ギルドで測定(カオス再び)
街の中に入った俺は、副長おっちゃんに連れられてギルドへ向かうことになった。
黒髪ってだけでジロジロ見られるのは相変わらずだ。視線が突き刺さる。いや、マジで俺なんか悪いことしましたっけ?
何もしてないのにこうなるって、黒髪差別相当なんだな。
「悪ぃな坊主、変に目立たせちまってよ」
横で歩くおっちゃんが、くたびれた顔でぼやいた。
さっきまで「門ジィ」と丁々発止やってた人と同一人物とは思えん、妙に気の抜けた雰囲気。
「いや、おっちゃんのせいじゃないから気にしないでよ。てか、そういやまだ名前聞いてなかったな」
門の所で出会って数分程、ずっとおっちゃん呼び。流石にそろそろ名前の一つも把握しないのは失礼が過ぎるってね。
「ああ、そういやそうだったな」
おっちゃんは頭をかきながら、少し気恥ずかしそうに笑った。
「ブライドだ。ギルドじゃ副長なんて呼ばれてるが……普段はただのおっちゃんでいい。肩書きで呼ばれるとくすぐったいんだわ」
「ブライド副長ね。俺、高瀬翼」
「タカセツバサ?変わった名前だな」
「呼びづらかったら翼でええよん」
「分かった。じゃあツバサな」
「おん、じゃあこっちはおっちゃんで」
「おう、その方が気楽でいい」
自己紹介ひとつで、さらにおっちゃんの人柄が見えた気がした。豪快さは無いのに、周囲を安心させる空気を纏ってるというか。こういう人のが現場で愛されるんだろう。
そんなやり取りをしているうちに、ギルドに到着。石造りの堂々とした建物で、扉をくぐると中はざわめきと熱気に包まれていた。武装した冒険者達が行き交い、酒場併設のホールは既に昼間から賑やかだ。
「副長、お疲れさまです!」
声を掛けてきたのは、栗色の髪を揺らす少女。年の頃は俺とそう変わらないくらい。新人っぽい初々しさが漂っている。
明るい瞳でにこっと笑って――その後ろで俺を見るなり、わずかに目を丸くした。
おっと?この黒髪人間の私めの頭に何か付いているのかな?んん?
……まあ、この黒髪を見た直後に嫌悪感全開にしない感じを見るに、さっきまでの街の奴らとは全然反応が違うんだけどね。
「こっちは今日拾った坊主だ。名前はタカセツバサ。今日はギルドに登録しに来たんだ。ミリア、魔力測定頼めるか?」
「了解です!」
ミリアと呼ばれた少女は、おっちゃんに言われていそいそと準備を始めた。準備中におっちゃんが教えてくれたのだが、彼女は辺境支部に入ってまだ日の浅い受付嬢らしい。
俺に向ける視線は好奇心半分、警戒半分ってところか。まあ、黒髪だからしゃーない。
魔力測定用の水晶が用意される。丸い透明の結晶を台座に置き、その上に手を乗せろとの説明を受けながら手を伸ばすと――
「……ん?」
ざわっ、と周囲がざわめいた。
視線の先を追うと、壁の隅に……あった。いや、居た?……黒い体躯、金の鬣。雑なデフォルメっぽい落書きのようなナニカ。麒麟もどきだ。
「な、なんだあれ……?」
「落書き……? いや、動いてるぞ?」
冒険者達が口々に呟く。うんうん、分かる。俺も最初そうだったわ。あの見た目で現実に存在してるの、意味分からんもん。
情報量が少なすぎる輪郭に、色だけベタ塗り。児童向け絵本に紛れ込んだみたいな存在感。なのに、確かにそこにいる。理解不能。
何しに来たのか分からないけどさ、俺に絡んで来るのだけは止めてねー?そう心の中で祈りながら、視線を向けないようにしていたのだが、ヤツは悠々と真っ直ぐにこっちに向かって来る。止めろお前ふざけんなマジ空気読め。ここは満員のギルドホールだぞ。
「混成なる渦の強まりが始まっている。……資格者よ、今こそ刻だな?」
うるせえよバカ相変わらず言ってることの意味何一つ分かんねえからなんなん君。
ニヤリとすんな近付くな情報量がががががががが。
「え、聞こえた?」「今喋ったよな?」「いやいや、生き物っていうか落書きだろアレ」
ほらぁ……皆混乱しちゃってるじゃぁん……。
どうすんのこの空気?
…………うん、しゃーない。俺は進むよこうなったら。
ため息をつきながら、手を水晶に乗せた。
結晶が淡く輝き始め――色は黒を基調に、様々な色の気配が混ざったような複雑な光を帯びる。
一瞬、場の空気が凍った。え、何事?
「ほう……やはり汝こそ我が力を扱うに相応しい器」
なんかよく分からないことを宣っている麒麟もどきをちらっと見た。ニヤリとした表情(情報量少ないのに分かるのがまたムカつく)を浮かべている。
おいコラ止めろ俺を巻き込むな。嬉しそうにすんじゃねえよ。
周囲のざわつきを他所に、俺は一人天井を眺める。
面倒事の空気しかしねぇ……(泣)




