興味と焦り
「お前は一体何なんだ」
マティアスは苛立ちを隠さず少女にぶつける。しかし、当の少女は飄々とした態度を崩さず横でアイスクリームを舐めていた。
「気にするなよ」
「気になるんだよ」
「なあ、マーティ」
「マーティって俺のこと?!」
会って三度目の少女に呼ばれた名前に衝撃を受ける。
そんなマティアスを気にした様子もなく少女は美味しそうにアイスを食べていた。
あの日もう近付くなという意味合いを込めて追い払ったのに数日経つと再びひょっこりと少女は現れた。
そうしてずっとマティアスの後を付いてくるのだ。
何を誤解したのか一緒にいた部下は「俺、何も見てませんから」と言い残し、ひとりで巡回に行ってしまった。酷い勘違いをしている気がして頭が痛くなった。
「私、今仕事中なんだ」
アイスを食べ終わった少女が誇らしげに言う。
「ほお」
マティアスが応えると少女は待ってましたとばかりに笑顔を浮かべる。
「パルテ通りのキリルさんところに手紙を届けるんだ」
大義であるかのように恭しく懐から手紙を出す。
確かあの男は運び屋をやっていると風の噂に聞いたことがある。ありとあらゆるものを運ぶらしい。これも仕事の一環なのだろうか。
手紙くらいならこの少女でも出来るだろう。もしかしたら少女のためにわざわざ仕事を探してきたのかもしれない。その様子を思い浮かべてしまい、慌てて頭から追い出す。
しかし仕事と言うならばアイスを舐めないでほしい。
マティアスは少し意地の悪い気持ちになった。
煙を空に吐き出し、言ってやる。
「そういうのはな、お使いって言うんだ」
しかし少女は華麗にスルーした。
「あっここだ」
少女が止まり持っていた地図を見る。マティアスに向き直り手を振った。
「送ってくれてありがとな!」
言われて気付いたが、いつの間にか親切にも少女をパルテ通りまで連れてきていた。無意識に少女の望む方向に足を向けていた自分が信じられず、その場で頭を抱える。
少女は既に居なくなっていた。
どうにか立ち直り、ひとりで行動している部下を探しに行こうとして、マティアスは気付いた。
前に嗅いだ花の香りが自分の周囲を包み、そしてそれが去った少女へと続いていることに。