表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中二病ノートを持ったまま死んだら、妄想設定通りに最強の仲間が集うことになった  作者: 六条少将


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

深淵よりの目覚め

深淵執行機関(ネメシス・コード)って……え、え?」


 その名称を、忘れるはずがない。

 いや――正確には、ずっと忘れていた。だが、あの中二病ノートを見て、ついさっき思い出したばかりだ。


(なんで、俺の中二病ノートの設定を、この美女が……?)


 固まっていると、赤髪の美女が不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。


「マガツ様、いったいどうなされたのですか?」


「え……マガツ様……?」


 それは、俺が考えた深淵執行機関(ネメシス・コード)の盟主の名のはずだ。


「俺が……?」


 嫌な予感が背筋を走り、俺は反射的に周囲を見回した。


「どうなされたのですか?」


「いや……鏡がないかなって。ちょっと、自分の顔を確かめたくて……」


「それでしたら、ここに」


 そう言うと、美女は自身の胸元へ手を差し入れた。


「ちょっ……」


 俺が声を上げるより早く、彼女は取り出した。

 漆塗(うるしぬ)りに金蒔絵(きんまきえ)を施した、雅な意匠の小さな手鏡。

 その鏡面を――俺へと向ける。


 映っていたのは、思わず息を呑むほどの美男子だった。

 闇を彷彿とさせる、漆黒の髪と漆黒の瞳。

 涼やかな目元にはどこか深い哀しみのような影が宿っている。

 身にまとうのは黒のコート。

 腕や体には、呪いを思わせる黒い紋様が刻まれていた。


 見覚えのない顔。

 だが――かつて、俺が想像していた姿そのものでもある。


冥月禍津(ミヅキ・マガツ)……!」


 学生時代の俺には、画力がなかった。

 だから、こんな美男子を描けるはずもなかった。


 だがこれは、あの頃の俺が思い描いていた『最高のイケメン』。

 冥月禍津(ミヅキ・マガツ)の姿、そのものだった。


(え?嘘だろ?俺が……冥月禍津(ミヅキ・マガツ)になってる……?)


 もし学生時代の自分だったなら、心の底から歓喜していただろう。何せ、憧れていた想像上の闇の組織の総帥になれたのだから。

 だが――今の俺の中身は、三十を超えたおっさんだ。


(何が起こってる?――そうだ、あの隕石……!)


 中二病ノートを見つけ、ベランダに出て……。

 隕石らしき光が、俺の眼前に迫ってきたところまで、確かに記憶は繋がっている。


(あの隕石の影響で……こうなったのか?)


 隕石で死に、冥月禍津(ミヅキ・マガツ)として生まれ変わった――。

 そう考えれば、筋は通る……が。


 簡単に受け入れられる話でもない。


「どうされたのですか、主様(あるじさま)


 赤髪の美女が、再び俺の顔を覗き込む。俺は、その姿を見返した


(眼帯、腰の刀。それに、『深淵天執(アーク・ネメシス)』序列二位って言ってたな……)


 『深淵天執(アーク・ネメシス)』。

 それは、『深淵執行機関(ネメシス・コード)』の最高幹部たちの総称だ。


 ということは――。


「ひょっとして……柳生十兵衛、か……?」


 美女が、きょとん……と首を傾げる。

 そしてしばし後、にっこりと微笑んだ。


「無論、あなたの側近にして(つるぎ)。柳生十兵衛にございます」


 ……やっぱりそうか。


 深淵執行機関(ネメシス・コード)は、冥月禍津(ミヅキ・マガツ)を頂点とする組織だ。

 そしてその幹部たちは、いずれも史上の英傑の名を冠している。

 死した英雄の魂をもとに、禍津(まがつ)が生み出した存在――それが幹部達だからだ。


 ――無論、すべては俺が書いた黒歴史ノートの中の話だが。


 俺は、目の前に立つ美女――柳生十兵衛を、まじまじと見つめる。

 ううむ……確かに、柳生十兵衛は絶世の美女、という設定ではあったが……。

 実際に目の前に立たれると、想像以上だ。


「……どうされましたか、主様(あるじさま)?」


「いや……凄い美人だなと思って」


「なっ……」


 十兵衛は、仰け反った。その頬がみるみる赤く染まっていく。


「何を仰られるのですか、主様。い、いきなり美人などと……そ、そのような評価は不要です!」


「不要なのか?」


「私は剣士です。美醜は、剣には関係ありません」


「そうか。なら、今後はそういった言葉は口にしないようにしよう」


「……い、いえ。その……」


 十兵衛は、前髪を指先で弄りながら視線を逸らし、ぼそりと呟く。


「主様に美しいと言っていただくのが……い、嫌な訳ではなく……ただ、その……なんと言いますか……」


 小声でしばらく呟いた後、こほん……とひとつ咳払いをした。


「そ、それより主様、いったいここはどこなのでしょうね。他のメンバーの姿も見えませんし……」


「そうだな……」


 口にしながらも、俺の中には一つの仮説があった。

 それは――。


(たぶん、夢だな。うん)


 どこからが夢なのかは分からない。

 だが、おそらく……中二病ノートを見つけたあたりまでは現実だ。

 その後、隕石が迫ってきたところで記憶は途切れている。

 つまり記憶にはないが俺はその前後で昼寝でもして、今は夢を見ているのだろう。そもそも、隕石が俺めがけて落ちてくるなど、現実に起こるはずがない。


(あんなノートを見つけたせいで、こんな夢を見てるんだな……)


 ならば、いずれ目は覚めるはずだ。


(だったら……少しぐらい、この夢の雰囲気に合わせてやるか)


「――どこであろうと、関係ない」


 俺は告げた。


深淵執行機関(ネメシス・コード)の役目は何だ?十兵衛」


「はっ……!光の届かぬ深淵から、世界をあるべき形に変える事――であります、主様」


「その通り!」


 それが、深淵執行機関(ネメシス・コード)の存在理由。

 中二病全開の、いかにもな設定だ。


「ならば、ここがどこであろうともそれを実行すべきだ。違うか?」


「おっしゃる通り!」


 ……勢いでそれらしい台詞を口にしてみたが、正直なところ自分でも意味はよく分かっていない。

 何しろ、あのノートを書いたのは中二病真っ盛りの俺だ。『世界をあるべき形に変える』って……いったい具体的には何を指しているのやら。


 だが、まあいい。


「――進むぞ」


 俺はそう告げ、十兵衛を伴って歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ