#0075_権威と利権_04
「それが俺への恨みと、今回の行動の根幹だと?」
「確かに始まりはそこですが、積み重なったものはこんなに単純な話ではありませんよ……?」
なるほど。では続きを聞こうじゃないか。
あくまでコーラルは「俺が悪だ」という主張の下で語っている。
であれば全てをまずは聞いてから答えよう。
「わかった……続きを頼む」
正直この時点で「逆恨みやんけボケェ!確保!」で片付けてもいい。
だが、これは俺の予感なのだが、俺は彼女の話を聞くべきだと思った。
今は恐らく、俺の想像の外側にある思考、思想を知るチャンスなのだ。
想像力の外側からやってくる敵意、悪意を知っておくのは俺の将来においてプラスになる。
故に今は、どんな無茶苦茶な理論も聞き流さずに一度は吟味すべきなのだと。
俺直感がそんな事を囁いている気がした。
「正確には、私はその貴族の親戚筋にあたる商家の娘です」
ふむ。商人の娘って事か。
「父の家はこの国に置いて最大の規模と権威を持った商家であると自負しておりました。実際国内の貴族や他の商人達にあらゆる物を流通させる元締めの様な役割を担っていたのですから、当然の立場と言えるでしょう」
いやそれ、よく言えば元締めだけど悪く言えばこの国の流通を牛耳ってたってことだよね。
俺が産まれるまでってそんな不健全な経済の上に成り立ってたのかこの国……駄目すぎるだろ。
まぁいいよ、うん、続けて。
「巨大な財源を持った貴族を後ろ盾とする我が家でしたが、件の簿記の登場によって著しくその力を失う事になりました……財源である貴族筋が事実上の解体を受けたのです、当然でしょうね。ですが父はこの国最大の商家の男……その程度の逆境で潰れる事はなくその後も威厳を保ったまま商家としてやっていく事は可能でした」
それは何とも逞しい人だな。
「既に国の多くの流通、物資は父の商家の傘下にあったのですから当然です……ですが、ある時期を境に我が家はその権威の全てを失いました」
掌握済みの人達が逃げないように上手く手を回したって所か。
なるほどね……確かにやり手だわコーラルの父上。
でもそれが突然崩れた……崩されたってことか。
「分かりませんか?貴女が生み出した魔動具ですよ陛下」
「……どういう事だ?」
突然出てきた魔動具。
そして魔動具を生み出した俺。
それが彼女の家が傾いた事と何の関係があるんだろう?
少なくとも俺は「一切の差別無く」仕入れて売れる権限を提案し、実際その様に普及されたはずだ。
過去にやらかした商人であっても、貴族であっても、国に普及させる事を最優先として魔動具については平等さを貫いた。
これは前魔王の時から俺が半ば強引にとりつけた約束事でもあった。
「貴女は魔動具という発明を「地位を問わずに仕入れて売る」事を提唱し、前陛下はそれを実行した!今の貴女もそれを貫いている!それがどういう事かも分からずに!」
いやいやいや意味不明だわー。と、以前の俺ならば思っていたかもしれない。
だが今の俺は貴族とか商人の中でも「利権」に染まった人がどういう思考をするのかが何となくわかる。
コーラルの言っている事も、どうやら俺の想像の外側ではなかったようで少しだけ安心した。
要するに。
「この国最大の商家であるお前の家を「優遇」しなかった事への恨み……って所か?」
「そう!本来ならば私の父が全てを取り仕切り、適正な価格を決めて国に流通する量も調整するはずだった!だが貴女はそれを無視して、あろう事か貧民にすら手が届くであろう所にまで魔動具の流通を執り行いました!これは国を支えてきた貴族、ひいては商人に対する侮辱以外の何物でもない!その結果、私の父は魔動具という国を変えうる新しい流通において一介の商家というみすぼらしい侮辱を負う羽目になったのです!これが侮辱でなくてなんですか!?」
えぇ~……正直「知らんがな!」としか。
そもそも王様に対して侮辱だなんだって真っ向から言えるこの神経はちょっと凄いと思う。
今この時がまさにお前の言う「侮辱」の真っ最中なのだけど……うーん。
「一つ聞くが、それだけの物流を掌握していたのなら、流通開始前に自分の所に一度集まる流れを作る事も出来たのでは?」
「……勿論父は、傘下の貴族、商家にはすぐさまその様に指示をしましたよ……ですが、その時を境に全ての傘下にあった貴族、商家は我が家を裏切り独自で流通を行ったのです」
あぁ、要するに「出し抜けば明らかに儲かる」と見限られたわけだ。
それも傘下にしていたであろう全ての関係者から。
何か……答えというか、終点が見えてきたなぁ。
「当然その様な事をすれば父も黙っていません。これまでの貸付などを使い傘下たるべき態度に改める様に申し付けました……ですが、貴女の生み出した魔動具は悉く私の家を潰して行った……切り札として抱えていた貸付を全てつき返せるほどの利益を国中の商家、貴族に与えてしまった!」
要するに国の中で多くのお金が巡って、皆の懐が暖まったわけだよね。
いいことじゃねぇか。
―――と、彼女は思わないんだろうなぁ。
「おかげさまで父は大商家としての権威も利権も失い、ただの小さな一商人にまで堕ちて行きました。それまで住んでいた屋敷も売り払い、今では召使も居ない戸建てで暮らしているんですよ?私も自分で自分の食い扶持を稼ぎに城に勤める羽目になりました。この私が自分よりも年下の女に使われているんですよ?毎日怒りで気が狂いそうになります」
そうですか……あぁ、頭が痛い。
俺は今まさに貴女の話を聞いてて気が狂いそうです。
SAN値がナウでピンチすよホント。




