#0073_権威と利権_02
「想像以上にマズい事態だ……」
貨物車での旅を終えてミモザ領に到着した俺達は、まずミモザ叔母さんに協力を仰ごうと彼女の城へと向った。
だが既に彼女はコーラルに連れ出された後であり、事実上俺達はミモザ叔母さんという人質をとられている状態になった。
マゼンタの側近という立場が彼女の「鉱床への臨時査察」という言葉の信用度を高めてしまったのだろう。
下手に大事にするのは混乱を招く可能性が高いため、俺は叔母さんの所の青年執事にだけは事実を伝えてある。
「しかしこうなりますと下手に大部隊を動かすのも良くないですよね……」
「あぁ。だから俺とバイオレット、シロガネを含めた数人で彼女の後を追うのが良いと思う。俺は別件での視察という体裁にしてもらえれば、まぁごまかしは利くだろう?」
「承知致しました。では以前案内役を務めさせたサイクロプス族の者を同行させましょう。鉱山内には多くの者が今も従事しておりますので相手も迂闊な行動には出れますまい」
だといいんだけど……コーラルは多分、物事をあまり深く考えないタイプの様な気がするんだよ。
下手に刺激すると即座に凶行に走りそうで頭が痛い。
「俺達は一足先に鉱山の入り口辺りまで行っておくから、サイクロプス族の彼と連絡がつき次第そちらに向ってもらってくれ」
「畏まりました。ミモザ様を宜しくお願い致します」
「勿論だ」
むしろ俺のミスで彼女を逃がしてしまったのだ、何があっても叔母さんは守るさ。
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その後、サイクロプス族の鉱山夫と合流し、ラピスラズリの鉱床へと向う途中。
現場で働く人達からの情報によると、どうやら二人は既に最深部にたどり着いている様であった。
正直に言えば全力で駆けつけたいのだけれど流石に悪目立ちが過ぎるので、悠々と視察に来ただけですよ的空気を出しながら、それでも気持ち早歩きで俺達は進む。
「にゃーぁ(お。懐かしい匂いがするな)」
内心の焦りを必死に隠しながら進んでいると、シロガネが小声でそんな事を言う。
それから程なくして、土と岩で出来た洞窟の奥から蒼い光が漏れ始めてきた。
「さて……状況を確認したらどう動くか決めないとな」
コーラルとミモザ叔母さん、そして側近達、現場の鉱山夫達。
それぞれの配置と距離をみてこちらが強行手段に出るか、話し合いという状況に持っていくか。
後から来たというアドバンテージがあるとすれば、全体的な状況を知ってから動けることくらいだ。
ならば今は、その状況をフルに活用する他ないだろう。
「ここから先、私語は慎め。まずは状況を確認する」
ラピスラズリの鉱床の手前。
丁度曲がり角になっている場所に身を潜めて、俺は全員に停止のサインを送る。
続いて服のポケットから取り出した、携帯用の手鏡を使って鉱床の奥の様子を観察する。
まず見つけたのはミモザ叔母さん。
そのすぐ隣にコーラルが立っており、そこから数歩下がった場所に叔母さんの側近が2名居た。
内心側近が協力してくれるなら、簡単に状況は改善できるんじゃないかとか考えていた俺の希望は早くも打ち砕かれる。
「(マズいな……というか何考えてんだあのマッチョフェチBBA)」
彼女の傍で佇んでいる側近は騎士服?を来た「二人の筋肉青年」である。
ただその身にまとっている騎士服……らしきものが、なんというか露出がエグい。
金属で守られているのは事実上股間のみで、それ以外はほぼスケスケの軍服の様な装いだ。
筋肉を活かしたパワー型なのか知らないが騎士剣すら装備していない。
素手で刀剣とやり合うつもりなのか?
あまりにも戦闘に向いていない格好すぎて役に立たない……むしろ人質が増える可能性すらある。
「(ここから全力で駆けつけても無力化する前に誰かが人質になる可能性の方が高いか……さてどうしたものやら)」
俺、レット、シロガネ、サイクロプスの4名で同時に攻めたとしても、叔母さんが人質にとられては意味がない。
例え叔母さん以外が人質にとられたとしても、これだけの人が居る中でその人を切り捨てて事件解決を図るのは今後を考えても良くはない。
…………まて、そうじゃないだろう。
人目が無いなら要人以外は最悪切り捨てる。
そういう思考が当然の様に頭の中を過ぎった自分に驚いてしまった。
王様として大を守る為に小を切り捨てる決断は、場面によっては必要な事だ。
だが今回のそれはまだそこまでの大事件になるとすら確定していない。
なのに、だ。さらりと頭にその考えが過ぎった事が少し恐ろしかった。
「(自分が思っている以上に俺は心の箍が磨り減ってきてるのかもしれないな……)」
勇者の襲撃から始まる今日まで。
6年そこらだが色々な「死」を目にしてきた。
割り切って、受け止めてやってきたつもりだったが、表層意識とは違い深層に色々なストレスが溜まっていそうだ。
「ふぅ……駄目だな。このままじゃ駄目だ」
「…………陛下?」
思い出せ。一番俺らしい方法は何だ?
そもそも王様である俺が自分の足で彼女を追いかけてきたのは何でだ。
本来なら全て部下に任せてしまえば良い事なのに、率先して前に飛び出して進んできたのは何でだ。
「すまないが皆、後始末は任せて良いか。考えるの面倒になった」
「了解ー。まぁいつもの事ですしね」
「にゃー(今頃トゥアレグ爺さんがため息ついてそうだな)」
「えぇ……皆さんそれでいいんですか……」
サイクロプスの男性以外からは酷い言われ様だが、でもそう、俺は今までずっとこうやってきた。
だから今回も今まで通りで別にいいんだ。
何を王様らしく慎重に事を運ぼうなどと考えていたのか。
ピアニーちゃんが誘拐されて少し焦りや怯えが生まれていたのかもしれない。
全く、情けない話だね。
俺は魔王だというのに、何に気を使っていたのやら。
「よう、ミモザ叔母さん。暇だったから遊びに来たぞ!あとついでに横に居るうちの部下が何か悪巧みしてるみたいだから捕まえに来た!観念しろ?俺は結構お怒りだぞ」
俺の国で。俺様の国で。
何か悪巧みをしようというのならば。
正面から行って正面から叩き潰す。
それが魔王様ってもんだろう。




