翼、厨二世界へ仲間入り
ごほん、と副長のおっちゃんが咳払いをする。
それを見てセリナは半歩下がる。分かりやすく説明を譲る構え。
ギルド長は腕組みしたまま微動だにせず。初めから自分で説明する気はないらしい。
その二人の様子を見た副長のおっちゃんは、きりっとした顔で話し始めた。
うん、なんでキメ顔なんだろう?……つっこまない方が良いんだろうな。俺は空気が読める子だから、黙って聞く。
「先ずは確認だが……魔王ついては知ってるよな?」
「おん。まだ支配した訳でもないのに、世界の半分をやろう!って交渉してくる、慌てん坊のことっしょ?」
「ぬはは!慌てん坊!確かにその通りだがな!」
「こら、ふざけないの」
「大真面目なんだなぁ。これが」
「それなら尚悪いです」
ギルド長が笑い、セリナに諌められた。
普通に思ったことを言っただけなのに、ボケだと思われたらしい。解せぬ。
抗議をすると、副長のおっちゃんが納得したように頷いた。
今のやり取りで何を分かったと申すかね。おっちゃん。
「まあ、お約束だな。分かった。魔王についての説明からな」
「ん?違うん?」
「ある意味では当たりだけどな。俺達の言う魔王は、そのことじゃない」
「ほう?」
「この大陸だとな、魔王と言えば、刻の破壊者ロレンスが有名なんだ」
何それ馬鹿かっけぇ。厨二心を擽る異名である。
ちょっと楽しくなって来たので、より身を入れて話を聞く姿勢を作る俺。
「ロレンスは千年前に実在した最低最悪の征服者でな。大陸の四分の三を滅ぼした最強の魔王だ」
「大陸滅びかけとるやん」
「だから最強の魔王なんだよ」
「実際、凄かったらしいぜ?そいつのせいで、千年前の大陸の文明は殆ど原始時代まで後退したって話だからな」
それは土器土器する話ですな。やべぇやつじゃん刻の破壊者。
「んで、そのやばい魔王がどしたん?」
ワクワクしながらそう質問すると、副長のおっちゃんはまあまあと手で俺を制した。
「魔王に関しては、詳しく知りたかったらまた今度、歴史書でも読むと良い。本題は別だ」
「え〜……」
「まあ、気持ちは分かるがな」
「男の人って、この手の話好きですよね」
ギルド長が微笑ましいものを見るような目で笑い、セリナが溜め息を溢す。
いやあ、この手の話は浪漫だから。気になるのはしゃーない。
「はは。ツバサも男だってことだな」
分かってるね、おっちゃん。後で甘味を進呈しよう。
頷き合っていると、セリナは呆れた様子で俺達を眺めていた。
「分かりましたから、話を進めてもらっても?」
「おお、悪い。……んで、まあ、そこから百年位に一度、魔王を名乗る奴が現れる様になる。有名処だと、黒の団の頭領アーガス、解放戦線のメフィストとかだな」
「ほほう?」
「一番最近だと、百二十年前だな。黒獣のヴァン」
素晴らしい厨二ネーム。是非とも全部の異名を聞きたい。
と、盛り上がり始め所で、セリナがまた溜め息を吐いた。
「副長?説明代わりましょうか?」
「う……いや、すまねぇ。進めるぞ。いいな?」
「やむなし」
「……次、話が逸れたら私が話しますからね」
「頑張れおっちゃん。あんたなら出来る」
「ツバサも煽らないでね?」
「うす」
注意されたった。気を付けましょう。厨二センサーは一時封印する方向で。
姿勢を正すと、副長のおっちゃんは気を取り直すように、咳払いを一つ。
それから真面目な顔で改めて語り始めた。
「まあ、要するに魔王っつうのは、基本的には刻の破壊者ロレンスを始めとした、歴史に名前を残す大虐殺をした奴のことを指す訳なんだ。ここまではいいな?」
「うぃ」
要するに、悪いやつってことなのだろう。
実例のある、実在する人物だ。
地球で言う、ユダヤ人をあれをした人とか、カンボジアの例の人とか、その人達を纏めて魔王と呼んでいるという認識で間違いないだろう。
「んで、ここからが魔王の器の話になる」
「本題ですな?」
「そう。この歴代の魔王達は、時代や出身地、年齢性別なんかもバラバラなんだが……一つだけ、共通点がある」
「ほほう?その共通点とは?」
そう相槌を返すと、副長のおっちゃんは焦らすようにワンテンポ間を置いてから、俺を指差した。
なんぞや。
「それはな……黒髪で、魔法が使えるって所だ」
そう言って、“黒髪”の俺を真っ直ぐに見つめたのだ。
黒髪で、当たり前に魔法を使う、出自も曖昧な、怪しさ満点の俺を。
……わぁい。確かにそりゃ魔王の器だって思われてもおかしかないやないっすか。
染め粉買ってこなきゃ。金髪でヤンキーデビューだくそったれぃ!




