出会いと再会
これは某漫画に多大な影響を受けて書いた小説です。
登場人物の性格も酷似しています。恋愛が主になるので、もしかしたら嫌悪感を与えてしまう可能性もありますのでご注意ください。
ここのところ働きづめで何ヵ月も休みを取っていなかった。
自分はとくに休みなど取らなくとも平気なのだが、昨日心配した上司に怒られ、無理やり今日一日の有給を取らされた。
仕方なくいつも来ている団服を脱ぎ、私服に剣をさげて歩くが、やることがないのでただ街を歩くだけになってしまっている。
懐から一本出して火を付け煙草を吸う。あまり良い目で見られないがこれだけは止めることが出来なかった。
宛もなく歩いていると花の香りがした。
それは遠い昔を思い出すような、どこか懐かしい甘い香り。
目の前の煙により花の香りが掻き消えてしまいそうになり、思わずくわえていた煙草を手に持つ。
どん、と軽い衝撃を感じた。油断していたのか人に気付かずぶつかってしまったようだ。
ぶつかってきた少女はそのまま男を無視して通り過ぎようとする。
「おい、ガキ」
「私のことか?」
「お前だよ」
「……なんだよ」
目付きも口も悪いガキだと男は思った。もっともその両方に関しては自分も変わらないということを棚に上げて。
「人にぶつかっておいて一言もなしか?」
「しらないよ。ぶつかってない」
(このガキ)
あまりの白々しさに苛立ちを覚える。
「お前なあ……」
「ちょっとオルガちゃん、早いって」
生意気なガキに苦言を言おうとしていたところで、聞き覚えのある声が割り込み知らず知らず背筋が伸びる。
振り向くと案の定見知った顔で、相手も軽く目を瞠っている。
「お前」
相手もまさかここで自分に出会うと思っていなかったのだろう。
久々に見た姿は変わりなく、否応なく男に昔を思い出させた。
互いの目が細められる。
間に張つめた空気が漂う。
その緊迫した空気を破ったのは甲高く間延びした声だった。
「どうしたのー?」
「ああ、悪いね。今行く」
彼は少女に返事をしたあと、男を一瞥しただけですぐに少女の後に付いていってしまった。
去っていった背中を見つめ、再び煙草を咥えようとして気付く。そこにはじんわりと汗をかいており、男は知らず知らずのうちに自分が緊張していたことを知る。
男は無言で煙草を深く肺に入れ、大きく吐き出す。
やがて男は寄宿舎に戻るために歩きだした。