困惑と心配
保護者視点。
最近うちのオルガが楽しそうだ。勿論自分といるときはいつも楽しそうにしてる。
自分といないときも楽しそうにしているのだ。仕事に出るとき、最初は寂しそうな顔を頻繁にさせていた。その顔に心が痛むこともよくあったが、仕事なので仕方がない。
だから、それはとても喜ばしいことなのだが。
近所の証言によると黒ずくめの騎士と一緒にいる姿をここのところ頻繁に目撃するらしい。
黒ずくめの騎士を連想させる人間はひとりしか思い浮かばなかった。
それをオルガ自身は言わない。聞けば答えてくれると思うけれどなんとなく聞きづらい。
別にあの男のことは嫌いではない。いけ好かないが。それは昔からずっとだから仕方がない。
思わず溜め息が出る。
こういうときの勘は当たるから忌々しい。
「家族」
拾ったとき子守りのようで最初は面倒だと思ったが、オルガはいつの間にか家に居座り、ついには心の中にまで居座ってしまった。
声に出しては言わないが、自分はオルガに対して親愛の情が湧いている。
だから二人が一緒にいることを不快に思っている。
過去を引きずっているあの男ではオルガが傷つけられると知っているから。
でもオルガなら、という気持ちが湧かないでもない。
というか、いくつ離れてると思ってるよ?
まだ、そんな関係でないことはわかってるが、物事がどう転ぶかわからない。
あってほしくない未来を想像してしまい、かき消すために頭をがしがしとかきむしる。
想像だけで疲れ果ててテーブルの上でぐったりする。
ちょうど帰ってきたオルガに声をかける。
「オルガちゃん、一言いうけど、あまり俺を心配させないでよね」
結構本気で行ったのだけど、オルガちゃんは半目でこちらを見てきた。
「バル兄こそ、一昨日は本の配達だって言ってたのに菖蒲楼ていう娼館に入ってったって聞いたよ。図書館とは正反対だよ」
すごい反撃だった。
本当のことを指摘されてしまい、うっと詰まる。
「いたいけな少女はそんなことを知らされて幻滅したよ。不潔」
ああっそんな蔑みを込めた目で見ないで。生理的現象だから仕方がないんだよ。だから仕事って言ってたのに。
誰だ、洩らしたのは。ダメだ、特定出来ない。
オルガの顔の広さを恨めしく思う。
というか子供の耳にそんな情報を入れるな。
咳払いをしてなんとか家主の威厳を保とうと顔を引き締める。
「まあ、とりあえず、よく考えて行動しなさいってこと」
「バル兄もね」
保てませんでした。




