第9話 切断王子ユハネス・キラー
――シルビア家・別荘。
「ねえ、ノイン様~」
「どうしたんだい 僕のエレナ」
「わたし、この戦いが終わったら~、たっくさん子供欲しいな~」
「勿論だよ 僕も張りきっちゃうぞ」
馬鹿が書いたようなやり取りをまじかで見ている3人がいた。
(あー、早く終わんねえかな)
(……気持ち悪くなってきた)
(こうなると、ノイン様馬鹿になるんだよなー……)
ノインとエレナの気持ち悪いやり取りに親衛隊隊長であるキース、ライル、ヴァイオレットの3名はげんなりしていた。
「こちら東棟入り口!侵入者がっ――!」
『ッ!?』
その場に居た全員が反応する。
親衛隊長である3人の手にしていた杖から別荘にいる親衛隊の連絡が入る。その様子からただ事ではないことは明白だ。
「侵入者だと!?」
「あー、第一王子の手先かな」
「ついに仕掛けて来たか!」
「ひとまず、ノイン様とエリナ様はここを離れて……」
「エレナ、僕から側から離れないでくれ」
ノインはエレナの体を抱きしめ、周囲を警戒する。
イザベルの言う通りノインはエレナにべた惚れなようだ。
「よお、楽しそうだな?」
『!?』
聞きなれない声にその場に居た全員が振り返ると壁にもたれ掛かるキラーが笑みを浮かべ立っている。
「いったいどこから……!」
「数日ぶりだな、兄貴」
「キラー……どういうつもりだ お前はもう王子ではないはずだ」
「そうだな、俺はもう王子じゃなければ王族でもない」
「そんなお前がここへ侵入すると言う意味がどういう物なのか、わかるな?」
王族でもなければ関係者ですらなくなったキラーはノインにとっては邪魔者でしかない。
そんな存在が無断で別荘に侵入してきた、と言うことは敵以外の何物でもない。
「ああ、わかってる そのままの意味だ」
「そうか……なら、最後に聞きたいことがある」
「?」
「なぜ、名前を返上してまで辞退したお前が、今更ここへ来たんだ」
今は王位継承戦の真っただ中だ。そんな中で突如参戦したかた思えば、すぐに辞退した弟が自分に何の目的で会いに来たのか、読めない行動にノインは疑問に感じていた。
「そりゃ簡単な話だ。目的が別にあるからだよ」
「その目的と言うのはなんだ」
「兄貴とエレナ嬢、2人の身柄だ」
「っ!?」
「ノイン様!お下がりください!」
「磁力操作!!」
キラーの目的に危険を感じた親衛隊は即座にノインとエレナを後ろに下げ、キースの魔法、磁力操作で部屋中の金属をキラーに集中させる。
「面白い魔法だな」
飛んでくる金属をキラーは防御するのではなく、回避する。
別荘中から波の如く襲い掛かる金属から逃れるために一度外へ逃げる。
「自然の御霊 我が問いに答えよ 稲妻の金 雷!」
さすが親衛隊隊長と言ったところか、回避の隙を逃さず即座に連携して魔術を撃ち込んでくる。
金色の稲光が金属の波と共に襲い掛かる。
「いいねぇ、でも」
宙を舞うキラー、この攻撃を逃れるには魔法を使う以外の術をキラーは持ち合わせていない。
「イザベル!」
「空を切り裂く翼」
地上にいたイザベルの魔法、空を切り裂く翼でキースの攻撃から逃れる。
「他にも侵入者がいたのかッ!」
イザベルの魔法に乗りながら、ぶち破られた穴に戻る。
「俺だけじゃないぞ 俺の元親衛隊と第一王子の兄貴の戦力もいる」
「兄さんの戦力も、だと」
「ああ」
(ま、嘘だけど)
レオの戦力は来ていない。キラーが事前にここを攻撃することをレオは知らないからだ。
それでも、ノインが驚くのには十分な嘘だった。
「名前の返上、その代わりに兄貴とエレナ嬢の身柄を受け取る取引をしたからな」
「それが、王子と言う地位を捨てた理由か!」
「そうだとも、俺に王は向いていない」
「溶岩鳥」
「自然の御霊 我が問いに答えよ 灼熱の赤 炎!」
ライルの魔法とヴァイオレットの魔術がキラーを襲う。
火属性の魔術と火の魔法のコンビは先程のキースの範囲攻撃とは違い、威力を集中させている。
「冷却光線!」
親衛隊の猛攻をかいくぐって来たアレックスが魔法を行使する。
さすが、元冒険者。そこらの魔術師程度じゃ歯が立たない。青白い光線がライル達の魔法に直撃する。
「あっつ!?」
親衛隊隊長と言うだけあって魔法が強い。アレックスの魔法、冷却光線の全力でも逸らすことしかできなかった。
逸らした攻撃の一部がキラーの腕に掠る。
(あっぶねー……)
「自然の御霊 我が問いに答えよ 土砂の灰 岩!」
ジェイクの魔術が親衛隊隊長等に襲い掛かる。ジェイクの魔法は寄生眼、なにかに寄生して物を見ることしかできない。
戦闘向きではない故に杖を手にして魔術を行使する。
「溶岩鳥」
魔法で魔術を相殺する。
どうやら、ジェイクの魔術性能はライルの溶岩鳥と互角らしい。
「あれ、兄貴どこいった」
ジェイクの魔術とライルの魔法によって土煙が舞う直前、親衛隊隊長の1人とノイン、エレナの3名がいない事に気が付いた。
「逃げられたか……お前等、足止めよろしく」
「「「了解」」」
舞い上がる土煙に紛れて、崩れた別荘の逃げ道となっている1本道を駆ける。
部屋を出て、数メートル。エレナを抱えて逃げるノインと先頭を走るヴァイオレットの姿が視界に写る。
「「「っ!?」」」
「もう、気が付いたのか!」
「ヴァイオレット!」
「呪いの刃」
ヴァイオレットの魔法がキラーに発動する。
「!?」
追いかけていたキラーは突如、口から血を吐き体に痛みが奔る。
ヴァイオレットの魔法、呪いの刃は視界に写る対象に見えざる刃を突き立てる魔法。
当然、詳細を知らないキラーは危機感を感じる。
(まずいな、なにが起こっているのかわからねぇー……出し惜しみなしでそろそろ魔法、使うか)
キラーの魔力は1つ。他の生物と同じく1つだけだが、元来持つ天性の才能により1つの魔力を2つの性質に分け、別々の個としての魔力として2つの魔法を行使することが可能になった。
「切断王子の刺客」
高速でくり出される斬撃。それに反応する間もなく、ヴァイオレットは切り刻まれる。
飛んでくる斬撃は止まる事を知らず、ノインの元にも届こうとしている。
「魔力食い!」
直撃した斬撃は魔力へと変換され、ノインに吸収される。
これこそがノインの魔法、魔力食い。触れた魔力、魔法、魔術を魔力として吸収する魔法。
だが、飛んできた斬撃は1つではない。いくつもの斬撃が地面に当たり、廊下が崩れる。
「うわっ!」
「きゃあああっ!!」
抜け落ちた床にノインとエレナの2人は身動きが取れず落下していく。
「いってて……」
砂埃が舞い、崩れた瓦礫が周囲に散らばる。
別荘1階。そこには先程アレックス達が仕留めた親衛隊の遺体があちこちに転がっている。
「ずいぶんと汚くなったじゃねえか、兄貴」
「キラー……!」
崩壊した2階廊下から下に落ちたノインを見下す。
「なぜ、なぜ僕と彼女を狙う!なぜ僕たちの身柄が目的なんだ!」
ノインは吠える。当然と言えば当然だが、ノインはキラーに狙われる心当たりがなかった。
「あー……そうだな、兄貴は知らないんだったな」
「なにがだ!」
「1ヶ月前の暗殺未遂事件。あの犯人がそこにいるエレナ嬢が仕掛けたって事」
「……は?」
突然の告発にノインは鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔をする。
「俺の方で調べたんだよ、シルビア家の動向を そもそも婚約破棄から即婚約までの流れが速い上に、その相手が事件を解決したシルビア家の娘さんて、出来過ぎた話じゃないか?」
「な、なにを言っているんだ」
ノインは馬鹿だ。成績や運動は優秀でも肝心のおつむが馬鹿すぎる。こんな出来過ぎた話でもロマンを感じて信じ込むほどの馬鹿だ。
こんなのが王になったら国は滅びるぞ。
「あの暗殺未遂事件、元婚約者のキャロル・グラフトの魔法が使われていたと言っていたらしいが、それは違う」
「なにが違うんだ!確かにキャロルの魔法だ、あれは!」
「だから馬鹿なんだよ、兄貴は」
事件に使われていた魔法の痕跡はノイン自身も確かに確認している。それどころか、専門家である魔導士にも確認は取っている。
「あれは似ているだけの別もんだ」
「そんなはずはない!専門家の魔導士にだって……!」
「その魔導士、どこから来た魔導士だった?」
「それは、シルビア子爵の……!」
ようやく気が付いたようだ。馬鹿なノインでもキラーの言葉には耳を傾けていた。
「あれは、エレナ・シルビアの魔法だ さしずめ下剋上を狙っていたアンタはキャロル・グラフトの魔法が偶然、自分の魔法と似ていたのに気が付き使者を使って偽装した……ってところか」
魔法とは魔力の性質をそのまま行使する事。
故に、魔力性質がキャロルと似ていた事に気が付いたエレナは計画を練って犯行に及んだ。
「にしても、詰めが甘かったな もう少し、我慢してれば尻尾は隠せたのによ」
「そんな……馬鹿な……」
「…………」
エレナの性格は傲慢そのものだ。
ジェイクの魔法を通してでなければ、エレナの魔法が似ている事には気が着けなかった。
「エ、エレナ……嘘、だよな」
「フ、フフッ ええ、勿論です」
「! そうだよな!ほら!嘘じゃないか!」
「わたしが事件の犯人です」
「え……」
信じていたエレナの発言にノインは言葉を失う。
「認めるか」
「ええ、バレてしまったのなら仕方ありません」
エレナは隠し持っていたナイフを自身の喉元へ突き立てる。
「エレナ……!」
「動くな!」
エレナの怒鳴り声にノインは動きを止める。
「もし、あなた方のどちらかが動けばわたしは自害します」
「……なるほど、俺の目的である身柄の確保を台無しにすると」
「そういう言事です さあ、わたしを見逃しなさい」
「エレナ!馬鹿な真似はよせ!僕は許すから!」
「お前は黙っていろ!」
「っ!?」
あまりの豹変ぶりにノインは押し黙る。
「そもそも、お前を利用するために近づいたんだよ 誰もお前を愛していねえんだよ」
「え、エレナ……」
「気持ちわりぃんだよ、いつもいつも抱き着いてきて!」
ノインは本性を現したエレナに罵られ、心が段々折れて行く。
その様子を上から見ていたキラーはなんだか喜んでいた。
「貴方……なんでそんなに嬉しそうなのよ……」
「いやー、罪人が苦しむ様ってのはどこか楽しさを感じられるよ」
「ほんっと、貴方って性格悪いわね」
暗闇から現れたキャロルにキラーは微笑ましく語る。
人間と言う生き物には加虐心と言う物がある。だれしも一度は体験する物だ、キラーはそれが大きいだけの気分屋に過ぎない。
「それで、どうだ?兄貴の気持ちを知った気分は」
「……そうね」
キャロルの瞳に映るのは下で心が折れているノインの姿だ。
かつてのカリスマ性は無く、今ある姿は虐げられる弱者の姿だ。
「やっぱり、気持ちは変わらないわね」
「……そうか」
キャロルの答えにキラーはどことなく喪失感を覚えた。
「でも、このままの姿なんて見たくないですわね……」
「じゃあ、殺すか」
「そうね、お願いしてもいいかしら?」
切なそうな顔で頼むキャロルにキラーは答えるしかなかった。
「切断王子の刺客」




