ゆく年くる年6
巳年がもうすぐ終わる。
俺の家ではその年の干支のヤツを迎えるという風習があり、大晦日の夜は交代のために玄関を開け放っている。
通常、除夜の鐘が鳴り終わるまでに交代が行われ、前年はお長いもの同士で気が合ったのか、おじさんっぽい龍と生まれて間もない白蛇が、穏やかな雰囲気の中で滞りなく引継ぎを行った。
大晦日、朝から降り始めた雪は辺り一面を覆いつくしていた。
「さむい。いちめんのゆきですね」
俺の傍らで白蛇──しーちゃんと俺は呼んでいる──が、鈴の転がるような声で呟いた。
「こんどのかたがあたたまるように、おちゃをよういしておきました」
しーちゃんが尻尾の先をゆっくりと振りながら、キラキラとした眼を俺に向けた。
掌に収まるほど小さかったしーちゃんは、この一年の内に何度か脱皮を繰り返し、六畳間を一周するほどの大きさに成長していた。
最初の鐘が凍てつく夜を貫くように響き渡る──と同時に、遠くから猛烈に何かが駆けて来る音が聞こえて来た。
真っ白な雪を裂き、漆黒の影が玄関先で急停止した。
「──待たせたなぁぁ!」
馬の形をした闇が、元気よく喋った。
「来年一年、世話になるぜ。よろしくなっ!」
「あ、はじめまして、こんばんは。おちゃありますから、ひとくちどうぞ」
玄関まで進み出たしーちゃんが、闇に向かって誘いかけた。
白と黒、性格も反対そうな感じだったが、和やかな雰囲気で巳年から午年への干支の交代が終わり、最後の鐘の音が鳴り始める頃。
「おせわになりました──」
鈴の音の様な言葉とともに、しーちゃんは白い雪へと滲み消えて行った。
しーちゃんを見送り、俺に向き直った闇の馬はこう言った。
「ここに来る途中に、半額でゲットした寿司あるから食おうぜぇ。消費期限1月1日でお得にゲットってぇヤツだ。蛇ちゃん淹れてくれた茶もあるしよ!」
俺はその言葉にちょっと笑いそうになりつつ、黒馬を招き入れ、ゆっくりと玄関を閉めた。




