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冒険者稼業は雑用から



「……それじゃあ、登録作業の続きをしますね」




ギルドホールのざわつきが少し収まり、ギルド長が問題なしと判断して裏に帰っていった頃、受付嬢ミリアが机に向かって座り直す。


緊張を隠しきれない顔つきだけど、仕事モードに切り替わろうとしているのが分かる。


その姿を見て、俺はちょっと肩の力を抜いた。




「いやぁ、俺が黒髪なせいで変に場が荒れてすまんね。まさか落書きまで乱入してくるとは思わんかったわ」




「……落書きって」




苦笑を浮かべるミリア。


周りの冒険者の視線はまだ刺さってるけど、少なくとも彼女の目には敵意は無い。


それだけで、ほんのり救われる気分になる。







「では、次にランクの説明をしますね」




「はぁい先生。眠くならない程度によろしく」




軽口を挟むと、ミリアはふっと笑ってから咳払い。


手元の資料を引き寄せて、真面目モードになり話を続ける。


副長のおっちゃんが資料を見ながら話を進めようとする彼女を見て苦笑いしていたので、業務説明は本来、慣れて来ると資料を見ないでも出来るようになるもんなんだなぁと思いながらその説明を聞く。




「え……と、冒険者ランクはFからSまで八段階です。最初に登録した方は必ずFランクから始まります。依頼の達成や実績によって昇格していく仕組みです」




彼女の声に合わせて、背後から「おー始まったぞ」みたいな野次が飛んでくる。


ざわめきの中で聞き取りづらいが、なんとなく周囲も耳を傾けているみたいだ。




「Fランクは戦闘を伴わない簡単な採取や調査、お使いが中心の新人冒険者さんです。


Eランクになってから戦闘依頼が解禁されます。と言っても、解禁されるのは基本的に弱い魔物の討伐のみになりますが……。でも、新人は卒業です。


Dランクになれば一人前の冒険者です。小規模パーティ向けの依頼が受けられるようになります。


Cランク以上になると、難度の高い依頼が増えて来ます。殆どが中規模パーティ向けの依頼になりますね。


Bランクからは一流の証です。都市やギルドから直接依頼が舞い込みます。各支部のエースと呼ばれる冒険者さんは、大体このランクです。


Aランクになれるのは、中でも屈指の実力者さんばかりです。国レベルで召集されるようになりますし、災害と称される魔物を単独で討伐出来るような、英雄のような人ばかりです。


Sランクは、ギルド内特記戦力扱いです。一人で一国の王と同等の権力を待てます。現在は全世界でたった5人しかいないんです」




一通りの説明が終わると、周囲から歓声が上がる。それを受けたミリアは満足気に胸を張っていた。


この反応を見るに、彼女にとって今回の説明は快挙らしい。副長のおっちゃんも「よくやったな。コレでメモを見なくなれば完璧だ」と微笑む。愛されておりますな。




「OK。つまり初めは雑用係ってことね」




「雑用……まあ、そうなんですけどね」




思わず本音を漏らしたら、ミリアにちょっと困った顔をされた。


口さが無くてすまんね。




「黒髪なのに登録できんのかよ」




「でもよ、あの水晶……全属性なんだろ? ヤバくね?」




歓声が落ち着くと、周囲の冒険者はざわざわ言い合っている。


黒髪がどーたらチラホラ言われてるのはもうずっとなのでスルーして、全属性持ちというワードに驚きの声も混ざっていた。




俺はというと――




うーん……ガチャ爆死かぁ。


もしや最初のSSRは固定で出現するタイプかな?


なんて考えていた。まあ、ぶっちゃけあんま興味ないといえば興味ない。




「と言う訳だ、ツバサ」




横からブライドおっちゃんが肩を叩いてくる。




「最初はみんなFからだ。黒髪だろうが白髪だろうが、そこは変わらねぇ」




「了解。先ずは地道に努力せよってことね」




「ははっ、そうそう。それが冒険者稼業ってもんよ」




おっちゃんは妙に楽しそうに笑った。


いや、あんた胃痛キャラじゃなかったの?切り替え早すぎでしょ。







「では、タカセツバサさん。Fランクで登録いたします」




カリカリと羽ペンを走らせるミリア。


その真剣な横顔を見ていたら、ちょっとだけ吹き出しそうになった。


彼女は多分、俺のことをまだ半信半疑なんだろう。黒髪で全属性って、文字通り前代未聞らしいし。




「ちなみに、Fランクの依頼ってどんなのがあるんだ?」




「あ、えっと……近場での採取や町での荷物運び、掃除、畑仕事、あとゴミ拾いとかです」




「OK。確かに雑用係だな」




「まあ……はい、そうですね」




二人して苦笑い。




「その通りだ、ツバサ」




再び副長のおっちゃんが口を挟む。




「最初はそういう地味な仕事からでもいいんだ。人からの信用は、コツコツ積み上げるもんだからな」




「……おっちゃん、急に良いこと言うね。胃薬飲んだ?」




「飲んでねぇよ」




ツッコミが妙に板についてきた気がする。


うん、こういう掛け合いは嫌いじゃない。



そんなやり取りをしていたら、ミリアが数枚の紙を差し出してきた。




「では、ツバサさん。最初の依頼はこちらからお選びください」




「了解」




そう言って渡された紙に目を通す。


書かれているのは――「荷運び依頼」や「近隣の畑を耕す作業」や「広場のゴミ拾い」等。


言われていた通りの雑用系だった。


でもまあ、最初なんてそんなもんだね。


部活だって、一年の頃は雑用ばかりになる訳だからな。




「おーけー。それなら俺は、一流の雑用係として鮮烈なデビューを果たしたる」




苦笑いを浮かべながら、依頼内容の吟味を初めるのだった。


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