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#0074_権威と利権_03

「動くな!動けばこの女の命はない!」


「まぁ……うん、こうなるよね」


 色々考えるの面倒になって真っ向から声をかけてみたわけだが、案の定コーラルはミモザ叔母さんを人質に。

 俺達は言われるがまま、装備を地面に置いて両手を挙げて降参のポーズである。

 

「陛下は神器も外してこちらに渡して頂きましょうか……」


「あー。それもそうか……えっとこれどうやって外……外れた。便利だなーお前」


 365日俺の右腕にブレスレッド状態で装備されている金剛夜天。

 留め金があるわけでもなく、別に錆もしないので外した事がなかったから知らなかったが、俺が意識すればちゃんと取り外せるらしい。

 元々装備というより「自我を持った何か」っぽい物なので、こういう融通は利くようになっているのだろうか。

 

「ほれ。これでいいだろ」


「陛下……神器をそんな雑に……」


 外した金剛夜天を雑に放り投げる俺を見て、さすがのバイオレットも少し渋い顔をしている。

 いいんだよ今は俺の私物みたいなもんなんだから。

 

 一通り俺達から装備諸々を奪ったコーラルは少し冷静になったのか、軽いため息をつくとこちらに向き直った。

 では俺達もそろそろ話を聞きだしていくとしよう。

 彼女の目的を知らなければ今後の対応も決まらないしね。

 

「でだ、コーラル。こんな場所に来てこんな事をしている理由は何なんだ?」


 最初はラピスラズリの鉱床を占拠して俺に国王を降りろとか、その手の脅迫をしてくるものだと思っていた。

 だがここに彼女の伏兵が居るわけでもなく、ミモザ領をクーデターで占拠したわけでもなく、コーラルは1人でこの場所にやってきた。

 まだ何か、俺が気がつけていない隠し玉があるのかもしれないが、少なくともこの開けた場所で他に誰かが潜んでいる、という事はないだろう。

 

 だからこそ、俺は彼女の目的が見えない。

 色々と俺の知らない事情が重なり、自暴自棄になってこんな事をしてる?

 実は単独でこの状況を全て覆すチートな一手を持っている?

 周囲で怯えている炭鉱扶達が実は全員コーラルの手下?

 

 どれも現実味が無く、予測としても浅い。

 何らかの意図があって行動を起こしているのは間違いない。

 それはミモザ叔母さんをここまで言葉巧みに連れてきた点からも伺える。

 王都での行動も、全て予定を決めて動いていた様に感じるし、やはり何かしらの計画に沿って行動はしているのだろう。


「いや、理由や目的よりも……そうだな。なぜこんな事をしているのかっていう動機を教えてくれ」

 

 故に、目的ではなく、動機をまず知りたい。

 何が発端で今回の行動を起こしたのか。

 それが分かればこちらからの交渉材料も組み立てやすい。

 

「貴女は……国を変えすぎました」


「……変えすぎた?」


 意味がわからねぇ、と言いそうなったのを、口から漏れる直前でぐっと飲み込む。

 動機を語りだすコーラルの目には、明確な敵意……いや、憎悪に近いものが如実に宿っていたからだ。

 

 俺はあの目を知っている。

 アレは……父上と母上を勇者に殺された時の俺と同じだ。

 自分の内にも未だに燻る感情と同じ種類の物。

 大事な者を、愛おしい者を無残に奪われた他者に対する憎悪。

 そして、何も自分の手で守れなかった己に対する憎悪。

 

 明確な敵意、殺意をここまで直接的に向けられたのは久しぶりだ。

 故に俺は、その目に慄いてしまった。

 だが王様がここで後ろに下がるわけにはいかない。

 

「……もっと具体的に言ってもらえるか?俺の国営の何が不満だ?」


 あくまでも余裕の態度は崩さない。

 こういう場面で最高位に居る俺がヘタれる事は、俺を信じて居くれている人達への裏切りになる。

 そんな目で睨んでも怖くなんかないんだからね!と虚勢を張るのもお仕事なのだよ。

 

「言いたい事があるなら好きに言え。バイオレット、シロガネ。お前達も何もするな」


 隙を見て飛びかかろうとしていた二人を制し、俺はコーラルに続きを促す。

 今ここで無理に取り押さえる必要は無い。

 なにやら色々と自分から語ってくれそうなのだ。

 まずは洗いざらい思いの丈をぶちまけて頂こうじゃないか。

 

 おおよそ1分程の沈黙の後、コーラルはポツリポツリと溜め込んでいた言葉を吐き出していく。

 

「始まりは……貴女が提唱した「数字」という概念からです……」


 マジかよ。それって12年くらい前よね!?

 え、なに、そんな昔から俺は恨まれてたって事!?

 俺ですら生前初恋の人を忘れるのに5年くらいだったぞ。

 12年って一途通り越して病的じゃね?もはやそれ愛に近くね?

 さすがに気が長すぎてびっくりだわ。


「あの数字という概念の後、この国では税収の管理に「簿記」という物が導入されました……それも後に陛下が提唱したものだと聞き及んでいます」


「あぁ、間違いない」


「簿記の登場によって、当時一つの貴族家が事実上の爵位剥奪となった事を陛下はご存知ですか……?」


 ん?簿記によって爵位を失った貴族?

 いやいや、そんな面白い没落の仕方した貴族が居たら流石に覚えてるし、そもそも意味がわからねぇ。

 税金の管理が簿記形式になって困るのは脱税してる奴等だろうけど、多少の額は貴族の特権として今も見逃してやってるわけで……

 

 …………あ。

 

 あったわ。事実上の取り潰しになった貴族が。

 

「あれか!屋敷で貨幣を大量に偽造してた貴族か!」


「えぇ……・私はその貴族の親戚筋にあたります」


 なるほどなるほど。

 超絶逆恨みだし俺何も悪くねぇじゃんとは思うのだけれど。

 

 でも確かにコーラルには、一応、まぁほんと一応、俺を恨む理由が存在したようだ。


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