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辺境ギルドで雑用から始める規格外——尚、魔王の器らしい  作者: ぽん
クラン結成編ーーフラグ建築士、仲間巻き込み仕様
17/23

刹那、甘味に生きる


「で、どこ行くつもりなの?」




正気に戻ったセリナが、肩でため息をつきながら俺を見上げる。


おや、敬語が消えたぞ?と思っていると、少し視線をそらして唇を尖らせた。




「もう敬語、止めるわよ。あなたといると、ツッコミが追いつかないわ」




「へーへー、了解っす」




へらへら笑いながら答える。セリナはふっと笑って俺の隣へ並び歩調を合わせた。




「で、どこに行くつもり?貴方、この辺のお店知ってるの?」




「いや、全然」




俺は胸を張って答える。まあ今日初めてこの街に来たばかりだし。どこに行っても初見。どうも初見の翼です。




「そ……「大丈夫だ、問題ない」




セリナのツッコミを手で制し、そう続ける。そう、問題はないのだ。何故なら、今の俺には魔法がある。




副長のおっちゃんと街を歩いていた時、ふと漂ってきた甘い匂い。それの発信源であるとある店を『広範囲ソナー』で隅から隅まで確認した。その結果、約束された勝利への道筋が明確に記されたのだ。


絶対、美味い。あってよかった感知魔法。




「俺の嗅覚が捉えた、勝利確定の店がある」




「意味が分からないわ。……変な店に入るつもりなら、全力で止めますからね」




セリナがため息を溢す。任せなさい。繰り返すようだが既に勝利は確定しているのだ。




「挑む前に勝利を手中に収めるか。それでこそ因果に刻まれた運命を切り裂く者ぞ」




「今“運命”って書いて“さだめ”って読んだろ?」




「……意味が分からないのは、この子の方ね」




厨二センサー、三度発動。こいつはこいつで、ついて来るつもりのようだ。音もなく着いて来る麒麟もどき。


歩いてる動きはしてるのに、動いてる音がない。何故?






そんなこんな、しばらく歩くと、三日月を象った木の看板が目に入った。品のいい硝子窓、白いレースのカーテン——看板には【三日月堂】の文字。




「えっ、ここ……三日月堂!?」




セリナの声が半音跳ねる。そんでもって肩を揺さぶられる。


テンション上がってますねぇ。




「ここのスイーツ、すっごく美味しいのよ! 嘘、貴方何者!?」




「ん?鼻が効くだけの一般人」




「一般人は匂いだけで美味しい甘味処を見分けられません!」




割り増し語気強めのツッコミをくらいながら扉を押すと、小さな鈴が転がった。



「いらっしゃいませ!」




元気のいい少女がぱっと顔を上げる。年は一桁終盤くらい、動きにむだが無い。そして気持ちの良い笑顔。——看板娘、というやつだな。




「二名様……あ、えっと……え?三、名様?」




少女の視線が俺とセリナを見て、そして後ろの“落書き”で止まって固まる。まあ、そうなるよな。ごめんね、謎を連れ歩いてて。




「三名ね。席、空いてる?」




「は、はい! こちらへどうぞ!」




木目のきれいな四人掛けへ案内され、俺とセリナが腰を下ろす——その瞬間だ。




「資格者の傍らに座すのは必然——」




いつの間にか、麒麟もどきが当たり前の顔で椅子にちょこん、と座っていた。いや“座っている風”と言うべきか。体の形が、椅子のサイズに合わせてぴったり変形している。




「なんでフィットしてるの? 物理法則はどこ行ったの?」




セリナが即ツッコミ。




「混沌に物理法則は従属——」




「ドヤ顔しないで!何でその情報量の少なさで表情が分かるの⁉︎」




……ツッコミ役がいるって楽だな。俺、心の労力が三割減ってる。ありがてぇ。




そんな事を思っていると、カウンターの奥から、強面で威圧感MAXの親父さんがこちらを覗いている。腕には刺青らしき跡。え、裏稼業の人居る?


と、思ったが表情は恥ずかしがる少女のようだった。もじもじしてるその仕草が逆に怖いんどけど。


美人の奥さんがそっと肘でつつき、「大丈夫よ」と目で合図。


親父さんは小さくうなずき、震える手で絞り袋を握り直した。


……何あれ?何の一幕なんだ?


周りの人達は特に気にした様子はなし。


じゃあ俺も気にしなくていいか…?




「メニューどうぞ!」




そう考えていると、少女が木のメニューをくれる。うむ、そんなことよりもスイーツだな。甘味は何事においても優先される事項である。


俺はメニューを開き、そして——三秒で閉じた。




「よし。苺のミルフィーユ、季節のタルト盛り合わせ、濃厚プリン、焙じ茶パフェ、わらび餅、胡桃最中、チーズケーキ二種、あと——」




「ちょっと待って!? 貴方何人前食べるの!?」




セリナが肩を掴んで揺らす。




「え、一人前だけど。セリナは何にする?」




「明らかに一人前超えてるわよ⁉︎」




少女は困惑しながらも、必死に書き取りをしている。しかし、本当に全部食べるつもりなのか疑っている様子。




「問題ない、全部食う。甘味は刹那、人生は一度きり」




「かっこよく言えば何でも通ると思わないで⁉︎」




セリナが机を小突く。


向かいの落書きが、すっと手(らしき線)を上げた。




「我は清浄なるオドと三日月の月光を」




「そういうのは扱ってません」




少女が真顔で即答。強い。




「むう……?ではフルーツパフェを」




「貴方食べ物食べられるの⁉︎」




セリナはツッコミで忙しそうだ。メニューを見る余裕がなさそうである。




そんな折、カウンターの奥で、親父さんが小さく呟く声が聞こえる。


「——雪の息。砂糖の結晶が、冬晴れの路地で瞬く……」


何か詩的な言葉。奥さんが「素敵」と微笑む。


そっちはそっちで何やってんの?


凄えな。ボケが渋滞してる。こんままだとセリナが過労死するぞ。






「それじゃ、少しお時間頂きますね!」




注文を取り合えると、少女がぱたぱた奥へ走っていく。


セリナは椅子にもたれて、深々とため息。




「ねえツバサ。本当にそんなに食べるつもりなの?」




「もちろん。俺の胃袋は宇宙に匹敵する広さだ」




「人間の胃袋は、普通宇宙とは張り合えないのよ……」




ため息を溢すセリナを尻目に、俺はメニューの裏を二度見して、まだ頼み漏れがないか検算する。——完璧。


糖分。脳細胞のオイル。今日は働いた。補給は正義。




「……ねえ、ほんとに全部食べきる気なの?」




「当然」




「……」




セリナの顔から、すうっと血の気が引いていった。


まさにドン引き。超ウケる。




——こうして、俺たちの三日月堂・初来店は、セリナの壮絶なドン引き表情で幕を開けた。


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