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#0060_魔学と化学_02

「うおー!紙だ!木製の紙だー!しかも白い!」


「この国の技術力があれば量産は可能だろう。専用の植林を見繕う事も考えると数年はかかるだろうが」


 気を取り直して、次にエルフ達からもたらされたのは木材から作る「紙」だ。

 羊皮ではない文字通りの「紙」である。

 試しにインクを走らせてみるが、明らかに吸収率が違う。


「紙の供給が実現するなら、あの魔動具に着手してもいいな!」


「文字を描く事に特化した「タイプ」という機械の図案ですな。あっしもアレは近いうちに挑戦したいと思ってやした!」


 規格化した文字の金属型と紙の間にインクを解して、手元対応した板を押し込む事で文字が紙に押し付けられ描かれる装置。

 そう。いわゆる「タイプライター」の草案だ。

 

「手書きで書類作る必要がなくなるし、書き損じも確実に減る。俺はこれが完成したら書類仕事10倍早くなる自信がある!」


 これで腱鞘炎まっしぐらな生活ともおさらばだ!


「じゃあその道具が完成したら仕事10倍にしてもいいんですね」


「おう、いいぞ」


「…………え?」


 まさか素直に答えるとは思っていなかったのだろうシュヴァインフルトが、間抜けな声を漏らす。

 どうせいつものノリで「いやそれとこれとは別だ!」と返されると思っていたのだろう?

 だがな、タイピングツールが登場すれば文字書き仕事の速度は超絶上がる。

 その不思議そうな顔が困惑で歪む未来が手に取るように想像できるぜぇ!

 

 あと、俺の仕事が10倍になったらお前も巻き添えで10倍だ。


「想像では大体上手くいってる。慣れは必要だろうけど、多分現物が完成したら俺だけじゃなくてみんなの作業速度が上がるはずだ」


「いやバレンタイン陛下。これから開発する道具なのだろう?そんな体言を吐いて大丈夫なのか?」


 大丈夫だ。問題ない。

 むしろタイプライターは医学ならカルテの製作にも相当役立つ。

 クーックックッ……手書きとは比べ物にならない速度を体感した時の皆の顔が楽しみだ。 


「あぁ。これは勢いじゃなくてガチの方ですわ。陛下がこういう邪悪な顔してる時は本当に頭の中で完成後が見えてるんです。フローレンスさん方が乗ってきた馬車がありやすでしょ?アレを作り始めた時と同じ顔してますわ。いやーワクワクしてきましたなぁ」


「そ、そういうものなのか……」





**************************





「こいつぁ凄い。強度と粘りもそうですが、なによりもこの光沢がやべぇ」


「こっちはこっちでメテオライト並の軽さだ……そこまで薄くしない限りは強度と軽さの両立が実現してる。こいつが「合金」ってやつかぁ」


 職人達は持ち込まれた医療器具に触れてうなり声をあげている。

 彼らが触れているのはエルフが使用する、ステンレスやアルミらしき金属で出来た器具だ。

 

 彼女達の間では「ステン鋼」と「アルミニ」という名前で流通しているらしいが、まぁ大体似た様なニュアンスの名前だしそのうち馴染むだろう。

 これらが作れるという事に加え、その基本となる知識がもたらされた事は非常に大きな利益となる。

 

 彼女達エルフが俺達魔族に運んできた最大の利益は、勿論医学もだが「化学」の概念とその知識だろう。

 あらゆる産業の根幹であり俺に決定的に足りなかったもの。

 図画工作とかプログラムには強いけど、理科に強いってわけではないのよ俺。

 

「そちらが得意としている折り返し鍛錬というのも、化学バケガクで言えば「合金」の1種なのだが、我々の物は鋳造前の溶かした状態に手を加えていると思ってもらえばいい」


「なるほどなぁ。これならオリハルコンみたいな特殊な金属一々使わなくてもやれる事が増えそうだ」


 化学、合金などの考え方は案の定例の「オサム」という医師と初代ナイチンゲールによってもたらされたもの。

 当初は衣食住の食に異様なこだわりを持つ故に、化学は主に食に特化した知識とされていたけどこの100年で相当多様な分野に使えるとなったそうで。

 いやまぁ欲求こそが原動力なのは種族世界問わず同じなんだろうけど、食い物の発展だけ最優先ってあたりでエルフのイメージがまだ一段と変わった気がする。

 

 先日も、この国の城下町を案内しようかって話しをしたら「ではこの国の美味ベスト10を教えてくれ」って言い出したしね。

 他に何か無いのか?って聞いても、エルフの一団全員が「飯」と答えた事で俺は色々悟ったよ、うん。

 

「これで少なくとも更に2パターンエーテライトの研究が進むな。相性がいいと嬉しいんだけど」


「エーテライト研究は我等エルフの未来にも直結する。私も微力ながらお手伝いしよう」


 内心。果たしてどこまで中身を見せていいものかとは思う。

 エルフという種族をホイホイ受け入れすぎではないか?という意見も一部にはある。

 だが、化合物の生成などに置いて既に俺達は彼女達に技術、知識で遅れているのだ。

 ならば産業の本丸にお招きして徹底的に関ってもらい徹底的に吸収して、そして必要ならばフローレンスさんを寝室にお招きして口止めくらいする覚悟はある。

 まぁ、そうならない事を出来るだけ祈ってはいるけど。

 

 文字通り「女の子になっちゃう!」展開は出来れば避けたいのだよ……いやほんとうに。

 肉体的には美少女でも、やっぱまだメンタルはバリバリのオッサンだからさ。

 

「近日中にでもタイプの試作と新しいエーテライトの研究を開始しよう。情報保存も素材次第で変わる可能性だってある。やる事はどんどん増えるぞ」


「了解した。ではまず先日話していた美味巡りから片付けようではないか!」


 存外。美味しい料理さえ与えておけば彼女はずっと味方なんじゃないかって気がしてきた。


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