豪快?なギルド長、ガストン
むぅ……と低く唸る声が、ギルドの喧噪の中に沈む。
何事かとおもったらそれは麒麟もどきの唸り声だった。奴はゆっくりと俺を見つめて言った。
「そうか……まだ刻ではなかったと云うことか。では資格者よ。力を求めし刻には、我が真名を呼ぶが良い」
そう言い残すと、相変わらず情報量の少ない体をぼんやり霞ませ、次の瞬間には影も形もなく消えていた。
心なしか、最後の表情が切なげだったのは気のせいだろう。どうやって感情表現してるか分からないし。
──っつうか、呼ぶか馬鹿。そもそも長すぎて覚えられんわアホ。
ドゥウルルなんとかフォルティッシオなんとかピカソとか。長い上に最後が芸術家だぞ。更に意味不明じゃんなんなんほんとあいつ。
登場してからずっと混乱しか落としていかないぞまじ。
実は前世の頃から人のことを見抜く力には自信があったのだが、気のせいだったのかと思い始めるレベルだよこれ。
……いやまあ、そもそもあれどう見ても人じゃないしまあいいか。枠外扱いで。
……と、俺の脳内は全力で突っ込みを入れ続けていた。声に出さなかったのは、せめてもの理性ってやつ。
場の空気はというと、そらもう静まり返ったまま。
さっきまでのざわめきが嘘みたいに、皆が硬直している。
まあ当然だよね。謎落書き獣が現れて消えて、意味不明なポエムを吐いて去っていったんだから。俺でもポカンだ。
その沈黙を破ったのは、重々しい咳払いだった。
「……ふん。どうやら、珍獣は去ったようだな」
ギルドの中央、堂々と腕を組んでいたのは赤銅の髪を逆立てた豪傑。ギルド長と呼ばれていたその人である。
場を見守っていた彼は、今ようやく口を開いたのだ。
「おい、ブライド」
「はい、ギルド長」
呼ばれた副長のおっちゃんは慌てて背筋を伸ばす。さっきまで「また胃が痛ぇ」って顔してた人とは思えない切り替えの速さだ。
「さっきのは……やっぱりお前にも分からんか?」
「ええ、全く。俺もあんな代物は初めて見ました」
「ぬぅん……」
低く唸るガストン。豪快そうに見えて、意外と慎重に事を測るタイプらしい。
やがて、その鋭い視線が俺に向けられる。
「坊主。お前が原因か?」
「いや、俺も分かんないっす」
即答。だってマジで分からん。
SSR確定演出かましてる水晶の横に、落書きの化身みたいなのが現れて、勝手にポエムって勝手に消えただけだから。
俺に責任とか意味分かんないっすよほんと。
ガストンはそんな俺をしばらく睨み……次の瞬間、豪快に笑った。
「ぬははは! 面白ぇ。黒髪に全属性適性、そこに謎の変な珍獣。まるで祭りじゃねぇか!」
「ギルド長……笑い事じゃねぇっすよ……」
副長のおっちゃんが頭を抱える。
だが、ギルド長は気にせず俺を指差す。
「坊主、名前は?」
「高瀬翼っす。うっす。ツバサで大丈夫っす」
「ツバサか。よし、覚えた! 俺はガストンだ!好きに呼べ!お前は絶対伸びる。俺が保証してやろう!」
……え、保証とかされちゃったよ。大企業の内定通知かな?
いや、でもこれ……ギルド長改め、ガストン直々に目ぇ付けられたパターンってこと?
いやぁ…ははっ。またもや未来の面倒ごとを抱えてしまった気配がするで御座る。嬉しくともなんともねぇな。
「ブライド。こいつはしばらくお前に任せる。勝手に死なせるなよ」
「……はぁ、承りました。やりますよやればいいんでしょ」
「ぬははは!おう!頼んだぞ!」
副長のおっちゃんが苦笑いを浮かべ、俺の肩を軽く叩いた。
その手の重みが、責任の重さに変換されてるのは気のせいじゃないだろう。
そんなこんなで――ギルド長ことガストンとの初接触は、豪快すぎる笑いと一方的な保証で幕を下ろした。
俺? ええ、もちろん内心は一言に尽きます。
──詫び石はよ。ですね。
そろそろ暴動起こすぞ分かってんのか?




