表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
故国に捧ぐカタナ  作者: 数札霜月
第二章 忠
29/37

第七話 変革期

 窓の下から、エルヴィスの耳に木剣同士をぶつけあう音が響く。男たちの荒々しい声とともに聞こえてくるその音は、クロフォード家においては毎朝の日課といってもいい訓練の音だ。

 エルヴィス・クロフォードには剣の腕はまるでない。

 一応貴族のたしなみとして、幼いころから剣術を教わる身であったエルヴィスだが、生来の気質のせいなのか彼自身はまるで剣に興味を持てず、運動能力で言えば彼のそれは妹のエミリアにすら劣るありさまだ。そんな彼が頻繁に自身の部下たちから逃げ出せている理由は、ひとえに彼の優れた脳細胞の無駄使いによるものといえる。


「さて、そろそろこっちも動き出すとするか」


 首都に到着してから集めた情報の数々に目を通し、エルヴィスは静かにそうつぶやく。

 首都レキハの様子は、良くも悪くもエルヴィスの予想通り。対してエルヴィスはといえば、ようやくゼインクルに残された爪痕の深さを実際に目の当たりにしただけである。旗色は、お世辞にも良いとは言えない。


「でもやるしかないんだよなぁ。まったく、僕のような人間が、使命なんてものを感じる日が来るなんて思わなかった。いや、これが使命だとするなら、神の思し召しはいったいどこにあるのか……」


 古来より、真円教では伝道師が人に伝えし魔術を、人の手によって発展させることが神の思し召しであると教えられている。その教えは非常に根本的かつ根深いもので、かつて教会が強い権力を持っていた時代には、その教えを逆手にとって『自分たちに持てる技術を提供しないものたちは悪だ』などという酷く乱暴な論理すら存在していた。

 だとするなら、今自分がやろうとしていることは、人として、それ以上に魔学者としてどういうことなのだろうか。


「まずはせっかく来てるし、オーランドの奴と話を付けるか」


 『あいつも何か動いてるようだし』と呟き、伝言を頼むべく手元のベルを鳴らして使用人を呼ぶ。

 エルヴィスにとって憂鬱なレキハでの暮らしは、まだ始まったばかりだ。







「すまない。待たせたようだ」


「いや、別にかまわないさ。とはいえ、ずいぶん今回は熱心だったようじゃないか」


 紅茶と茶菓子を用意させた後侍女を退出させ、エルヴィスは直後にやってきたオーランドを部屋に迎える。相変わらず乱雑に散らかった部屋の中は、やはり人を迎え入れるには致命的に向いていない。

 もっとも、部屋を訪れた客であるところのオーランドにとっては、そんな部屋の様子など幼いころから慣れ親しんだ環境だ。


「実はタダツグ君に双剣の扱いを教えてくれと乞われてね。少しだけど手ほどきをしていたところだ」


「ああ、なるほど。それで、どんな具合だった?」


「筋はいい。一応本人も国にいた時に齧ったことがあるらしくて、基本はある程度できていた。力加減も覚えているようだし、今まともにやり合ったら負けるかもしれないな」


「魔術をまるで使わずによく言う。まあ、それでもタダツグが強くなっているというのは多少納得できる話ではあるがね」


「そうか。納得できるか。そうだろうな」


 にこやかにそう会話しながら、その貼り付けた笑顔を相手に向けつつ、二人は同時に紅茶をすする。

 静かな、しかし決して穏やかではない沈黙は、たかだか数瞬で紙屑のように破られた。


「それで、君はいったいからに何をしたんだい? 彼の魔力に対する警戒心がこの前会った時よりかなり研ぎ澄まされている気がするんだが」


「心外だな。まるで僕が何かしたように言うじゃないか」


「むしろ君を知る身としては、魔術を無力化できるなんてとんでもない人間を手に入れて、君が何もしていないという方がありえないと思うんだけどね」


「心外だ、まったくもって心外だな。新作魔術の実験に十二回ほど付き合わせただけだというのに」


「それはすなわち十二回の死線を潜ってきたということだな!?」


「だから失敬だな君は。十二回のうち八回は捕縛用魔術の相手役だ。命に係わるのは四回だけだ」


「何を胸を張って言っているんだ君はぁっ!!」


 散らかった部屋の中で、この二人の会話を見慣れている人間がこの場にいれば、『ああ、また始まったのか』と勝手に納得するだろう光景が相も変わらず繰り広げられる。とはいえオーランドの立場は、昔に比べれば随分とましになった方だった。今でこそ誰かが被害にあった話にオーランドが驚きあきれるという構図になっているが、昔の、オーランドがまだ正式な騎士になる前の幼少期は、その被害者の立場はオーランドのものだった。


「まあ冗談はこれくらいにしよう。いくら僕でも、死人が出るのが決まっているような実験に他人を付き合わせたりはしない」


「まあそうだろうな。そういうところは一応信用しているよ」


「いやまて、だがよく考えてみればあの時のあれは……、いやそれを言い出したらこの前の実験だって……」


「やめろ。どこまで冗談かわからなくなる」


 おそらく冗談ではないことを薄々察しながら、オーランドは親友の物言いに頭を抱える。

 人格的には信用できても常識的に信用できない。それこそがエルヴィス・クロフォードという人間への周囲の者達の共通した見解だ。むしろ人格的には信用できる分たちが悪い。


「まあとは言え……、実際のところそもそも彼があれだけ腕を上げたのは、恐らくゼインクルでの実戦経験のたまものだろう?」


 唐突に、オーランドの声に固いものが混じり、エルヴィスのが眼をわずかに細める。ここからは友人同士というだけではなく、お互い役目を持つ者同士の会談だ。


「そう、実戦経験。人間相手とはまた違うけど、ゼインクルでは確かにそれを彼に体験させることになったよ」


「噂程度には聞いているよ。随分と大変だったみたいじゃないか」


「噂程度、ね。その様子だとあまり向こうの様子はこっちには伝わってないようだな」


「ああ。だからこそここに直に聞きに来た」


 今回の事件があまり公にされていないだろうことはエルヴィス自身予想していた。何しろ今回の事件はオールディス公爵家とその派閥が手にしている前回の戦争時の武功に泥を塗る事件だ。そのオールディス家が国政の実権を握っている以上、その情報を封じにかかるのは当然といえる。


「まあとはいえ、あの様子だといつまで隠せるかわかったものではないがな。あるいは隣国パスラの新兵器だとでも偽るつもりか。あれだけの被害規模が隠し通せるとは到底思えん」


「そんなに酷いものだったのか? 見たところこの家の騎士たちには死者は出ていないようだが」


「地獄だったよ」


 本人は大真面目でありながら、それでも情報を得られなかったがゆえに危機感の薄い友人に対し、エルヴィスは毅然としてそう言い放つ。実際あの場所の状況は、まさにエルヴィスが思い描く地獄そのものだった。


「とにかく作物がまるで育たない。いや、それどころか生物のほとんどがいなくなって完全な荒地になってる場所が相当数ある。このままいくと砂漠化しかねない、あるいはすでに砂漠化が始まっている場所さえあるほどだ。

 植物がすべて枯れた森なんか、音がまるでしないから不気味極まりなかったよ。どんな事態になっているかはある程度予想していたが実際に行ってみると、やはりゾッとするものがあった」


「加えて化け物が生まれ始めている、という話だったな」


「ああ。とりあえず化け物を【妖魔】、そいつを生み出してる魔力を【妖属性】と名付けた。詳しい原理は省くが、例の【死属性】が変質して生まれた魔力だな」


 現状、ゼインクル直轄領の状況はエルヴィスが予想していたよりはるかに酷い。作物が育たない、砂漠化するなどの事態は、エルヴィスをはじめとする学者たちが【死属性』】魔力の実戦投入に最後まで反対していた最大要因だが、それに加えて予想すらしていなかった【妖属性】への変質という最悪の事態が起きてしまっている。


「なるほど、虫一匹いない大地に闊歩する化け物か。まさしく地獄のような光景だな。その『妖魔』というのはどんな化け物なんだ? 噂では見上げるような巨体で人を食うと聞いたが」


「その通りさ。加えて、戦術級の魔術をしこたま叩き込まないと死なないときている。いや、そもそも生き物ではないわけだからこの表現はおかしいか。僕たちだって、タダツグって妖魔の天敵がいなけりゃ危なかったよ」


「例の魔術を斬ったという力か? その妖魔にも有効だったのか」


「ああ。こっちは【カタナ】と名付けた、ってわけじゃないけど、まあ呼ばれているな」


 もともと【カタナ】という名称は、エルヴィスが忠継の持つ刀を指して呼んだ名前のはずだった。ところがそれを周囲で聞いていた人間が勘違いして妖魔を斬る力そのものだと思い込んでしまい、彼の活躍もあいまって取り返しのつかない規模に広まってしまったのだ。最近ではそういった由来を知る人間、当の本人である忠継でさえもなし崩し的にその力を【カタナ】と呼んでいる。


「もしもタダツグがいなかったら、それこそ被害は倍じゃ効かなかっただろうな。実のところ、ゼインクルからこっちに戻るとき忠継だけでも残していくべきかと迷ったよ」


 『まあ、本人の意向を無視してたし、そもそも使いこなせずに戦死させかねないからやめたけど』などと言いながら、エルヴィスは静かに紅茶を口に流し込む。

 実際、忠継の扱いについては迷いどころではあったのだ。武内忠継という人間は妖魔が次々と出現するゼインクルの地において、その被害を最小限に留めるのに最も重宝する人材である。彼一人がいるだけで、この先妖魔によって死を迎えるだろう人間が何人救われるかわからない。

 それをわかったうえでエルヴィスが彼を連れ帰ってきてしまったのは、ひとえに彼という人材を、彼の後にあの地を管理する執政官が使いこなす絵面がどうしても想像できなかったからだ。

 オールディス家の息がかかった執政官と、オールディス家と対立することが目に見えているクロフォード家。その構図の中でクロフォード家から提供された忠継という人材を、執政官がまともに扱うとは到底思えない。手柄を立てられないように妖魔から遠ざけられるか、あるいは危険な妖魔の群れにろくな準備もなく挑ませ、戦死させるのが関の山だ。


「それだけじゃないだろう?」


「……まあ、ほかにも理由にならない理由がいくつかあるがな。それより、こっちばかり話すのも不公平だろう。僕がいない間こっちがどうなっていたのか、いろいろと聞かせてくれよ」


「……そうだな、わかったよ」


 確かに一方的に情報を得るだけというのも不公平かと、生真面目なオーランドは思い直し、すぐに頭の中にあった最近の情勢を整理する。幸い、というべきかどうかはわからないが、エルヴィスが気にかけそうな話題ならいくつか心当たりがあった。


「多分君も聞き及んでいるとは思うが、ここのところレキハに流れ込む流民の数が相当に増えている。恐らくゼインクルで畑が駄目になった農民が首都であるレキハへと流れ込んできているんだろう」


「ああ、それについては確かに聞き及んでいるな。アスカランダもそうだったし、ゼインクル近隣の地域はどこもそうらしい。僕としては、やはり首都まで来たかという感じだが」


「恐らくほかの領地に行っても生活基盤が築けなかった者達なのだろうな。首都であるレキハならばあるいは、と考えてここまで来たのだろうが、やはりというべきそううまくいくはずもない。今レキハじゃ大量の流民が貧民街に流れ込んで結構な混乱が起きているよ」


「やはりゼインクルの混乱が国内全土に広まるのも時間の問題だな」


「そしてそうなれば、最近はやりの活動家がまた騒ぎ出す」


 また一つ、懸念している存在の名を口にするオーランドの表情は複雑だ。忌々しく思っているというのとも違う、だからと言って決して歓迎しているわけではない、強いて言うなら、


「ああ、なるほど。これが時代の移ろいというものか」


「え?」


「いや、それより活動家たちの話だ。いや、彼らの弁に合わせるなら革命家か。やはり活動は活発化しているのか?」


「ああ。この前も大規模な集会が開かれて騎士団とにらみ合いになったよ」


 活動家、あるいは革命家というのは、近年フラリア帝国内でも活動を活発化させてきたある思想に賛同するものたちだ。元々西方のロイセンという国で生まれた思想だったのだが、近年その思想に染まり国自体が変わる事態が数件起きて各国首脳人が神経をとがらせている。


「民主主義、といったか? 彼らが掲げる思想の名は」


「ああ。お前のために思い切り噛み砕いていうと、市民が自分たちで政治を行おうという思想だな。まあ、裏を返せば今の政治が市民に愛想をつかされかけてるんだ」


 近年の、それこそエルヴィスがまだ幼かった頃からのこのフラリア国内の情勢は、決して穏やかなものではない。

 これは以前のクロフォード家にもあったことだが、以前からフラリアも相当な財政赤字を抱えており、その問題がここ二十年ほどでいよいよ顕在化してきていた。


 原因は貴族たちの浪費にある。

 長い歴史を持つ現フラリア帝国であったが、その政治体制を牛耳る貴族達の間には、ほとんど中毒のように浪費癖が浸透していた。しかもその貴族たちは国から様々な特権を与えられており、その立場を維持するために莫大な金がつぎ込まれている。


 加えて厄介なことに、ここ最近は城内で賄賂が横行し、ほとんど政治機能の一部と化し始めるという事態にもなり始めていた。

 ゼインクル直轄領の前執政官であるパイアス・マコーマックこそ、その事実を死後に公にされることとなったが、実はこれと同じようなことは大半の貴族が手を染めており、同時に彼ら自身後には引けない状況に追い込まれていた。

 内部で権謀術数を巡らせ、常にほかの者達を蹴落として出世しなければならない貴族たちの間では、もはや賄賂なしではまっとうな扱いすら期待できない。

 賄賂を贈ることに異を唱える潔癖なものはたちまちその立場を追い落とされ、代わりに高い賄賂を納めたものがその席に座る。そんな政治的末期症状ともいえる状況が、すでにフラリア国内では出来上がっていたのである。


 とはいえ、フラリア政府でも何もなされなかったわけではない。最近でもポスフォード家の当主が実権を握っていた時期に、大規模な改革が行われようとしたことはある。

 ただ、その改革自体がうまくいかなかった。当時のポスフォード家当主にして大臣だったサイラス・ポスフォードは必要な改革として貴族たちの特権の廃止や汚職の根絶などを目指したものの、権益と賄賂の味を覚えた貴族たちはそれに大いに反発し、サイラス自身も最終的には皇帝の後継者争いで大敗し、握っていた実権を政敵のオールディス家に奪われることとなってしまった。エルヴィスが十二歳の時の話である。


 そして現在。厄介なことにその後の飢饉や先のパスラ侵攻の際にかかった戦費によって財政赤字はさらに拡大し、改革の必要性はそこかしこで叫ばれるようになってきた。

 オールディス家の当主であるアルドヘルム・ベルト・オールディスも、一応財政難には危機感を抱いているようではあるものの、サイラスと同じ手段を使うわけにもいかず、特権を持たない平民からの税収を増やすことで財政の立て直しを行おうと画策している。

 が、こちらもうまくいっているとは正直言い難い。

 昔ならできたかもしれないが、現代ではすでに市民階級でも相応の知識を持つ思想家が増えており、貴族が自身の利益のために財政赤字の始末を市民に押し付けようとしているのが広く広まってしまったのである。

 その上、増税される前のこの段階でも、すでに市民の生活はぎりぎりだ。これ以上税を増やされれば、彼らの生活が立ちいかなくなる。


「確かに、今のこの政治体制はどうしようもないほどに腐敗が進んでいる。何らかの形で変革を行わねばならないことも確かだろう。だが彼らの唱える論理は行き過ぎている。彼らの中には今の王政や貴族すらも廃止して、完全に民衆にすべての政治をゆだねるべきだと主張している者までいるんだ」


「おやおや、騎士であるオーランド君には王政の廃止はどうあっても受け入れられないか」


「当然だろう。そもそもそれ以前の問題として、現在の政治体制を丸ごと壊すという危険を冒す割に、そのあとうまくやれるという保証がどこにもないじゃないか」


 騎士としての彼の立場ゆえにその意見は多少偏ってはいるものの、オーランドの言うことは確かにその通りだ。実際エルヴィスから見ても、今の世の動きは完全な両極端へと向かっているように見える。


「まあ、実際彼らの掲げる思想はどれも今までにない新しい物ばかりだ。革命が起こった国を見ても、起こったのはここ数年の話。それが果たして成功だったかどうかなんてまだ判断できるもんじゃない」


 そもそも、成功したか否かは判断基準にも左右される。それどころか判断基準によっては数百年待たねば判断できないものもあるのだ。そう考えればこの話題ほど馬鹿らしいものもこの世にはないかもしれない。


「まあとはいえ、この国が今のままでは立ちいかないのは自分も認めるところだ。革命家たちの思想ほど急激なものではないしにしても、この国が変化を迫られていることは認めなくてはいけない」


「……」


 内心で覚悟していたオーランドの言葉の前兆を感じ取り、エルヴィスは黙ってオーランドと視線を合わせる。

 見つめる先、オーランドの眼は真剣そのものだ。


「改革が何としてでも必要だ」


「……それで?」


「いくつかの貴族、そして騎士たちの中でも、改革の必要性を考え、実行しようとしている者達がいる」


「……それで?」


「だが我々だけでは力が足りない。自分と同じ志を抱いている者たちは、あいにくと皆地位や階級が低い者達ばかりだ。上層部の政治に関われない騎士階級や、地位の低い下級中級貴族ではどうしたって限界がある」


「それで?」


 言いたいことは当の昔にわかっている。生真面目な友人がこんなことを始めるだろうことはかなり前から予想できていた。

 だがそれでも、エルヴィスは彼に最後まで言葉を尽くさせる。そうすることがけじめだと、彼自身が思っているだろうことを案じて。


「君に、エルヴィス・クロフォードに、自分たちの派閥の代表を務めてほしい。それがフラリア帝国、帝国騎士団第七隊部隊長として、そして君の友人であるオーランド・ウィングフィールドとしての、自分から君へのただ一つの願いだ」


 言い切った友人を静かに眺めながら、エルヴィスは内心で密かにため息を漏らす。

 ついに来てしまった、という感じだった。

 いつかは来るだろう、と覚悟していた言葉だった。


「一つ、言っておかなければいけないことがある」


 だからこそ、彼の意思に対して、エルヴィスもかつてなかったほどの強い意志を持って応じる。


「僕にも、実は一つ志しているものがある。正直に言えば君かあるいは別の誰かが同じように改革を訴えることは予想していた。だから僕も、自身の目標のために君たちと手を組むことはかねてから考えてはいたんだ」


「その目標というのは、僕たちの志す改革とは違うのかい?」


「ああ、違う。はっきりと言わせてもらえば、僕はその目標と君たちの改革なら、間違いなく自身の目標を優先するつもりでいる」


「その目標というのは、いったいなんだい……?」


 自身の志を蔑ろにするとも取れる発言に、しかしオーランドは眉ひとつ動かさずにそう聞き返す。

 この国の命運と天秤にかけてでも、優先すべきとエルヴィスが感じる目的を。


「僕は――」


 そうして、この時初めてエルヴィスはそのうちに抱えていた漠然とした不安を親友にさらす。

「【死属性】魔力の変換技術を、【魔剣・致死要因(アポトーシス)】をこの国から完全に排除しようと思う」


およそ一年前、それを初めて見た時から覚えていた、ともすれば荒唐無稽とさえ言える、しかし最悪の可能性を。


 ご意見、ご感想、ポイント評価等お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ