第2話 恋と願い
「あの日、わたくしは第二王子ノイン様の従者と共に王宮でお茶を嗜んでおりました」
1か月前。暗殺未遂事件が起こった日のことを話し始める。
「従者と共に話を弾ませていた時でした 突然、お茶を飲んでいた従者が倒れて他の従者に助けを求めようと外へ飛び出したのですが、外にいたはずの従者たちが皆、上下を切り離された状態で倒れていたんです」
突然倒れた従者の為、助けを求めたキャロルが目にした光景は悲惨な物だった。
王子の婚約者ともあろう立場の人間を守るはずの護衛とも言える者達が皆、殺されていたのだ。
「ほう、それで兄貴に助けを求めたと」
「はい ノイン様の元へ駆けつけた時、わたくしは親衛隊の方々に捕らえられ、地下に幽閉されました」
あまりの惨劇からノインに助けを求めに行ったキャロル。だが、彼女は何故か親衛隊に身柄を拘束される。
「そこで初めて知ったのですが、ノイン様の乗る馬車が何者かに襲撃されて……」
「その容疑を掛けられたって訳か」
今は王位継承戦の真っただ中だ。キラーは参加していないが、暗殺なんてものは日常茶飯事に等しい。
でもそれならおかしな話だ。今の話を聞く限り、キャロルは命のを狙われていたはず。
「それで、なんでアンタが容疑者になったんだ」
「それは……わたくしの魔法のせいです」
「魔法?」
「わたくしの魔法は棘の鞭。ノイン様を襲っ魔法と従者を殺した魔法がわたくしの魔法と酷似していたんです」
魔法とは生まれついての魔力の性質をそのまま行使する物の事。
キャロルとノインに降りかかった謎の不幸、それは二人の関係を裂くきっかけとなる。
「それでも、わたくしは無実を訴えました。ノイン様も初めのうちは信じてくれていました、ですが……」
キャロルの顔に影が落ちる。ただでさえ霊体で薄いのに影が落ちては表情なんてものはわからない。
「エリナ・シルビア、あの女が関わってからノイン様は変わられました」
エリナ・シルビア。1ヶ月前の舞踏会でノインがキャロルに婚約破棄を突き付けた時にノインの側にいた女だ。
「結局最後まで信じてくれていたのはお父様だけでしたけどね」
悲しげに言うキャロルにキラーは不満を募らせる。
「それで?アンタは何がしたいの」
「ですから、わたくしは無実を証明したいのです」
「それだけか?」
「それだけ……と言うのは」
「ハッキリ言いて俺はアンタが目障りだ。毎日毎日現れてはぶつぶつと何かを呟いては消える。何がしたいのかわからん」
キラーはキャロルの存在をうっとおしく感じていた。
そしてどこかに行ってもらおうと話しかけたのが今回のきっかけだ。
「だがアンタの顔は俺の超好みだ。考えが変わった」
「……はえ?」
「もし、アンタが兄貴を諦めて俺に乗り換えるなら無実の証明どころか真犯人に復讐してやるよ」
悪魔王子ユハネス・キラーは気分屋にして傲慢だ。突然変な事を言うこともある。
キラーの唐突な提案にキャロルは困惑する。
「えっと……何を言っているのかしら?」
「簡単に言うと俺の女になれ」
「…………? えっとわたくし一応、貴方のお兄様の元婚約者なのですけど……」
「だからなんだ?俺はアンタに惚れた 今はフリーなんだろ?」
「そ、そうですけど!わたくし、死んでいるんですよ!?」
「かまわん」
キラーは初めてキャロルの顔を見たのはついさっきだ。
それまでは兄貴の婚約者程度の認識でいた。
早い、早すぎる。惚れてから告白するまでが早すぎるしおおざっぱすぎる。
「えっと……ごめんなさい、わたくしには心に決めた人がいますので」
「そうか」
そう言うと、キラーは立ち去ろうと歩き出す。
「ちょ、ちょっとお待ちなさい!」
「なに?」
「あ、貴方!今の話を聞いていて帰るのですか!?」
「まあ、メリットないし……」
ただ目障りと言うだけで、事件を解決する道理はない。ましてや王位継承戦とか言う面倒ごとに巻き込まれるなら尚更だ。
故にキャロルの話はキラーにとってはどうでもいい話だ。
「うぅ~!」
「じゃ、俺帰るわ」
「お、お待ちなさい」
「今度はなに?」
キャロルには選択肢がある。
1つ、キラーの申し出を断る事。2つ、キラーの申し出を受け入れる事。
冤罪を掛けられたとはいえ、ノインに対する気持ちは本物。だからこそ、死後も尚ここに残っていた。
苦渋の選択を迫られる。
「わたくしの無罪を証明しなさい!そのかわり……」
「そのかわり?」
「ノイン様の気持ちを知ってから貴方の提案の答えを出します」




