胃袋にダブルアタック!
ギルド内にまだざわめきが残っている中、セリナが、ふと思い出した様子で、慌て始めた。
そういえば、まだ外縁周辺のレッサードラゴンの報告はしてないね。
うん。大問題だから、副長のおっちゃんにも聞いてもらわないとね。
ただでさえノクティナル草の事で胃に大ダメージを受けてるのに、ここで更なる追撃が来るだなんて……副長可哀想笑。
倒れないといいな笑。
同じ可能性に考え至ったであろうセリナが、冷や汗をかきながら此方を見る。
純粋に副長のおっちゃんのことを心配してるようだ。
「あの……報告、しなくちゃ、ですよ……ね?」
「おん。報告しない方が副長のおっちゃんの胃に与えるダメージデカいと思うよ」
セリナはガックリと肩を落としながら「ですよね…」と呟いた。
何やら気が重そうだから、俺が報告したろう。
いまだにワタワタしてるミリアに声を掛ける。
「おーい、ミリアさんや」
「あ、はい!何でしょう?」
「もう一回副長のおっちゃん呼んで」
「え…?」
「ついでに、胃薬と強心剤も用意してちょ」
「……ま、まだ何かあるんですね?かしこまりました……」
頬をひくつかせながら、ミリアは奥へ歩いて行く。
少しして、青い顔をした副長のおっちゃんを連れて戻って来た。
ちゃんと胃薬らしき小瓶を片手に持ちながら。
「……まだ、報告があるって?」
戻ってきた副長のおっちゃんは、もう既に片手で胃を押さえている。
いや、その姿勢がデフォルトなんか?ってレベルで定着してきてて笑う。
ギルド長も興味深そうに腕を組みながら聞きいる体勢。
再度集まった面子を見て、セリナがすっと一歩前に出た。
「私から報告します。……ツバサさんが森の外縁付近で、レッサードラゴンの痕跡を発見しました」
「…………は?」
短い沈黙。
次の瞬間、ミリアが真っ青な顔をして口元を押さえた。
ギルド長も、ニヤついた笑みを消して眉を顰める。
「……レッサードラゴンが、外縁に、だと?」
その言葉と同時に、副長のおっちゃんが「ごふっ」と咳き込み――吐血した。
副長のおっちゃんの胃袋にクリティカルダメージ。流石に吐血まで行くと笑えない。
隣でセリナとミリアが慌てて回復魔法を掛け始める。
副長のおっちゃんは膝から崩れ落ちながら「ツバサに……殺される」と呟いていた。
いや責任転嫁やめて?俺のせいじゃないっすよ?
ギルド内が、またぞろ騒がしくなる。
そんな中で、ギルド長がすっと俺の横に並んで来た。なんぞ?
「その話が本当なら、本格的に奴を討伐する必要が出て来るな」
「おん。街に被害が出るもんね」
「おう、その通りだ。まだ街に被害が出る前に分かって良かったぜ。報告感謝する」
ギルド長はそう言うと、ばすんと俺の肩を叩いた。本人的には軽くのつもりなんだろうけど、思わず「おっふ」って変な声が出たぞ。ギルド長、力強すぎ。
「にしても、坊主。……ノクティナル草にしろ、レッサードラゴンの痕跡にしろ、偶然見つけるにしちゃ出来過ぎてる。……どうやって見つけた?」
「ん? そら探知魔法でちょちょいと」
「……探知魔法、だと?」
「え、うん。探知魔法」
碧眼を細めて俺を見据えるギルド長。
……あれ、なんか視線がめっちゃ真剣になってない?その遂に見つけたぜとでも言いたげな表情止めて?
さっきまで爆笑してた豪快なおっちゃんとは別人みたいだぞ。どした?
「ほう……探知魔法か。成る程な」
口元がわずかに吊り上がる。
そして、ボソリと何かを呟いた。
「――この坊主、やはり……」
「ん? どしたんギルド長?」
「……いや、なんでもねぇさ!」
豪快に笑うギルド長。絶対なんか企んでる笑い方じゃんそれ。怪しさ満点です。そんで、背中をバシバシ叩くのは止めて下さい痛いです。
さて、そんなギルド長の意味深な態度に惑わされつつ、その後も、ノクティナル草の換金騒ぎは続いた。
鑑定額は最高額となる金貨一枚と鑑定され、副長のおっちゃんは胃を抱えて再度崩れ落ち、ミリアが大袈裟に驚き、ギルド長は爆笑。
この三人のリアクション芸だけで一つの芝居が成立しそうな勢い。これもうお家芸だろ。
……んで、換金が済んで財布が膨れた俺は、胸を張ってこう思う。
――さて、甘味処行くか。
今日はもうそれなりに脳を働かせた。糖分が不足している。エマージェンシー。
直ぐに向かうぞ、さあ行かん。約束された勝利の地へ。甘味isぷぅあーふぇくつ。
後ろでセリナとミリアが「え……今この空気の中で行くんですか……?」と顔を引きつらせていたが、気にしない。
はっはっは。二人共教育(洗脳)の余地ありだね。うむ、良き。




