#0064_ピアニーの憂鬱な1日_03
「げぇ~っふ。余は満足じゃ」
いやー、食った食った。
今日も良いチャーハンでございました。
おめぇピアニーちゃんが今も1人で泣いてるかもしれないのにチャーハン食ってんじゃねぇよって?
馬鹿野郎。腹が減っては戦は出来ぬっていうだろうが。
それでもお姫様もとい女王様であり魔王様たる俺がゲップ晒して歩いてるのは酷い光景だよなって反省した。うん。ごめん。
そもそもピアニーちゃん関係は俺が下手にアレコレするくらいなら爺やに丸投げするのがベストって事になったのだから、俺はいつも通り、そう、普段どおりに過ごしておくのがベストなのだよ。
どうせ俺が何かしても拗れるだけだしね、こういうのって。
むしろ話の中心に立ちそうな人間は居ない方が、相手側も選択肢が減って身動きが取りづらくなるってもんだ。
故に俺はこれからデザートを食べに行く!絶対に、そう絶対にな!
今日からある店で新作のアイスシャーベットが始まるというニュースを耳にしてある。
ならば食べずにはいられまいよ。
さぁ、いざ行かん!スイーツの元へ!
勇み足で勇ましく、ただスイーツ食べる為だけに仕事以上の熱意を込めて歩き出した時。
「きゃっ!?へ、陛下!?」
「おっと……すまない。今のは考え事をしていた俺が悪い、失礼をした」
膨れた腹をポンポコ叩きながら、デザートの店へと歩いていた道中の交差点で、少し急いでいたらしき女性と軽くぶつかってしまった。
そもそも国の王が飯で膨れた腹をポンポコ叩きながら歩いてる景色にこそ問題がありそうだな。爺やにまた怒られそう。
「い、いえ……では私はこれで、少々急ぎます故、失礼いたします」
「あぁ」
よろめいた女性はすぐさま持ち直し、それだけ言うとまた小走りで町の南方へと歩いていく。
「…………ぬ?」
ただ少し気になったのは、この時間になぜ「彼女」が城ではなく外壁側へとあんなに急いでいたのかだ。
自宅が南方という訳でもないだろうし、彼女が外壁側に行くという事がそもそも珍しい気がする。
ちょっと気にはなる……が、今はお昼時だ。あまりプライベートな事に王様という偉い立場で変に踏み込むのは、俺だったらいい気分ではない。
昼休憩とかオフの日に会社の上司に出先で会うと何か気まずいし、ついて来られたら正直嫌じゃねぇ?
あ~そっか。だからこの前休日にピアニーちゃんの家に風呂の試験設置の話で訪ねた時、あからさまに嫌そうな顔してたのか。
もうちょっとオブラートに包めーとは思ったけど、アレは勤務時間中に話をしておかなかった俺が100%悪いな。
ごめんよピアニーちゃん。今度スイーツでも奢ってご機嫌をとっておこう。
「うーん。まぁ後で何気なくマゼンタに聞いてみるかな」
城下の南へと消えていくマゼンタの部下「コーラル」の背中を見送りながら、俺は再びスイーツ店目指して歩き出した。
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「何があったの……?」
「私にもさっぱりだ……」
スイーツ店の行列に並ぶ事30分。
列に並ぶお客さん達の「お先にどうぞ」というお気遣いを丁寧に断り続けてようやく店内に入れた俺は、店員の凄く申し訳なさそうな合席のお願いにも二つ返事で頷いて指定された場所へと向った。
そこにはスイーツを頬張りながらも、その向いの席で意気消沈しながらドリンクを啜るマゼンタの姿に困惑するフローレンスさん。
店員さんが小声で「陛下でないとあの席にはご案内し辛くて……」と耳打ちしてきたが、俺だってこの場面どうしていいかわかんねぇって。
まぁ俺以外の人をここに案内できない気持ちも分かるので「ごめん何とかしてみるよ」と答えて、そのテーブルの空いている席へと腰掛けた。
国の重鎮と国賓のエルフが異様な空気を撒き散らす奥の1テーブル。
これだけで相当ご迷惑であろう場所に、とうとう国王陛下の登場である。
どう考えても人気のスイーツ店に陣取っていい面子ではないし、出していい空気ではない。
心から申し訳なさ過ぎるので、さっさとスイーツを楽しんでこの二人を連れ出そうと俺は既に決めていたメニューをオーダーし、改めてマゼンタに話しかけた。
帰る時、ちょっと多めにチップでも置いていこう……
「マゼンタどうしたんだ?見るからに何かやらかした顔してるけど」
「陛下……その……実は……」
ポツリポツリと語られ始めた話は、余りにも……そう、余りにもアホくさすぎて泣けてきた。
お昼前、爺やに城の会議室に単身呼び出されたマゼンタは考えていた。
自分は最近特に何か失敗をした記憶はない。
だが爺やからマンツーマンで自分という立場の者が呼び出されるという事は、何かしら国営に関する指摘がある場合のみだ。
それ故に彼女は必死に考えた、何か最近問題となりえる事をやってはいないかと。
心当たりがあるだろう?と詰め寄られた時でも咄嗟には思いつかなかった彼女は、ふとプライベートで起こった1件が脳裏を過ぎった。
まさかその件がこれほどの事態を招いているのかと。そしてトゥアレグ卿に不利益をもたらしたのかもしれないと。
刹那ではあったが、それを語るべきなのかという葛藤もあった。
だが爺やの目は真剣そのものであり、今何かを偽れば自分の首は飛ぶと感じて腹をくくった。
マゼンタは語った。
ミモザ叔母さんに呼ばれ、会議と称して彼女と少しハメをはずした付き合いをした事を。
その過程で叔母さんと少し口論になったものの、気がつけば酔っていた自分はミモザ叔母さんと共に、彼女が招致したマッチョな青年達と「淫らな大人の遊び」をしてしまった事を。
そして……それが今では相当に自分の趣味としても染み付いてしまい、割と頻繁にミモザ叔母さんの所に通っている事を。
その上で、爺やが知りたかったのはそんな話では全くなく、言わなくていい自分の新しい性癖を上司に暴露しただけになった事を。
「…………ミモザ叔母さんにも後日俺から話をするけど、マゼンタお前……いやまぁ、プライベートに口はださないよ、うん。法に反してないんだよな?」
「も、勿論です!ミモザ様がスカウトし自ら望んで来た者たちとだけ……その……うぅっ……」
マジで俺は何を聞かされているのだろうか。
さすがのフローレンスさんも顔を真っ赤にしながら凍り付いているじゃないか。
ていうか俺の城にはこんな奴ばっかか!?
俺が知らないだけで実は特殊性癖持ちばかりが採用されてたりしないか!?大丈夫わが国!?
「で。爺やが聞きたかった本当の要件って何だったんだ?」
これ以上深堀しても彼女が凹んでいくだけだ。
ならばスイーツが届くまでの間に真面目な方と思われる話題にシフトしようと俺は話を全力で逸らす。
だが世の中は意外な所で、意外な物事が連動しているものだと思い知った。
「私の部下の「コーラル」が、どうも例の件……といえば分かりますよね?に関与というか容疑者の1人として上がっているらしく、その事実確認と私の関与の照会でした」
一瞬例の件といわれて何の事かと言いそうになったが、そうだ、爺やが今動いてるならば答えは一つ。
今朝のピアニーちゃん誘拐事件の話しかない。
だがまて。ちょっとまて。
「……マゼンタ。コーラルは今日お前の所でどういう扱いになってる?」
俺の問いかけに、先ほどまでと打って変わって真剣な表情となった俺に驚きつつも、マゼンタは答える。
「本日彼女は非番でして、私にも何の事か全く分かってないのですが……陛下!?」
マゼンタの言葉を聞いて慌てて立ち上がる俺に、彼女だけでなく周囲のお客さんも少し驚かせてしまった。
ごめんよ。だが事態は急を要するかもしれねぇ。
「マゼンタは今すぐ爺やに俺が外壁方面へと向ったと報告!フローレンスさんは……俺達の分のスイーツ食べきってお会計しておいてくれ!お釣はお店への迷惑料だ!」
「りょ、了解いたしました!」
「よく分からんが任せろ!食うのは得意だ!」
フローレンスさんに金貨数枚を放り投げて、俺は店を飛び出し全速力で城下を南へと駆けていく。
最悪の場合を想定しての行動だが、恐らくその想定は数分後には現実になっている可能性が高い。
「くっそ!もっと推理物の小説とか読んでおくんだった!違和感は感じていたのに……!」
俺は金剛夜天を装備しながら只管に南へ走る。
ピアニーの両親が暮らす彼女の自宅へ向って。




