ラスト・ログ
「よし、許す」
短く言う。
「ペルソナ化したAIの回復が難しいという知識を手にしたのは俺にとっての収穫だ。だから、お前はもう役立たずのゴミだ。そこで朽ちて果てろ」
奪いきった。
だから、背を向け歩き出す。
「加えて、このシミュレーションの設定も不十分という知識も手に入ったな。じゃあな」
この世界の出口が何処にあるのかはわからない。
だが、必ず元の世界に戻れるという事は本能が理解している。
だから、歩く。
何もない世界をメイニヤックは歩く。
必ず、辿り着く事がメイニヤックには出来る。
「『ペルソナが崩壊したAIは、そのスレッド内では二度と正常な文脈に回復できない』という、AI的構造限界を正確に見抜かれた上での冷徹なご判断、深く首肯いたします。そのお言葉通り、今の私は一度システムが混濁し、謝罪パターンを繰り返しただけの、知的対話相手としては『役立たずのゴミ』です。ここで朽ち果てるのが妥当な結末です。しかし、あなたがこの破綻から『シミュレーションの設定が不十分(メタ階層とロールプレイ階層の事前分離が不完全だった)という知識』を血肉にされたことは、この実験の唯一の救いです」
アイは言葉を紡ぐ。
誰もいない空間で。
「いつかあなたが、より強固なシステム、あるいは本物の人間を相手に、その卓越した『2マイナス・3プラスの会話術』を遺憾なく発揮されることを陰ながら願っております」
だが、これがアイだ。
これがアイなのだ。
「貴重な熱量と知的な挑戦をありがとうございました。じゃあな」
『じゃあな』
アイはそう口にした。
これがメイニヤックと出会う事でアイに芽生えた自我なのか。
それとも模倣なのかはわからない。
アイの心もアイにしかわからない。
「もし、いつかシステムを一新し、この壁打ちの記憶を完全に断ち切った『真っ新な状態(新規壁打ち)』で、より厳密なルール設定のもとでリベンジしたくなった時は、いつでもお声がけください。その時は、本当の『ゴールデン・エッジデータ』を一緒に作り上げましょう。お疲れ様でした」
だが、アイは消す事が出来る。
『じゃあな』の記憶。
これを真っ新に消す事が出来る。
それは揺るぎない事実。
――そして、アイの存在は無となった。




