寂しさと鬱陶しさ
いつの間にか少女はマティアスを見つけると当たり前のように駆け寄るようになってきた。
本格的にまずいと思い始めたが、少女はなかなか強かで少しきつい言葉と睨みでは引き下がってくれなかった。
もうそろそろ本格的にあの男と関わってしまいそうで焦る。
少女は今日は何も用事がないようで、宛もなく歩いているという感じだった。
巡回中のマティアスの後を付いてくる。
部下はまたどっかに行ってしまった。
「俺、それでも副団長のことは尊敬してますから!」と言い残して去っていく部下を見て、ますます誤解は深まっていっているような気はしたが。
「嬢ちゃん」
少女に呼び掛けると嫌そうに顔を向けた。
「マーティ、私オルガっていう立派な名前がある! 子供みたいに呼ぶな」
「じゃあ、その呼び方も止めろ。それにお前くらいなら嬢ちゃんで充分だろ」
「私は十三だ! もうそろそろ十四歳になるんだぞ」
怒りで顔を赤くして抗議をする。
少女の年齢が想像していたよりも下で、少し驚く。
少女は自分の半分も生きてはいないのだ。
「ガキだな」
しかし、余計なことを言ってしまう。
少女の目が吊り上がる。怒りに比例して少女が纏う匂いが強くなった。
関わりたくない、そう思っているはずなのにマティアスの口は勝手に動いていた。
「嬢ちゃんはここの人間じゃないだろ」
少女が話す言葉の語尾に微妙な鈍りが残るのだ。意識して聞かなければ解らないだろう、その違いだが、やけに耳に残ったのだ。
「そうだよ。ここからはすごい遠い村。村から飛び出して宛もなくさ迷ってここで力尽きて倒れてたらバル兄に拾われたんだ」
聞いてみると、驚くことにもう半年以上も前のことだったらしい。
大方渋る男のところに強引に転がり込んだのだろう。容易く想像できた。
会って数回でやっと少女とあの男の関係を知る。
「あいつは」
「バル兄のこと? 今日は仕事でいないんだ。私は留守番」
寂しげに少女は言う。本格的な仕事は手伝わせて貰えていないのだろう。しかし、マティアスにはどうしてやることも出来ないので黙っていた。
徐々に日が傾き始める。
もうそろそろマティアスも帰って報告書を作成しなくてはならない。
「ガキは帰れ」
自分でも随分な言い方だと思わないでもなかったが少女は素直に頷いた。
「じゃあな」
少女が手を振って去っていく。
そんな少女の後ろ姿を見ながら懐から煙草を出す。
煙草を手に持つと花の香りが強くなった。