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故国に捧ぐカタナ  作者: 数札霜月
第二章 忠
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第十一話 舞台の外の平穏

 お久しぶり、そしてメリークリスマスです皆様。

アネット・モランがこのクロフォード家に仕えるようになって、すでに五十日が経過した。

当初こそ自分のような農村の田舎娘が大貴族に仕えるなどとても務めきれないのではないかと恐れていたアネットだったが、人間教え込まれれば意外に仕事も覚えるようで、最近では今の仕事にも多少の慣れを覚えてきたところだった。

アネットがこの屋敷に来てから覚えたことは非常に多い。特にゼインクルにある村にいた時には到底触れることがなかった学問に多く触れることになったという意味では、この家での暮らしは相当に充実したものだったと言える。

 ただし気をつけねばならない。アネットが今いるこの貴族の屋敷は、そんじょそこらの貴族等及びもつかない大貴族の屋敷であると同時に、大貴族にあるまじき人格破綻者が統べる魔窟でもあるのだ。確かに有用な知識を覚えることはできたが、しかし実際に覚えた知識のうち何割かに、“突発的な魔術事故からの身の守り方”やら、“とっさに使える防御魔術”、さらには“屋敷内の危険地帯”などの知識が含まれているのは流石にどうかと思うのだ。心の底から痛烈に、こんな殺伐とした知識ばかり増える大貴族邸宅はここ以外にはないと信じたい。

 そしてできれば誰か教えてくれるとありがたい。目の前で起きている異常事態が、本当は農村出身の小娘には及びもつかない高貴な立場のものたちにとっては常識的な振る舞いなのか、それとも本物のこの家特有の異常事態なのかを。


 たとえば、目の前で皿をじっと睨み、 二本の棒で豆粒をつかみ取ろうと四苦八苦している令嬢はどちらなのかを。


「……えっと」


 食堂に入り、目に飛び込んできた光景に、アネットはしばし頭の中で吟味する。

 この屋敷の中において、起きていることを当然のことと考えることは非常に危険だ。まずは周囲を見渡して、この光景が当然のものなのかどうかをつぶさに判断しなければならない。

 そして今回はすぐに理解できた。奇妙な道具で奇妙な真似をしている屋敷の令嬢の正面にもう一人、それに勝るとも劣らない変わり者の騎士、否武士が一人、同じような二本の棒を握っていたのだから。


(ああ、これもきっと変わった光景なんでしょうね……)


 目の前の不可解な光景に、アネットは諦観の念とともにそう結論付ける。

 見ればその武士、タダツグは、エミリアの対面で二本の棒を巧みに操り、目の前の皿の上に乗った食事を摘み取っては次々に口に運んでいる。あんな使いにくそうなものでなぜ食事などとっているのかは激しく疑問だったが、日ごろ武術の鍛錬に余念のない彼のことだ、恐らくはあれも何か武術に使う鍛錬なのかもしれない。見かけるたびになんとなく目で追っているので、彼の一日がかなりの割合で武術の鍛錬に傾けられていることを、アネットはすでに知っている。

 そんな風に、幸か不幸か少し見ただけでこの珍妙な光景の意味が出理解できる位には、アネットもこの屋敷になじみ始めていた。

 ただし、彼女の判断力はまだまだ甘い。よく訓練されたクロフォード家の使用人は、その判断を下した上で関わらないように逃走までをこなすのだ。


「あら、アネットさん、“お一人”ですか?」


「え?」


 言われ、周囲を見回して初めて気が付いた。一緒に来たはずの数人の先輩たち、つい先ほどまで一緒にいたはずの彼女らの姿が、忽然とその姿をくらましていることに。

 いや、一人見つけた。食堂に続く廊下の角で、今まさに『あ、忘れてきた』という表情でこちらを見返すその一人が、しかしすぐさま顔の前に祈祷円を出してこちらに手を合わせるのが。


(い、生贄!? わ、私っ、生贄!?)


 ようやく現状を認識して慌てるがすでに遅い。すでにエミリアは席を立ち、こちらの目の前まで近寄ってアネットの両手を拾い上げている。


「ちょうどよかったです!! ぜひ私以外の誰かにも試してもらいたいと思っていたものが有ったので!!」


 『ああこの人、高貴な身分のはずなのに身分の低い相手の手とか平気で握るんだなぁ』などと半ば現実逃避染みたことを考えながら、アネットはどう考えても場違いな武士と貴族の食卓へと引きずり込まれていった。


 幸なのか不幸なのかは、必ずしも断定できないまま。






 クロフォード家に仕える騎士・使用人・兵士たちにとって、現当主エルヴィスやその妹エミリアの『試してみてください』と言う言葉ほど恐ろしい言葉は無い。

 当主達自らが趣味によって数々の優れた魔術を開発し、それによって目覚ましい経済的な発展に成功したクロフォード家ではあるが、しかしその発展の陰には、兄妹が新たに開発した魔術を最初に“試す羽目になった”不運な騎士や使用人たちの存在が確かにあったのだ。

 基本的に、兄妹の開発する魔術の試験運用を任されるとろくなことにならない。これはクロフォード家に仕える者達が、自身の経験則によっていたる共通の結論である。

 もちろん、兄妹の開発する魔術には成功作もあるし、そういった成功例の魔術を最初に使えるというのは学術的な意味で運がいいのだが、しかし一つの成功に至るためにかなりの数の失敗作が必要であるのだと、そんなことを無学な者ですら理解できるほどには、基本的にこの魔術の試用には失敗の方が多い。


 それでなくとも、基本的にこの二人の魔術実験に関わるとろくなことがない。


 例えばつい最近にも、実験の真っ最中だった当主を呼びに行った侍女二人のうち一人が、高濃度の暴走した魔力を浴びて昏倒した。

 その前には、何人かの騎士が【空圧砲(エア・バスター)】なる新作術式を的めがけて撃ちこもうとして、逆に反動で騎士たちの方がぶっ飛んだ。

 いずれも前者は魔力に酔っただけで、後者も慣れのおかげで大した怪我もなくことが済んだものの、しかしやはりろくでもない事態になったという意味では共通している。

 作った本人たちが試してくれれば一番いいような気がするし、本人たちもそれを望んでいる節さえあるのだが、厄介なことにこの二人は普段の奇行に反して身分が高く、側近たちが全力で危険を伴う実験を阻止しているため、代わりにこうして騎士や使用人が魔術を試す羽目になっている。なんだかんだで安全対策をきっちりしているため大きな怪我や後遺症に至ることこそなかったが、しかしできることなら関わり合いになりたくないというのが屋敷の関係者たちの共通した本音だった。

 さて、そんな先輩たちの本音を耳にし、注意され、すでに一度自身もろくでもない目に遭って実感すらしていたこともあり、いったい何をされるのだろうとビクビクしていたアネットであったが、しかし実際に試してみてくださいと渡されたのは魔術の術式でもなんでもなく、ただの二本の棒だった。


「……?」


 先ほど遠目に見た、どう見ても木を削って作っただけの二本の棒。長さも少女の手の平より少し長いくらいで、特徴と言えば片側に行くにつれて徐々に細くなっていくのがわかる程度の、本当に何の変哲もないただの棒だった。


「オハシと言うそうです。タダツグさんの国では、これで食事をとるそうなんですよ」


「これで、ですか……?」


 アネットが驚きとともに二本の棒を眺めていると、正面のタダツグが『ああそうだ』と言う言葉と共に右手に持ったハシを動かして見せる。

 聞けば、この国の食事作法にうまくなじめずにいた忠継が、暇を見つけて自身の木剣同様作っていたものらしい。

 正直アネットには一目ではどう持っているのかもわからない。エミリアに渡された棒をどうにか同じように持とうとしてみるが、それすらもなかなかうまくいかなかった。


「……なんでこんな使いにくいものを? やはり武術の修行かなにかなのですか?」


「なぜ皆そう同じことを言ってくるのだ……」


 アネットの質問に、しかし忠継はうんざりしたような表情でそう漏らす。実際のところ忠継にしてみれば、箸など自分の国では常識的に誰でも使える代物なのだ。


「そもそも、俺に言わせればこの国の食器の方がよほどおかしい。食事など箸一組があれば事足りるものを、(スプーン)だの小刀(ナイフ)だの三又の(フォーク)だのといくつも用意して……」


「うーん、まあ、それはそれぞれの国の作法や料理そのものの問題もあると思うんですけどね」


 実際、この国の食事は忠継の国の食事とは大きく違う。最近ようやく慣れ始めた肉食一つで考えても、身のほぐれやすい魚と違い、硬い肉を箸で分けるのは至難の業だ。肉の塊をそのまま口に運べば問題はないのだが、厄介なことにこの国ではそういった行為は作法に反する場合があるのだ。


「確かに、以前この国の汁物(スープ)を味噌汁のように啜ったら注意を受けたな」


「スープをすすってもいいなんて、とてもうらやましい国ですね!!」


「代わりに箸を正しく使う必要はあるがな」


 忠継の指摘に、エミリアががっくりと肩を落とす。


「うぅ……屈辱です。これでも器用さにはそれなりに自信があったのに……」


「そうだったのか?」


「それはそうですよ。医術を嗜む身として、あまり不器用では話になりませんから。むしろタダツグさんこそ、これだけ不器用でよくこんなものを使いこなせますよね」


 言いながら、エミリアは自分が借り受けていた、忠継が自分で作った作りの荒い箸を指し示す。

 確かに忠継が木を削って作ったその二本の棒は、長さも微妙に違い、全体的に凸凹していてあまり見栄えもよくはない。一応忠継が使っているものが成功品で、エミリアに試しに渡したのは失敗作の一本であるという背景もあるのだが、その完成度は実際のところ成功品も失敗作も大差なく、どちらを見ても忠継が器用であるとは思えないような出来だった。


「そうです。これだから持ちにくいのです。待っていてください。少し形を整えてさっきの雪辱を果たします」


「えっと、まだタダツグさんお食事中……」


 アネットが一応そう注意するが、そんな弱々しい発言ではエミリアは止まらない。忠継が作った試作品の一組だった箸を持って体を横に向けると、ちょうど膝の上に木くずを落とす形で箸の一本を削り始めた。

 右手の指先に展開した、魔方陣から生えた刃によって。


「……まったく、魔術と言うのはそんなことまでできるのか」


 呆れながらも、しかし忠継は自己申告の通り器用に箸の形を整えていくエミリアの姿を何となしに眺める。魔力の感覚を放つ透き通った刃は本物の刃物同様、あるいはそれ以上の切れ味で持って木を削り、その表面の形を整えている。なにもないところからいつでも道具を作り出せるというのは、なるほど考えただけでも相当に便利な技だ。


「こんなものを誰でも使えるというのだからこの国は驚きだ」


「ええ、そうですね。確かにこの魔術ならだれでも使えます。【万能刃(オールマイトナイフ)】はこの家の方でなくとも、私や父も仕事に使っていたような魔術ですし……、あら?」


 曲者による暗殺を心配していた忠継にそんなのんきな答えを返しながら、ふと何かに気付いたようにアネットは首をかしげる。すると一心不乱に木を削っていたエミリアが、その視線に気づいて振り返り、二人の視線がものの見事にかち合った。

 とたんにエミリアの瞳が輝き、アネットの頬がしまったとばかりに引き攣る。


「もしかして気付かれましたかアネットさん!!」


「いえ知りませんッ!! 私は何も知りません!!」


「そうです!! そうなんですよ!! 実はこの術式、先日改良を加えたばかりの新作なんです!! 大きな違いとしては刀身を座標固定にすることで使用者にかかる重量的な負担が軽減できるという大きな特徴があるのですが、しかし魔力消費の点に難がありまして……、そうです!! アネットさんもぜひとも“試してみてください”!!」


「――ヒィィィッ!!」


 と、最も恐れていた台詞に心の底から青くなりながら、ほとんど反射的にエミリアから距離をとろうとしたアネットが、勢い余って体勢を崩し、椅子ごと後ろに向かって転倒する。


「――おいッ!!」


 その様子に慌てて忠継が隣から手を伸ばし、片腕でどうにか倒れかけたアネットの背中を受け止めた。


「ひゃっ……!! あ、ありがとうございます。タダツグさん」


「い、いや、だが気を付けろ」


 忠継に元の位置まで起こされながら、なぜかアネットが真っ赤になりながら礼を言ってくる。

 その様子に忠継までつられて頬が熱くなるのを感じながら、それに気づかれないよう表情を固め、背中に触れた手をできるだけ意識しないように食卓の下へと移動させている。

と、その時、そんな忠継の様子をエミリアがじっと見ていることに気が付いた。


「な、なんだ、どうした?」


「いえ……、以前から思っていたんですけど、もしかしてタダツグさんって、実は女性が苦手だったりします?」


「な、なに!? な、なんでそんな話になるのだ?」


 エミリアの思わぬ指摘に、忠継面食らいながらもそう問い返す。

 だがエミリアはエミリアで多少なりとも今の話に根拠はあったようで、


「なんとなく、こうして私たちと話しているときに、騎士たちと接する時より距離があるように感じてまして。今のように何かのきっかけで接触すると随分それを気にしているように見えますし……。この前アネットさんの胸に触ってしまった時もすごく過剰に反応してました」


「――ふぇっ!?」


「……言うな。あの時のことは頼むから言うな。面目ないとは思っているのだ……!!」


 思わぬ方向から会話に巻き込まれてアネットが真っ赤になる中、同じく顔を赤くした忠継が頭を押さえながら懇願する。だがその反応は、ますますエミリアの中の確信を強くしたようだった。

 『それでは実験してみましょう』などと言いながら、エミリアは席を立って忠継の前までやって来る。


「……い、一応聞くが『実験』とは何だ? 爆発するのか? 穴が開くのか? 止めても無駄だとは思うがせめて少し待て。今人を集めるし刀の準備も……」


「そんな大げさなものではありませんよ……。魔術どころか魔力も触媒も使わない、今この場でできることですし。手を出していただけます?」


「……む、こうか……?」


 エミリアの言葉に一応安心し、忠継は食卓に立てかけていた刀に伸ばしかけた手を言われるがままにエミリアの前に移動させる。

 手相でも見るつもりなのかと忠継がいぶかしんでいると、エミリアは突然差し出されたその手を両手でわしづかみ、


「えい」


忠継に驚く間も与えず自分の胸へと押し付けた。


「――ゥェエッ!?」


「――な、なぁっ、なななな、何をする!!」


 掌に伝わる柔らかい感触とひと肌のぬくもりに忠継が血液を一瞬で沸騰させて飛びのくと、隣ではアネットが自分と同じような顔色で口元を押さえていた。

 たとえ異国の地であったとしても、この場合の反応はアネットのそれが間違いなく正しいのだろう。付き合い自体はそれほど長くはないが、少なくとも彼女の常識は、今忠継の目の前で忠継に振り払われた掌と忠継と交互に見ながら、どこか楽しそうにしている女のものより遥かに信用できる。


「い、いいい、いったい何のつもりだっ!! い、いきなりこんな、ふ、不埒な真似をッ!!」


「いえ、ですから実験ですよ。やはりタダツグさん、女性にあまり免疫がないようですね。反応が大きくてわかりやすいです」


 慌てる忠継と唖然とするアネットをしり目にクスクスと笑うエミリアに、流石の忠継も若干ではあるが冷静さを取り戻す。

 とは言え、ここで話を済ましてしまえるほど、忠継の異性への免疫は強くない。


「そ、そもそもっ、嫁入り前の娘がこんな真似をして――」


「おやおや、そういえば忠継さんって、私のこともちゃんと女性として見てくれていたのですね」


「何をあたりまえのことを……」


「そうは言いますけど、タダツグさんって、他の女性に比べて私に対しては割と扱いがぞんざいじゃないですか」


「む……」


 内心で忠継自身も気にしていた事項を指摘され、思わず口からそんなうめきが漏れる。

 エミリアやエルヴィス、その他一部の人間に対する忠継の態度と言うのは、言ってしまえば忠継がまだこの世界に来たばかりのころの、忠継がまだこの世界の人間を物の怪の類に近い存在として認識していたころの、下手にへりくだって舐められまいと思っていたときの対応に端を発したものだ。

 付き合うにつれて態度も軟化し、そういった態度からは徐々に硬さや敵意も抜けていったが、しかし高位のものを相手にする場合や、女性相手にとる態度としてふさわしいとも忠継は思っていない。

 ただ、実際そういった態度をいきなり変えられるほど、忠継と言う人間は器用にもなれないわけで。

結局忠継がそれで言葉に詰まっていると、エミリアはなぜかクスクスと微かな笑いを漏らす。


「まあ。でも確かに、お嫁入りが近いかもしれない身としては、今のははしたなかったかも知れません」


「まったくだ。いつもいつも自身の立場も顧みず、貴様も己の立場をわきまえて少しは……、待て、今なんと言った?」


 さりげなく混じっていた言葉を遅れて認識し、驚く忠継が思わずそう問い返す。

 だが、実際のところは問わなくてもわかっていた。彼女の放った言葉は、この年の娘ならばあってしかるべき話だったのだから。


「ああ、いえ、別に具体的な話があるというわけではないんですよ。ただ少しそんな予感がすると言いますか、兄様も何やら活動しているようですし、そろそろそういう時期なのではないか、と」


「……そうか」


 エミリア・クロフォードの嫁入り。その話自体は本来、エミリアの年齢を考えればあってもおかしくない、それどころか、今までなかったのがおかしいくらいの当り前の話だ。少なくとも異国の人間である忠継が、とやかく口出しするような事柄ではない。


「相手の見当はついているのか? 会ったことのある相手だとか?」


「いえ。そもそもこれは私が勝手にそうなるだろうと予想しているだけの話で、具体的な話はまだ何も。でも遅かれ早かれ、私の立場ならばいずれそうなるでしょう。ですから――」


 と、言いかけたエミリアが、なぜかアネットの方を見て言葉を途切れさせる。唐突な言葉の終わりに忠継がいぶかしく思い二人の姿に視線をやると、エミリアは『いえ』と、首を振って口を噤んだ。


「なんでもありません。……こんなのは意地悪みたいにしかなりませんね」


「……?」


 どこか寂しそうな、耳に届かず消えた微かな呟きの内容を問うこともできず、忠継はただ己の手元を見つめて何も言えずに黙り込む。

 立場のある家柄の娘に結婚の話が来るなど当然のことだ。そういった話は忠継自身よく聞いていたし、兄に嫁いできた義姉もそういう立場の人だった。

 疑問をさしはさむ余地など少しもない世の節理。ましてや異国の人間でありいずれはここから去る忠継には関係のない話だ。

 そのはず、なのだ。


(エルヴィスはいったい何をやっているのだ)


 ここ最近不可解な実験も始めなければ祖国の話も聞きに来ない。それどころか外出していることすら随分と多くなった、屋敷がいたって平和な状態を保っていられるその“元凶”を頭に浮かべ、忠継は初めてそんな疑問を抱く。


 このとき忠継は、それどころかこの場にいる誰もが知る由もなかった。当のエルヴィスが今まさに宮廷内で、エミリアが言うところの活動の重大な局面に立っているなどとは。


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