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死にかけ芸人、副長


そんな経緯を経て、俺は無事に門を抜けて街に入った。


……まあ、入れたってだけで「無事」と呼べるのかは微妙なんだけどね。門ジィ曰く、俺は黒髪と文無しと身分証なしのトリプル役満で、怪しさ天元突破の最強不審者だったらしいし。




そんな俺に助け舟を出してくれたのはこの草臥れた中年サラリーマンみたいな見た目のおっちゃんなんだけど……。


なーんで、俺を助けたんだろうね?


正直、さっきの門ジィとの会話は、嘘ではないけど建前でもある理由で説得していた雰囲気があった。


まあ、そう思った理由はただの直感だから、間違ってるかもしれないけど。


何となく、俺を助けた理由が"黒髪だから"ってのはありそうなんだよね。




「なあ、おっちゃん」




「ん?」




「あんた、身内に黒髪でもいんの?」




という訳でおっちゃんに聞いてみた。


おっちゃんは少し眉を寄せて、腕を組んだ。歩きながら、ゆっくり言葉を選ぶ。




「……そうじゃねぇ。黒髪が不吉だってのは、この街じゃ昔からの言い伝えみたいなもんだ。実際、それで揉め事も起きてきた。だから門ジィが警戒するのも分かる」




一呼吸置いて、おっちゃんは俺を横目で見た。




「けどよ、髪の色ひとつで人を決めつけるのは、俺ぁ好きじゃねぇ。俺がそういうので切り捨てられたらって考えると、寝覚めが悪くてな」




「……」




なるほど、そういう人情の人ね。嫌いじゃないよそういうの。


しかし、すげーまともなこと言ってるんだけどさ。話し方がくたびれ過ぎてて、なんか自分のことより他人を庇うのがクセになってる感じがする。


マジおっちゃん疲労困憊のサラリーマンの顔してる。


この人絶対、上司には仕事を押し付けられて部下には仕事を増やされるタイプだな。




「まあ、俺は副長なんて肩書き背負っちまってるからな。困ってるやつを門前払いってのは、ちと性に合わねえ」




「ほほぉん?……カッコいいねぇ。けどおっちゃん、苦労性だね。さっきも死にかけるとかどうとか言ってたもんね?」




「ははっ、そうなんだよ。俺、月に一度は死にかけるのよ。そのせいで口癖が死んだになっちまったよ」




「超えちゃったね。死にかけのその先に向かったね」




「おうよ。先週はレッサードラゴンに襲われるし、先月はゴブリン三十匹に囲まれるわ、その前なんかボアドッグに食われる所だったんだぜ?あ、一角熊にも食われそうになったな」




「多すぎ多すぎ」




軽口叩きながら笑うおっちゃん。いやいや、それ本当なら何で生きてるのって話ですよ。語り口が妙に板についてるから、多分本当のことなんだろうけど。


逆に凄えなこのおっちゃん。




──とまあ、おっちゃんの死にかけエピソードを聞きつつ、街の通りを歩く。


石畳の道、木造の建物。人通りはそれなりに多い。だけどちらほら、俺を見て眉をひそめる人がいるのは気のせいじゃない。黒髪効果、抜群すぎんだろ。


何したんだ昔の黒髪は。




「おっちゃん。黒髪ってそんなに嫌われてんの?」




「……まあ、そうだな。正直、良い目で見られることは少ねぇ。だが全部が全部ってわけじゃない。俺みたいに気にしねぇやつもいる。気にしねぇ連中もちゃんといる」




おっちゃんはそう言って、ふっと真面目な顔になった。




「要はな……見てから決めりゃいいんだ。黒髪だからって理由で、善人も悪人も一緒くたにしちまうのは、やっぱおかしいと思うぜ」




「……なるほどね」




胸の中でちょっとだけ引っかかっていたものが、すこし晴れた気がする。


なんだかんだで、このおっちゃんが庇ってくれたのは、黒髪差別に懐疑的だからこそだったのだろう。


まあ、にしても文無し身分なしの見たこともない奴を庇うなんてのは、お人好しにも程がある。


つまりこのおっちゃんはそういう人なんだろう。




「とにかく、まずはギルドだ。身分証を作って仕事を斡旋してもらわねぇと、坊主は飯も宿も手に入らねぇ」




「へい。頼りにさせてもらいやす副長」




「副長はやめろ。普段はただのおっちゃんでいい」




「いやいや、自分で副長って言ってたやん」




「……死んだって言ってたのと同じノリだ」




おっちゃんは肩をすくめて、笑いながら先を歩いていく。


俺はその背中を見つつ、なんだかんだでこの人と出会えたのは幸運だったな、と思った。




これにて異世界生活、ようやくまともなスタートライン。


それを導くのが、死にかけ芸人枠の副長おっちゃんってのも、面白くて嫌いじゃない展開だ。




OK神様よ。


詫び石は今回請求しないでおいてやろう。


感謝なさい。

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