第1話 幽霊
ユハネス王国、第三王子ユハネス・キラーは悪魔の様な男だ。
幼いころから罪人を痛めつける拷問を趣味としており、拷問を受けた者が苦痛の表情を浮かべる中、喜びの笑みを浮かべていた事から”悪魔王子”と呼ばれるようになった。
だが、悪魔と評されるように残酷なこの男にも悩みがあった。
それはここ数日、実家である王宮の広場にて赤いドレス姿の令嬢をみかけることだ。
その令嬢には心当たりがあった。
グラフト伯爵家、長女キャロル・グラフト。
1ヶ月ほど前に第二王子である兄ユハネス・ノインに婚約破棄を突き付けられた令嬢だ。
心当たりがあると言ってもキラー自身は何もしていない。それどころか面識自体無かった。
そうなのにもかかわらず、3日前彼女の霊が当然見えるようになった。
理由はわからない。ただ、毎日毎日うっとおしく何かを呟きながらその場から動かないでいる。
目障りだ、あまりにも。
「おい」
「は、はい!なんでしょうか……」
「お前、あれが見えるか」
「あれ、と言うのは……」
キラーの執事は突然の質問に戸惑っている。
指さした方には当然なにも無く、主の言っている意味がわからないからだ。
「そうか、見えないか」
「申し訳ございません」
執事はガクガクと全身を恐怖で震わせる。
それもそのはず、王族貴族に関わる者にとってキラーは恐怖の象徴のような存在だ。
「執事、席を外してくれ しばらく一人でいたい」
「承知いたしました」
広場の外へと出た執事。
今、この空間にはキラーと幽霊となった令嬢だけが残っている。
「なあ、アンタ兄貴の元婚約者だろ なんでこんな所にいんだ?」
「…………?」
「アンタだよアンタ」
キャロルは不思議そうに首をかしげる。
まさか、死後霊となった自分に話しかけられているとは思ってもいなかったのだろう。
「貴方、わたくしが見えるの?」
「3日前からな」
「だったらお願い!聞いてほしいことがあるの!!」
認識されたとたん、キャロルは必死になってキラーに縋りつく。
「わたくしは暗殺なんて、そんな気は一切ないの!だから!」
暗殺。その言葉には聞き覚えがあった。
1か月前、第二王子ノイン暗殺未遂事件。その容疑者として婚約者キャロル・グラフトが挙げられて投獄されるようになった。
確か、事件を解決したのはシルビア子爵の娘だったはず。
そして、尋問もとい拷問を担当したのは第二王子直属親衛隊だ。
「落ち着けよ 話くらいは聞いてやるから」
幽霊にヒステリックを起こされても対処の仕様なんてわからない。
わかったとしても判明するまでに時間が掛かりそうだ。




