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現実逃避が追いつかない


水晶に手を置いた瞬間、結晶は淡く光り出した。


最初は透明な輝きだったのが、すぐに色が混ざり合い、複雑に揺らめく。黒を基調に、赤、青、緑、茶……四属性が次々と入り乱れ、最後は虹色に近い光を帯びて、ホール全体を照らし出した。




「……な、なんだこれ」


「見たことねぇぞ、こんな色」




周囲の冒険者たちがどよめく。


受付嬢のミリアも目を見開いたまま、言葉を失っている。そりゃそうだろう。俺だって自分の手の下でキラッキラしてる水晶を見て「なんじゃこりゃ」としか思えない。




「……文献でしか見たことねぇが」




低い声が隣から聞こえる。振り向けば、副長おっちゃん――ブライドが険しい顔で水晶を見つめていた。




「全属性適性持ち……かもしれんな」




「は?」と声を上げたのはミリアだ。


周囲の冒険者も一斉に沈黙する。


何ですかそれって顔で佇む俺。


ブライドは眉間に皺を寄せ、俺を横目で見ながら続けた。




「黒髪で、全属性……。確率的には五十年に一度あるかないか、だ。俺も話でしか聞いたことはねぇ」




「そ、そんなに珍しいんですか……?」




ミリアが水晶を見つめながら呟く。




「ああ。ここにいる奴らで見たことあるやつはいねぇだろうよ」




ホールは再びざわめきに包まれる。


そんな中、俺はといえば……。五十年に一度の伝説級SSR引いたったわ笑やっぱり面倒ごとのタネでした本当にありがとうございます。


と、現実逃避真っ只中。


別に、普通に生きたいだけなのに……的な発言をするつもりはないが、それにしても波瀾万丈が過ぎやしないかね、今世。


神様やっぱ詫び石寄越せ、バイプッシュだ。


あーもうやっちゃおうかな。もう十連回しちゃおうかな。今だったらSSR十枚綴りで整列して登場するんじゃないかな。


そんな感じにヤサグレていると、視界の端に麒麟もどきが映った。


ヤツは得意げに、しかし相変わらず雑な見た目でニヤリとしている。毎回ちゃんとどんな表情なのか分かるの、ほんと腹立つな。


本当何してんだお前と思っていたら、ざわめきに被さるように、もはや聞き慣れてしまった低い声が響いた。




「混成なる渦……万象を内に抱き、古き理すら揺るがす資格ある者よ」




相変わらず落書きみたいなビジュアルで、ギルドのど真ん中で、ポエムを垂れ流している。


何言ってんだお前。




「この輝きはすなわち、全属性の交わり……


幾千の時を経て巡り来る、唯一無二の器――」




いやいやいや。だから本当に意味が分かんないの君の言ってることは。唯一無二とか言われても俺まだチュートリアル中だから。SSR演出はもういいって。




麒麟もどきは水晶を見つめ、さらに声を低める。




「……資格者よ。混沌を纏い、秩序をも壊すその力……いまこそ解き放つ刻が来る――」




出たよ。何回言うんだその厨二ワードお気に入りかい。


止めろそれは将来の古傷だ。自分史という歴史の何ページかを、真っ暗に染め上げる呪いだぞ。


周囲の冒険者は震えながら囁き合う。




「おい……やっぱあれ、喋ってるよな?」「なんだあれ……幻覚か?」


「いや、俺も見えてる……」




そうそう。分かる分かる分かる。俺も最初同じこと……てか、今現在も同じこと思ってる。


――けど、ずっと同じ感想ばっか言ってないで、話を進めません?


誰でもいいけど、居ない?この変な空気を変えてくれる人。




俺の願いも虚しく、場の空気は完全に混乱。ギルドのざわめきは嵐のように広がっていった。




そこへ、重厚な声が入口から響いた。




「おい……騒がしいと思ったら、珍獣が出たと聞いたんだがな。……なんだ、こりゃあ?」




全員が振り返る。


扉の前に立っていたのは、がっしりした体格の男だった。




麒麟もどき、虹色に光る水晶、ざわめく冒険者たち。


そして、謎の強そうなおっさん新登場。




さて、このおっさんは場を収めるヒーローなのか?それとも混沌を更に加速させる頭おかしいやつなのか?




待て!次話!

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