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#0079_境界の空にて_03

「いい? 戻ったらまず真っ先に金剛夜天で自分の身体を癒しなさい。今はエルフの医師達が繋ぎ止めてくれているけど、正直生きているのが不思議な状態なのよ?」


「正直二度見できぬ有様であった……自分の娘のあんな姿……うぅっ」


「いやあの、今から俺その身体に戻るので、出来れば不安になる事は余り言わないでいただけると……」


 生き返れる。正確にはギリギリ死んでないので現世に返り咲く事が出来る。

 その事実を知り、自分の意思も固まった後。

 俺は現世に戻る際の注意事項などを色々と二人から教えられていた。


「戻って体力が回復したら、今一度トゥアレグから王とは何かを学びなおしなさい。そもそも―――」


「お前は根本的に優しすぎる。そして自分にも甘すぎる。よいか、例え前世の記憶があろうとも―――」


 教えというか、まぁその殆どが至らぬ俺へのお説教だ。

 

 やれ王とは。

 やれ魔族とは。

 やれ文化とは。


 その他いろいろ、教わる前に両親が他界し俺が即位してしまった為に伝えられたなかった、王としての教育。

 かいつまんで、略式ではあれど、二人が何を考え、何を軸に国を作り王として長年生きてきたのかを語ってくれた。


「ありがとう……ございます……」


 只々、自分の為に死してなお叱ってくれる二人に、俺は感謝しかない。

 精神年齢46歳にもなろうというのに、俺はあの世の境目で、ボロボロと涙を流しながら二人の話をただ聞き続けた。

 そして二人も、ただ俺の為に語り続けてくれた。





**********************************





「そろそろ時間ね」


「あぁ……名残惜しいが致し方あるまい」


 どれくらいの時間二人と話していたのだろう。

 とてつもなく長い時間のようで、気が付けばあっという間だった。


「父上と母上は……この後どうされるのですか?」


 問いかけてみたものの、実はある程度想像はついている。

 今こうして語らっている場面ですら何かしらの奇跡なのだ。


 故に、そこには何らかの代償があるだろう事は想像に難くない。

 思わず握った拳が固くなる。


「我らにもう未練はない、故に来世に行くと決めた。次はそうだな……気ままに空を飛ぶ竜にでもなりたいものだ」


「私はシロガネみたいにお金持ちの家に飼われる猫になって、のんびりと一生を過ごしてみたいわ」


「なに?では来世で出会えぬではないか。ならば我も猫になるとしよう」


「ふふ……箱入りの猫と竜の恋もロマンチックじゃありません?」


「なるほど、それはそれで良いな!」


 この二人、来世でも出会い、そして夫婦になる気満々だ。

 これだけ惚気た様を見せられると、思いつめていた自分が馬鹿馬鹿しくなる。


 だがこの二人はそうなのだ。

 常に前を向いて、次を楽しみに生きている。

 故に、強い王ではなかったが、素晴らしい王だった。


 つき先ほど二人から貰ったものを、台無しにはしたくない。

 

 二人を笑顔で見送り、自分の未来を生きる事。

 今から俺がやるべき王としての仕事はそれなのだ。


「向こうで天使にゴネてみてはどうでしょう? そうですね……俺の転生に対するミスはそれでチャラにしてあげます、とお伝えください。多分交渉というか脅迫材料には使えるかと」


 自分で言っておいてなんだが、選別が天使への脅迫材料というのもどうなのだろうか。

 まぁ今更転生云々を彼女に何か言うつもりもない。

 ならばそのネタは両親の来世の足掛かりにでもしてもらえれば十分だ。


「フハハッ!最後に天使を脅して来世に臨むか。魔族の長らしくて良いな、その案貰っていくぞ!」


「色々とズルをしてきたんですもの、最後の最後まで絞りつくしてあげましょう」


 こうもノリノリだと、ちょっと天使さんに同情するでもない。

 まぁ俺達の担当になったのが運命だと諦めてもらうしかない。


 二人は笑いあいながら、迷うことなく三途の川を渡っていく。

 俺はただ、その背中を目に焼き付けるように川岸で佇んでいた。


 数分もしないうちに、二人は川を渡り切り、見慣れた境界の雲の上へと歩みを進める。

 対岸で、仲睦まじく手を繋いだままこちらを振り返った二人は、何やら一瞬驚いた顔をしたが、すぐにそれは万遍の笑顔へと変わった。


「ではな!バレンタイン!また来世で!」


「色々お説教はしたけれど、国の事は貴女の好きになさい! 後悔のない生き方をなさいな!」


 あぁ。視界が歪む。


 笑顔で見送らなきゃと思っているのに。

 わかっているのに、視界がどんどんぼやけていく。


 声が声にならない。

 だから俺は、ただ大きく手を振り続ける。


 二人の来世に、幸あれと。

 二人の来世に、希望あれと。


「…………っぅ!」


 漏れる嗚咽をかみ殺して、ただ笑顔で手を振り返してくれる二人に、俺は精いっぱいの言葉を絞り出した。


「ありがとう! 必ず来世で、笑顔で会いに行きます!」


 叫ぶ様に言葉を放ち、涙で滲む視界を手で擦り、再び対岸へと視線を戻した時には、もうそこに父上と母上の姿はなかった。


「……お世話になりました。後は、俺が、人生をかけて」


 こみ上げる物を抑え込み、目を閉じて、胸に手を当てて誓いを立てる。


 今度こそ、間違えない。

 今度こそ、やり通す。

 今度こそ、自分の弱さと向き合うのだと。


 俺の名前は「バレンタイン」

 魔族を導く魔王様なのだから。


「さて、行くか。……ん?」


 川の背後、広がる草原へと視線を戻す時、ふと水面に移った自分の姿に気が付いた。


「あ~……だからビックリしてたのか。なるほど」


 そこには、疲れた顔の日本人男性ではなく、頭に大きな角を生やした可憐で少し目つきの悪い少女の姿が映っていた。





**********************************





「ㇵッ!? 戻ってき……痛い!いたいいたい!いってぇぇぇぇぇぇぇ!こっ金剛夜天ー!治っせー!治してー!はやくぅー!死ぬー!」


「へっ陛下ー!? 陛下が目を覚まされましたー!」


「ぐぁぁぁぁぁ!治療痛痛いぃ!ちょっとま、これ、あっ!アカン意識がっ……」


「いかん!陛下の意識がまた!早くフローレンス殿をお呼びしろー!陛下ー!お気を確かにー!」


 母上に言われていた、現世に戻って最初にやるべき事。

 金剛夜天による肉体の治療を実行したのも束の間、肉体のダメージは話に聞いていた以上にヤバかったらしく、俺は金剛夜天の治療に伴う痛みによって再びベッドの上で気を失った。


 まどろむ意識の中「これでショック死したら笑い話にもならないな」等と考えてしまう程度には、気持ちの整理は出来ている。


 さぁ。現世に戻っての再スタートだ。


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