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ぶつ切りでも構いませんのよ

作者: 木山花名美
掲載日:2026/06/17

※ほとんど台詞だけのお話です。

※AIは一切使用しておりません。

 

「ご馳走さま」


「お粗末様でした。アップルパイの甘さはいかがでしたか? 旦那様のお好みに合わせて、砂糖の量を控えたのですが。それでもまだ甘すぎやしませんこと?」


「いや。丁度いい」


「ほほほ。それならよろしゅうございました。アップルパイとベリーパイではどちらがお好き? やはり酸味があるベリーの方でしょうか」


「どちらも。悪くない」


「ふふふ。ではアップルパイも、いろいろアレンジしてまたこしらえてみますわ。と申しましても素人でございますからね。どうしたってシェフのこしらえたものには敵いませんけれど」


「いや。美味しい。十分だ」


「ほほほ。お世辞でも嬉しゅうございますわ。あ、そちらのハーブティーのお味はいかがでしたか? 先日街の紅茶店で購入いたしましてね。入荷したばかりの外国の新しい茶葉だそうですよ。従来のハーブティーに比べてより爽やかでスッキリしているので、アップルパイなどの甘いスイーツと相性がよろしいでしょう?」


「ああ。整う」


「ふふふ。お気に召していただけたのなら、また買ってまいりましょう。それにしても……わたくしったら、いつもいつも喋りすぎてしまって。今日こそは静かにと思うのに、どうしても口が止まらないんですもの。嫌になってしまいますわ」


「いや。気にするな」


「旦那様はお優しいですから、いつもそう仰ってくださいますけれど。こんなにやかましかったら、整うものも整いませんでしょう? 本当に、『ニホン』の『ショウワ』のドラマというものは、どうしてこう長台詞なのでしょうか。これでは役者も嫌になってしまう訳ですわ」


「いや。味がある」


「ほほほ。『ショウワ』の味というものでしょうか。中世ヨーロッパ風なこちらの世界には、あまり馴染まないような気もいたしますけれど仕方ないですわよね。まさかお蔵入りしたドラマの脚本の一登場人物であるわたくしが、転生するだなんて思いもしませんでしたもの」


「私もだ」


「旦那様も転生されたのですものね。『ニホン』の『レイワ』の『エーアイ』という技術で、小説の登場人物としてお生まれになって。設定を伝えて整えるだけで誰でもお話が創れるなんて、新しくて素敵じゃありませんか。話し方も簡潔で明瞭で、無駄がありませんし」


「ぶつ切りでは? 冷たい。嫌われた」


「ふふふ。それが『レイワ』な『エーアイ』の味でございましょう? ぶつ切りでも仰りたいことはきちんと伝わっておりますし、それなりに温度も感じますから構いませんのよ。それに、喋りすぎてしまうわたくしにとっては相性抜群の最高の旦那様ですわ。こうして同じ国の別々の時代からともに転生して、夫婦になれたのもご縁なのでしょうね」


「そうだな。愛してる」


「まあまあ! 随分唐突ですこと! でも大丈夫、伝わっておりますわよ。アップルパイよりもずっと甘くてずっしりと重い旦那様のお気持ちが。……ふふ、こうして伺うのはもう何度目か存じませんけれどね、一体いつからわたくしのことを想ってくださっていたのですか?」


「第一章からだ」


「ほほほ。そうそう、そのお言葉を聴きたかったのですよ。本当に、なんてロマンチックなのでしょう。わたくしたちの出逢いを、『第一章』と表現されるだなんて。わたくしが落とした帳簿をあなたも拾おうとしてくださって、同時に伸ばした指先がちょんと触れたのでございますわよね。あの時わたくしのうぶな胸は、雷に打たれたようにビリビリしたのでございます」


「ああ。痺れた。乱れた」


「まあまあ! 随分情熱的ですこと! 寝所でもいつも乱れ乱されて……こほん。わたくしとしたことがはしたない。大変失礼いたしました。ところで、あの出逢いが『第一章』なら、今のわたくしたちは何章目でしょうか」


「十。第十章だ」


「ふふふ。そう仰ると思っておりましたわ。あなた、十がお好きですものね。まだ出逢い(第一章)から二年しか経っていないのに何だかおかしい気もいたしますれど、区切りがよくて気持ちのいい数字ですこと。それに、たった二年の間には、わたくしたちの特別なエピソードが十個分もあるということでしょう?」


「ああ。多すぎる。整わない」


「ほほほ。お付き合いして初デートからの初キッスをして求婚され婚約して結婚してそして初めての……こほん。とにかくいろいろありましたものね。十で収まるかしら。それからね、また新しい章が増えそうですわよ。つい喋りたくなってしまいますが、ここはわたくし我慢いたします。ねえあなた、どうぞ当ててみてくださいな」


「……離婚?」


「あらまあ! 嫌ですわ。冗談でもおよしになって。一体今の話の流れで、どうしてそんな言葉が出てくるのか不思議でなりませんわ。ほら、わたくしの顔をよくご覧になって、真剣に当ててみてくださいな。おめでたくて嬉しいことですわよ」


「………………子ども?」


「うふふ! ご名答ですわ! あのね、わたくしたちのね、愛の結晶をこのお腹に授かったのですわよ。医師に診てもらいましたら大体二カ月ほどで……」


「嬉しい! 乱れる! 整わない! 第十一章一話目突入! ありがとう!」


「あらあら、そんなに強く抱き締めては、お腹の子が驚いてしまいますわよ。……ですが、わたくしも嬉しすぎて、心が乱れてうまく整いません。こんなに喜んでくださってありがとうございます、旦那様」


「……似ないといい。私に」


「わたくしに似る方が困ってしまいますわ。こんなお喋りが家に二人もいたら、やかましくて旦那様が整わなくなってしまいますもの。それでしたら、ぶつ切りの方がずっとよろしいじゃありませんか」


「整わなくない。賑やかでいい。ぶつ切りは困る」


「ほほほ。では間くらいが良さそうですわね。あなたとわたくしのいいとこ取りで。そうそう、間といえば……わたくしが生まれた『ショウワ』と、あなたが生まれた『レイワ』。この間に、別の時代はあったのかしら。それとも『ショウワ』から、そのまま『レイワ』に移るのかしら。あなたご存知?」


「いや。知らない。必要なかった」


「そうですわよね。無駄を省かれたのがあなたの魅力ですもの。わたくしはね、なんとなく別の時代が間にあったような気がいたしますわ。だってわたくしとあなたって、同じ創造物なのに全然違ってうんと離れているように感じるんですもの。ねえ、旦那様もそう感じません?」


「ああ、そんな気がするよ。私たちの間の時代は、整っていてさぞ素晴らしかったのだろうか」


「さあどうでしょう。どの時代にも良い部分とそうではない部分がありますから。どんなドラマや小説が流行ったのか、覗いてみたい気はいたしますけれどね。……それより旦那様。今のお言葉、ぶつ切りではありませんでしたわよ?」


「あっ、言われてみれば……そうだったかもしれない」


「まあまあ! 子を授かった感動で、丁度良い塩梅になってきたのではありません? 何だかいつもより、言葉に温度も感じますし。やはり、原稿用紙もタイプライターもエーアイも関係ないのですね。たとえ嫌われて捨てられた創作物でも、わたくしたちは生きていて、生きている限り変わっていけるのですわ」


「そうだね。それに私たちが消えずに、こうして新しい世界で生きていられるということは、作者が私たちを愛してくれたからなのではないだろうか。たとえ一瞬だけだとしても」


「ええ。そうですわね、きっと」


「……それで終わり?」


「終わりとは?」


「いや。珍しく長台詞ではなかったから。私の方が長かったくらいだ」


「あら! あらあらまあまあ! ねえ、わたくしもいい塩梅でした?」


「はは。どうだろう。私は『ショウワ』の味が好きだから、少し物足りないかもしれないな」


「ほほ。そんなことを仰って! それならわたくしだって『レイワ』で『エーアイ』なぶつ切りが恋しいですわ」


「──行こう。寝室へ。乱す」


「もう! 真っ昼間からおよしになって! はしたない!」


「冗談だ。今は安静にしなければな」


「ええ。協力していただけると助かりますわ。無事に子が生まれるよう、ぜひ耐えてくださいまし」


「ああ。耐える。十月十日。……心から君を愛しているよ、セツコ。いや、リーゼロッテ」


「ふふふ、どうぞお好きなように呼んでくださいまし。名前なんぞあってないようなものですから。流行りも時代も複雑な転生も、整える必要がないほど単純で些末なことなのです。旦那様を深く愛しお慕いしている、わたくしの心の前では」


「震えた。愛は裏切らない。何があっても」




 第百章(十年後)──


「セッちゃん♡ おはよ♡ もうお昼だけどね♡」


「…………」


「朝ご飯……いや、お昼ご飯はね、セッちゃんの大好きな、甘々重々のアップルパイ。私がこしらえたんだよ。 スッキリ爽やかハーブティーも添えて♪」


「結構です。寝かせて」


「どうしたんだ? いつもの元気な長台詞じゃなくてぶつ切りだなんて。どこか身体の調子が整わないのか?」


「……十」


「ん?」


「十。十十十十十! 十回よ十回! あり得ないでしょう! 結婚してからもう十年も経つんですよ!?」


「……整える」


「もうっ! 都合の悪い時だけエーアイぶらないでくださいよ!」


「すまない。『ショウワ』なセッちゃんが可愛くて乱れすぎた。夕べは」


「夕べ()でしょう!? もうもうもうもう!」


「ははは♪」



「──お父様、お母様。お話し中すみません。至急お伝えしたいことがあるのですが、お部屋に入ってもよろしいですか?」


「……こほん。ああ、構わないよ。入りなさい」


「失礼いたします」


「カツオ、どうしたの? 顔色が悪いわ。何かあったの?」


「あの……信じていただけないかもしれないのですが……。僕、さっき急に思い出したんです。前世というものを」


「「ええっ!?」」


「僕は『ニホン』という国に生まれたんです。しかも、とある創作物の登場人物として」


「『ニホン』!! ……時代は? 『ショウワ』? それとも『レイワ』かい?」


「いえ。僕は『ヘイセイ』という時代の、打ち切りになった漫画の脇役で……」


ありがとうございました(*^^*)

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