執政官をしていたパイアス・マコーマック氏が領内で起きていた問題を隠ぺいしていたため、彼を推挙したポスフォード陣営がその責任を問われている形だった。
彼らとしてはその責任追及から逃れるため、そもそもの原因である【死属性】及びその開発・運用を行っていたオールディス一派に責任を擦り付けたいと考えているようだが、同じく今回の事態の原因を【死属性】であるとするクロフォード家とは、事態発覚の際の確執もあってうまく連携が取れずにいる。エルヴィスなどから見れば完全な逆恨みなのだが、相手方にはエルヴィスの行動が今回の事態の発覚を招いたと考えるものも少なくなく、表には出されていないものの恨みに近い感情を抱かれていることは何となく察せられていた。
そして、この場にいる最大勢力。すなわちオールディス宰相派の示す姿勢は、ここまでくればもう明白だ。
すべての原因が【死属性】魔力であるとするクロフォード家の報告に疑問をぶつけ、他の可能性も提示して、今回の事態を“原因の特定ができたもの”から“原因不明の事態”へと貶める。ではなぜ原因がわからないのかという疑問に対し執政官・パイアス・マコーマックが隠ぺいしていたからだという回答を提示する。後は、では誰がパイアスを指名したのかという話に事態を持って行き、今回の事件の責任をポスフォード陣営にかぶせるつもりなのだ。
(調査が十分になされる前に急ぎ我々を呼び戻したのも、そのためなんだろうしね……)
原因不明のうちは彼らにも油断があったのだろう。ただの冷害による飢饉か何かだと思い、それを隠していると思しきパイアスの所業を暴けると踏んで、彼らはエルヴィスの調査を後押ししていた。
だが漏れ伝わる情報から原因が【死属性】の可能性があると知って、彼らは急遽エルヴィスたちを呼び戻し、具体的に原因の証明がなされる前に事態を原因不明に仕立て上げることにした。原因が【死属性】となってしまえば自分たちにも責任追及が及ぶが、原因がわからないままなら『執政官の隠ぺいのせいで原因究明もおぼつかない』と言ってその責任を押し付けられるからだ。
そして実際、そんな彼らの思惑は業腹なことにうまくいきかけている。
「しかしながらこの状況、自分めも同じ魔学者として少々気になるところではありますな」
そんな、自身の劣勢に、エルヴィスが内心で必死に舌打ちを堪えていたときのことである。一人の男が、まるで喧噪の隙をつくかのようにそんな発言を投げ込んだのは。
(……?)
反射的に周囲がその人物へと視線を向ける。エルヴィスもこの時ばかりは周囲に合わせるように視線を向けて、直後に発言の主が誰かを知って怪訝な表情を浮かべることとなった。これについては、他の貴族達もやはり同じであったことだろう。それくらいにこの発言の主は、周囲から発言を予想されていない人物だった。
「トドリ、シラム、タキアス近郊。確かに、この書類上で書かれている被害地域は【死属性】魔術が使われた場所ですな。妖魔の出現場所は、確かにこれらの場所を中心にしているようにも見える」
「ミューアヘド博士、私には貴方が、少し何を言いたいかがわかりかねるのですが」
男の勝手な発言に対し、付近に座る別の男がたしなめるようにそう横やりを入れ、それに同調したかのように付近の貴族達が再び喧噪で場を満たすべく騒ぎ始める。
この場でのこの発言は、この男の組する陣営にとって明らかに不利に働きかねない発言だ。これがエルヴィスやポスフォードの陣営からの発言だったならばいざ知らず、よりにもよってこの男からの発言だったというのだからなおさらである。
「いやなに、単にこの資料からだとそうとも読み取れる、というだけのことです。失礼ながら、この資料だけではまだ客観的な情報が不足しているようご様子ですし、ただそうとも取れるというそれだけのこと……。ただ、それでもやはり気になるのが人というものでございましょう。なにしろ、【死属性】とその魔剣【致死要因】を開発いたしましたのは、誰有ろうこの私めなのですから」
陰鬱で、どこか不快感を覚える声で、男は周囲へと言い聞かせるようにそう発言する。不快感を覚える、というのは、なにもエルヴィスに限った話ではない。隠すつもりはあったようであまり露骨にはならなかったが、この場にいた貴族たちからは敵味方を問わず、この発言に対する不快感が雰囲気として発せられていた。
ベイジル・ミューアヘッド。タダツグと同じ黒い髪の持ち主でありながら、忠継とは正反対の陰鬱な、あるいは陰険な雰囲気を放つこの男こそが、エルヴィスが何としてでも排除しようと画策する【死属性】魔術の、その基盤となる術式を開発した張本人なのである。
今回この男がこの会議の場への出席を許されているのは、やはり開発者としての立場によるところが大きかったのだが、しかしそんな男が、よりにもよって【死属性】魔術による副作用を認めかねない発言をしているのである。彼のそんな行動を、同じ陣営に属する周囲が面白く思わないのは当然の反応だった。
一方で、では自分たちに有利になる発言を引き出せたエルヴィスたちはポスフォード一派が、この状況をもろ手を挙げて歓迎できるかというと、それはそれでまた話が別になって来る。
(……どういうつもりだ?)
意図を掴みかねる。エルヴィスたちの抱いた疑念は、まさしくその一語に終始する。
実際、ベイジルの発言はこの場ではエルヴィスたちに利する形にはなっても、【死属性】、ひいてはオールディス一派に利することは有り得ない。もしも好意的に解釈するならば、ベイジル・ミューアヘッドが今回の事態に何らかの責任を感じて今の発言をしたとみることもできなくはないが、その考えが間違っていることだけは、この場の誰もが知っている。
とは言え、ベイジルの発言がオールディス一派に対して隙を生じさせたのもまた事実。
「これはこれは。さすがは高名なミューアヘッド博士だ。なかなかに公平な視点から物を言われる」
内心の動揺はおくびにも出さず、いかにも感心しましたといった様子でポスフォード家当主、フィンレイ・ポスフォードがそんな声を上げる。
彼にしてみれば、事情はどうあれ今は劣勢を覆す好機だ。内心では恐らく、警戒しつつも小躍りしながら今の発言に飛びついていることだろう。一派を率いる立場にいる彼自身が発言し始めたのがそのいい証拠だった。
「しかしながらポスフォード卿。ゼインクルの異変の正体に関してはいまだ原因不明のままです。【死属性】の関与にいたしましてもまだ根拠のない憶測の段階にすぎません」
「だが、“関与していない”証拠もない、そうではありませんかな?」
とっさに発言した貴族の言葉をそう言って一蹴し、フィンレイは余裕を見せるように己の髭をなでる。
フィンレイは今でこそ勢いを削がれているとはいえ、四大貴族・ポスフォード公爵家の当主だ。いかに敵対する陣営に属しているとは言っても、爵位で劣るそこらの貴族では不用意に発言できない分少々不利に見える。
もっとも、そんな身分や爵位の問題はおろか、自陣の思惑をも無視して発言する者もここに入るのだが。
「さようでございます。確かにポスフォード卿の言う通り、今はまだ情報不足にて、【死属性】を可能性のうちより除外することはできますまい」
「ミューアヘッド博士、貴方まで何を――」
「しからばここは一つの方策として、いえ、むしろ当然すべきこととして、クロフォード卿の仮説が真実であるか、実際に検証してみる必要があるのではないでしょうか?」
「……ほう?」
ベイジルの発言に、フィンレイはさも興味を引かれたというように髭をなでながら吐息を漏らす。内心ではいまだ本心の見えないベイジルを不審に思っているだろうが、逆に言えばまだ彼はベイジルの発言の裏を探っている段階であったために冷静でいられた。
むしろ心穏やかではいられなかったのはエルヴィスの方である。事ここに至って、ベイジルの独自のたくらみに気付いてしまったエルヴィスの内面は、彼にしては珍しく悪い方向へと激しく波打っていた。
(……まさか、こいつ……!!)
気付いたその瞬間、まるでベイジルもエルヴィスが気付いたことを察したかのように視線を向け、直後に薄くわずかに『ニヤリ』と笑う。だがそれも一瞬のこと、ベイジルはすぐさま真剣な顔へと表情を戻すと、さも『今気が付いた』という態度と表情を作り、明らかに狙っていた方向へと話を進め始めた。
「いや、しかしそうですな。これは私の考えがいたりませんでした。よくよく考えてみれば【致死要因】は今や国防の要。いかな事情であろうとも、軽々しく実験のために持ち出せるものではありませんでした。……いや、まあ、もしも二本目か、あるいはそれに準ずる術式の準備を許可いただけるのであればそちらを使うという手もあるのですが……」
声はなく、しかし明らかな空気の変化が、ベイジルの言葉によって部屋の中へと現れる。
【死属性】魔力を操るための、現状ではたった一本しかない剣、魔剣【致死要因】。
それを新たに作るという案件は、これまでにも様々な場で考えられながら、しかし様々な利害や、勢力間の駆け引きもあって、決して話し合われることの無かった案件だった。
その場にいる全員が、新たなる【致死要因】の生産という現象によって何が起きるのか、そして自分達に、それによってどんな利害があるのかを頭の中で計算しながら、おのずとその視線をこの場にいる一人の男へと向ける。
ここまでくればはたから見ていても分かる、ベイジル・ミューアヘッドの暴走というこの事態。【致死要因】の開発者という奇妙に強い立場を持つこの男を唯一諌めることができるのは、彼の直属の上司でもある宰相、アルドヘルム・ベルト・オールディスだけだった。
「ベイジル」
「……は」
すでに五十を過ぎているというのに、衰えることの無いその鋭い眼光。威厳というよりも威圧感と言った方がいい、見るものすべてを屈服させるような、そんな雰囲気を放ちながら、しかし言葉だけは淡々と、己の部下を家名ではなく名前で呼んで、あまりにも静かにベイジルの暴走に歯止めをかける。
「ベイジル、貴様の言いたいことはよくわかった。確かに第二の【致死要因】の作成は多くの利点を持つ重大な案件だ」
「はは……!!」
「だが知っての通り、【致死要因】の量産はかの魔剣の持つ絶大な威力ゆえに非常に微妙な案件でもある。
故にだ。この案件は我々だけで軽々に決めていいものではないと私は考える。ここはひとつ陛下のご意見を賜るべきではないだろうか?」
(……やはりそう来るか)
いつかは来るだろうと予想していた状況に、エルヴィスは会談を行っていた部屋の奥、一段高くなった壇上の席に座る皇帝の元へと視線を向けた。
エルヴィス・クロフォードとて、決して高い勝算を持ってしてこの場に出席したわけではない。
もちろん、望む方向へと話を持って行けたのならばそれに越したことはなかったが、しかしそうはならないだろうことはエルヴィス自身がよくわかっていた。
その理由はいくつもあるが、その最たるものがこの皇帝、アンスガー・ノール・フラリアの存在である。
「は、話はよく分かった」
厳かな雰囲気、を出そうとして声の上ずりで失敗しながら、アンスガーは心なしか視線を正してそう発言する。
小太りで、しかし眼が小さく、頼りなさげに見える顔立ち。
そしてその外見が、決して皇帝たる彼の中身を裏切らないものであることは、残念ながらこの場にいる全員が知ってしまっている。
「ま、まずはクロフォード公爵。此度の一件、大義であった」
「……ありがたきお言葉」
心にもない言葉と共に頭を下げながら、エルヴィスはそっと、先ほどからアンスガーがチラチラと視線を向けている、アルドヘルムとその側近たちの方を観察する。
通常、魔術を使う際に魔方陣の展開に使用するマーキングスキルを“秘密の会話”に使うというのは、政治の世界に置いてもよくある常套手段だ。空中に微弱な魔力によって文字を書くこの能力は、紙やペンなどなくとも簡単に行えて、なおかつ自然と消滅、もしくは書いた人間の意思で消してしまえるため証拠も残らないため、こうした政治や商取引の場で他人に聞かれたくない会話をする際頻繁に利用されている。
チラチラと、アルドヘルムのいるテーブルの、他からは見えない死角へと視線を飛ばすアンスガーの様子を見れば、二人の間で何らかのやり取りしているのは明らかだ。この場ではだれもがそのことに気付いてはいるだろうが、まさかそれを咎めることのできる人間がいるとも思えない。
「――というわけだが、し、しかしやはり【致死要因】の制作は慎重に慎重を期さねばならない重大な問題。ゆ、故に。やはりここはひとまずゼインクルに軍を送って事態の鎮静化を図りつつ、同時に現地での調査を行い原因を特定すべきと余は、か、考える」
先にエルヴィス自身が予想していた終着地点。それを皇帝自身が現実の言葉として提案したことで、話し合いの場が一気に決着へと向かい始める。
これで今回の事案は、ほぼ間違いなく宰相アルドヘルムの息のかかった軍が解決へと動き、事態の調査結果は事実と大きくずれた形で報告されて【死属性】の関与を否定することになるだろう。
クロフォード家の方には大した悪影響はなく、むしろ今回の事態の早期発見の功を認められることになるかもしれないが、しかし宰相と対立するポスフォード家はパイアス・マコーマックの指名責任を押し付けられて権力を削られ、代わりにますます宰相率いるオールディス家がその分の権力を強める結果となる。
予測はしていた悪い事態が、ほぼそのままの形で現実になってしまった形である。
(やはり皇帝を手中に収められてはどうにもならないか)
顔に出てしまわないように悔しさを噛み締めながら、エルヴィスは少しでも状況をいい方向へと動かせないかと、ゼインクルと【死属性】への今後の対応を頭の中で吟味する。
同時にエルヴィスは、より事態をややこしくしている男の元へと注意を向ける。
(……ベイジル・ミューアヘッド)
エルヴィスが危険視する、【死属性】魔力の変換術式を、事実上たった一人で開発した男。
魔学者としては優秀なのだろう。同じ学者であるエルヴィスも、そのこと自体は早い段階から認めている。
だが今回のことで分かった。この男は魔学者ではあっても賢者ではなく野心家だ。それも事前に聞いていたよりも度を越えた、宰相であるアルドヘルムですら御しきれていないくらいの。
(この男の野心が、付け入る隙を生んでくれるならそれでもいいが、もしそうならなければ……)
不吉な予感に応えるように、死の恩恵を受ける男が、暗く密かにほくそ笑む。
もしも【死属性】を開発したのが、この男以外の誰かであったならばと、そう思ってしまうような笑みだった。
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