馬と共に起きぬ
さて、糖の戦場とセリナのガチ説教のその後、俺とセリナ(麒麟もどきはいつの間にか消えていた)はレッサードラゴンの痕跡の詳細を報告する為に、そして俺はそれに加えて再び一文なしになってしまったので新たな依頼を受けるべく、ギルドに戻った。
日も完全に落ちて夜といっても支障ない時間帯になっていたので、空いているか心配したのだが、セリナ曰く夜間もギルドは空いているらしい。
ただし、ホールに併設されていた酒場の経営がメインとなっていて、夜にギルドとしてできることは、任務完了報告くらいらしい。
え、嘘。じゃあ俺今日宿なしじゃん?
異世界転生初日、まさかの野宿?
戦々恐々としながらギルドへ向かう。
セリナが纏めていた報告用の書類を受付に提出しようと思ってたら、酒場にて陽気に酔っ払うギルド長と酔い潰れてる副長のおっちゃんを発見。
なんかやたら声のデカい虎の獣人の女と飲み比べをしてて、酒場はおおいに盛り上がっていた。
書類は酔っ払いに託す訳にもいかないので、受け付け嬢(ミリアとは別人。俺が黒髪だからか、めっちゃ態度が悪かった)に提出しておく。
さて、寝床はどうしようかと悩んでいた所、セリナが冒険者と兼任で働いているらしい診療所の部屋を貸してくれると言っていたが、それもどうなのかと思い丁重にお断り。
すると、新人冒険者専用で一週間までだったら無料で泊まれる宿があるとのことなので、本日はそこで夜を過ごすことにした。
……いや、宿っつうか馬小屋だったんだけど。
文字通りの馬小屋。隣人は馬。
3つ隣にはため息をつきながら寝る支度をしてる他の新人冒険者。気持ち、分かるわぁ……。
お金は今後使い切らない。絶対。ただし甘味を食べる時は別とする。
そうして、俺の異世界転生初日は、藁と馬糞の匂いに包まれて終わった。
翌日。異世界転生ニ日目。
藁を下にして寝たせいで背中が痛い。しかも藁が髪に刺さってるオマケ付き。寝心地は最悪だった。
ここは人の尊厳を試す場所なのだと確信。
馬は普通に寝息立ててたけど。
俺は朝から依頼を受ける為にギルドへ。
セリナは俺から目を離したら危険だということで、今後も同行すると申し出ていた。前日の解散前に約束していたので、ギルド前で合流。
今日もお仕事頑張るぞいってね。
「おはよう、ツバサ。……大丈夫? 顔色ひどいけど」
開口一番、俺の目の下のクマを見て心底心配してる様子のセリナ。
「問題ない、むしろ健康そのもの」
「問題しかない顔してるわよ」
即ツッコミが飛んできた。その通りです。はい。だから今日はちゃんと宿に泊まろう。決めました。
ギルドに入ると、受付嬢のミリアがぱっと顔を上げた。元気な声で「タカセツバサさん、セリナさん!」と呼ぶ。
あ、翼でいいよ。君は黒髪を差別しない良い子だって昨日よく分かったよ。
今後とも仲良くしていこうね。
「ちょうどよかったです! ギルド長がお呼びです!」
「呼び出し?俺何かやらかしたん?」
「いえ、むしろ逆です」
ミリアはにっこり笑った。なんと、良い知らせだったらしい。
「昨日の依頼報告、確認しました。ノクティナル草の群生地発見、レッサードラゴンの痕跡確認、フェリグラス草の完璧な採取、それに完了までの速さ。Eランクのセリナさんが同行していたとしても、どれも新人としては規格外です」
「お褒めにあずかり光栄でーす」
「なので——Fランクでは不釣り合いということで、昇格試験、受けてください!」
……おぉ、そう来たか。
◇ ◇ ◇
俺とセリナはミリアに案内されて地下訓練場へと降りる。
石造りの闘技場みたいな場所には、すでに副長のおっちゃん——ブライドが待っていた。酒抜けてる。よかったね。
隣には厳つい短髪のおやっさんっぽい人。いかにもゴリゴリの武闘派教官といった出立ち。
誰だろうと思ってたら、副長のおっちゃんが口を開く。
「来たか。昨日の成果は認めざるを得ん。だがギルドは形式を重んじる。FからEへ上がるには、必ず戦闘試験を通らにゃならん」
「なるほど、了解」
「そして彼が試験官を務めるハンネスだ。普段は戦闘訓練を担当する教官だな」
紹介された試験官——ハンネスが一歩前に出る。
「おう、ハンネスだ。お前が規格外の新人か」
「うす。高瀬翼っす。おなしゃす」
睨みつけるような目付きで頭からつま先までジロジロと確認される。
絶対この人鬼教官タイプじゃん。怖ぁ。




