副長、死す(胃袋的な意味で)
さて、フェリグラス草とノクティナル草を収穫した俺とセリナは、森を後にすることにした。
帰還前に一応ソナーをもう一発。
「『広範囲ソナー』、発動っと」
掌から放った揺らぎが森の外縁を撫でる。……うん、やっぱり大きな反応はない。安心安全。ではどんどんじゃんじゃん進んでいこかい。
「……ちょっと待ってください。危険は無いんですか?」
「へーきへーき。敵影反応なーし」
気楽に答えながら歩いていると、不意に妙な気配が引っかかったので、少しだけ脇道に逸れてみる。
そうして、向かった場所で見つけたのは、地面の抉れた跡、焦げた木々、獣道に残る巨大な爪痕etc。
「……おやおやぁ?」
しゃがみ込んで触れてみる。熱はもう失われてるが、これは明らかにデカブツの残滓。
「こ、これは……レッサードラゴンの痕跡です!こんな外縁近くまで……不味いです。すぐにギルドに報告しないと……」
セリナの碧眼が焦りで揺れる。ギルド報告案件二個目の登場に動揺しているようで。
「確かに不味いなぁ……。あ、じゃあさ、何してたかちょっと探って詳細まで報告しちゃう?」
「冗談でもそんな危険侵すものじゃありません!」
「冗談じゃなくて提案なんだけど」
「それなら尚悪いです!」
思い付きで話してたら叱られちった。
なんか、お母さんに説教されてるみたいでしたね。母ちゃんやおかんじゃなくて、お母さん。
割とちゃんと怒られちゃったので、素直に謝って素直に撤退。
街の入り口でまた門ジィに睨まれる。
さっきドヤ顔でギルドカード見せびらかしたのがそんなに頭に来たかい。
仲直りの印にハイタッチしようとしたらスルーされました。
大人って難しい。
そんなこんなギルドに戻ってきた。収穫を提出する為に受付に真っ直ぐ進む。
ミリアが俺達の顔を見た瞬間、ぱっと向日葵が咲く様な笑顔。飼い主の帰宅を待ち侘びてた小型犬みたいだ。
「お二人共、ご無事だったんですね!」
「ええ。心配してくれてありがとう」
「おーす、ご無事に帰還だよー」
各々の返答を返して、早速納品する。
「これがフェリグラス草、十五束ね」
「採取可能量ギリギリまで取って来られたんですね。お受け取りします。……わあ、とても丁寧に纏められてますね。流石セリナさんです」
「おん、とても綺麗で良いお手本でした」
「ちょっと……止めて下さい。普通に取っただけですから」
台詞とは裏腹に嬉しそうなセリナ。照れてるねってミリアと二人で笑ったら怒られました。大人って理不尽だ。
「あと、こんなん見つけた」
「はい、どれですか?」
採取用ポーチからノクティナル草を取り出す。
するとミリアが固まった。どした?
目の前で掌を振ると、ハッとした様子で目を瞬かせたあと、顔を真っ青にして慌てて裏へ駆け込んだ。
「ちょっ……ちょっと待ってて下さい!」
慌ただしく裏に向かうミリア。騒つく周囲の冒険者。また黒髪が何かやらかしたのか?って空気がギルドの受付ホールと併設された酒場に広がる。
「何よこの空気は」
「それだけ貴重な薬草なんです。説明しましたよね?」
「正直そこまでだと思っとらんかった」
「そうですか……では、コレで理解して貰えましたか?」
「そらもうばっちり理解しました」
右手でグッドマークを作ると、仕方のない人って感じの溜め息を返されました。
それから数分で豪快な笑い声と共に現れたのはギルド長のガストン。その後ろに胃を押さえた副長のおっちゃんことブライド。
貴方、いつもお腹痛そうだね。フェリグラス草いる?
「ぬははは!なんだこりゃ!お前、初依頼でノクティナル草って!ぬはは、腹が痛ぇ!」
「笑い事じゃねえですよギルド長……。おい、鑑定士を呼べ!」
副長のおっちゃんに呼ばれて引っ張り出された鑑定士が、まだ昼飯のおにぎりを持ったまま現れる。細身の眼鏡の兄ちゃんだった。
「何!?俺休憩中だったんだけど!?」
「それはすまんがそんな事よりこいつを見てくれ!」
「そんな事じゃないで…………はぁ!?ノクティナル草!?ここらじゃ群生してない筈だぞ!?」
ノクティナル草を確認した途端、顔色が一変。手に持ってたおにぎりを取り落とした事にも気付かず、震える手で鑑定を始めた。
その様子をギルド長はニヤニヤ笑いながら、ミリアははらはらと、副長のおっちゃんは何やらぶつぶつと呟きながら見ていた。
「ノクティナル草なんて高級素材、利権関係でガッチガチに固まってんだぞ……こんな辺境でそんなん取れると知れ渡ったら……教会から睨まれる!中央からの圧力!ぐぁぁっ!胃が!胃が痛い!」
めちゃくちゃ冷や汗かいてて草。どんまい副長のおっちゃん。
そして少し経った後、顔を青ざめさせた鑑定士から死刑宣告を告げられる。
「間違いなくこれはノクティナル草です。……しかも、最高品質です」
「ぬぅああああ!胃が……!………死んだ……」
副長おっちゃんが崩れ落ちた。対照的にガストンは涙を流して爆笑。ミリアは顔面蒼白で震えている。
周囲の冒険者達もわらわらと集まり、口々に「マジかよ……」「こんなん事件じゃねえか」とざわめく。事件発生しちゃった。ウケる。
そのまま副長のおっちゃんは鑑定士と一緒に裏にドタバタと走って行った。
頑張れ副長。コレからが大変だ。俺は陰ながら応援してるよ。
いやあ、責任を負わなくて良い立場なのは気楽でいいね。




