甘味が金貨でフラグが薬草に……?
そうして辿り着いた先。苔むした倒木の陰、木漏れ日が斑に落ちる窪地に、フェリグラスとは違う薄紫の影が揺れていた。細い茎に月光色の花弁が一輪、夜の名残みたいな冷たい艶。
木漏れ日を受けて、斜面の下にひときわ鮮やかな青銀の光がちらついた。
「……これは……!」
セリナが駆け寄り、息を呑む。彼女の碧眼が大きく見開かれ、頬がほんのり赤い。
「ノクティナル草、です。間違いありません……!」
その声音は熱を帯びていた。
俺も後ろから覗き込む。細い茎の先に、夜空の一部を切り取ったみたいな花弁。確かにただの雑草じゃない感ある。
「へー、そんな珍しいんだ?」
そう軽く訊いた途端、セリナが興奮した面持ちで口を開く。
「はい! これは夜露と月光を同時に浴びないと育たなくて……しかも成熟した株じゃないと花を咲かせないんです。生育環境も限られていて……まさか本当に目にする日が来るなんて……! 一本でもギルド査定で高額がつきます。特にこの株は色も鮮やかで、質も最高……!」
途端の早口。あ、声がちょっと裏返った。本気でテンション上がってるらしい。
先程の冷静さが嘘みたい。さっきまではお母さんみのある感じだったのに、ノクティナル草とやらについて語る今はセリナは、年相応の少女といった印象だ。
彼女の容姿は、柔和な美人といった印象だったけど、こうして見ると、奥に潜む可愛らしさが見えてくる。
凄えなつまり最強ってことじゃん。
「なるほど。これがギャップ萌えってやつか」
「……え、はい?何ですか?」
「気にすんな。で、取っていいの?」
「もちろんです。ただし根を傷めないように丁寧に。持ち帰る時は乾燥を避けて……」
俺はセリナの真剣な解説を聞き流しながら、小型ナイフを抜く。
慎重に茎元を切り取り、根の部分は残して土を寄せる。雑用依頼と同じ要領。
それで特に問題はないらしく、セリナから静止の声は上がらなかった。
「よし、ゲットだぜ」
「……あの、ゲーム感覚で扱わないでください」
セリナがむっとした顔をする。が、その顔はどこか嬉しそうでもある。初めての発見を一緒に見つけた一体感――そんな空気が流れる。
俺は切り取ったノクティナル草を光にかざした。青銀の輝きが一瞬、昼の森を夜の色に変える。
うむ、綺麗だ。セリナが興奮するのも頷ける。
「しかしこれ、いくらぐらいなん?」
「……質にもよりますが、銀貨五十枚は確実です。最高品質でしたら、金貨一枚……なんて事も」
「ほう、金貨一枚」
思わず唸る。
聞いた所によると、この世界の貨幣は基本的に硬貨のようだ。
最小価値で銅貨。これ十枚でパンが一つ、もしくは飲み物一杯が買える位の価値。日本円で考えると一枚十円前後と思われる。
そして、銅貨の次が銀貨、その次が金貨、その上に白金貨と続く。
銅貨が百枚で銀貨一枚と等価。
他の硬貨も百枚で上の硬貨と等価になる。
分かりやすく日本円に換算すると――
銅貨一枚 十円
銀貨一枚 千円
金貨一枚 十万円
白金貨一枚 一千万円
位らしい。
そんな世界で金貨一枚。数字の桁が爆発だ。甘味がどんだけ食えるんだ。考えただけでテンション上がってくるぜ。
「ほへー……つまり、甘味がたらふく食えるってことね」
「え?」
「ん?」
「あの……金貨一枚の使い道がそこに直結するの、どうなんですか……」
セリナのジト目が突き刺さる。いや、さっきも言ったでしょ?甘味は正義だっての。
これは確実に教育(洗脳)が足りませんな。やはり後でみっちり教育(洗脳)を施してやらんといけないらしい。
「……あの、何か良からぬことを考えていませんか?」
「ん?全然」
訝しげに睨まれたが、笑顔で誤魔化しましたよ、ええ。
ともあれ、これで依頼のノルマ+ボーナスは確定。財布が分厚くなるぜ。
「因みにコレはどんくらい取っていいの?」
さっきギルドでちょろっと聞いたのだが、薬草は採取する際に、ルールがあるらしい。
根を残して取るとか、取り過ぎたら駄目とか。おおよそ次も取れる様にしとなか駄目よ的な。
確かにそこら辺はちゃんとしないと、そらもう沢山の問題が起こるからね。
値崩れとか、環境問題とか、新人の仕事がなくなったりとか。
しっかりしてるなぁと感心したものです。
んで、俺が聞いたのはフェリグラス草の採取の時のルール。
新人が気軽に取れる様な薬草でそんだけしっかりルールが定められてるってこたぁ、この希少で高価なノクティナル草なんてそらもう利権問題ガッチガチやろ。
そう思って確認したら、案の定でした。
セリナはハッとしたように周囲を見渡して、少し考え込んだ。
「この規模の群生地だと……二本が限度ですね」
「少なっ」
「それだけ希少な素材なんです」
思わず素直な感想を漏らしてしまった。それにセリナは苦笑いを返す。
んー……ま、しゃーないか。
そしたら二本だけ取って帰るとするかい。
「あ、ここはギルドに報告して管理してもらう事になるので、今報告書を作ってもよろしいですか?」
「はいよー」
近場の木の上で報告書を書き始めるセリナ。俺はその間にもう一本採取。上手に取れましたーってね。
「ん、コレ、セリナの分ね」
「え?」
セリナの作業がひと段落するのを待って、取り分を渡したら不思議そうな顔をされたでござる。
どした?
「いえ……いいんですか?この場所を見つけたのは、ツバサさんですよ?」
「ん?別に良いも悪いもなくない?二人で来たんだから、二人で分ける。でしょ?」
「いえ……それはそうですけど…?」
「じゃあええやん。ほら、受け取りな」
「えと……では、お言葉に甘えまして」
「ん、よし」
戸惑いながらもノクティナル草を受け取ったセリナは、少しだけ惚けてから、嬉しそうに微笑んだ。
……へえ、笑うと可愛いのね。貴女。




