#0055_魔動の国と新たな来訪者_03
街道の整備と平行して、現在進行形で輸送専用路の整備も進めている。
一つは「物資運搬用高架線路」で、もう一つは「列車を想定した高架線路」だ。
物資運搬用線路は、ミモザ叔母さんの所の鉱床と王都を繋ぐ為に最優先で施工し、丁度半年前から試験稼動が開始した。
街道の脇に上り線と下り線を設定し、高さは3メートル程度だが下を一定の間隔で人や馬車が通り抜け出来る様に施工してある。ゼロから作るのだから踏切なんていう無駄な構造はわが国に必要ない。
線路については地球産のあの形状を鉄で丸ごと賄うのはまだ難しいので、石を整形して整えた上に薄く伸ばしたL字の鉄板を敷いて固定しているだけだ。
要は内側に車輪の一部が入り込んで内外の力で安定する形状さえ出来ればいいのだからとやってみたが、今のところ問題は無さそうで安心してる。
また、そこを走るのは物資運搬用の貨物馬車。
駆動車、寝台車、荷台車の3種類が連結され、荷台車は車輪の上に丈夫な土台を組み、壁や屋根は撤廃して雨避けの布や板を被せて運ぶお手軽仕様。人を運ばない前提なので荷台はそれで十分だ。
寝台者は乗務員の休憩所で、駆動車は文字通り先頭と最後尾から牽引するエンジンとなる車体だ。
馬車と言ったが、実際には馬は繋がれておらず車輪と車体に設置された風の魔術と火の魔術を推進力として、かなり強引な力技で動力を確保している。
これらは歯車による力の増幅が職人達に浸透してくれたおかげで実現できた。うちの職人マジで優秀だよ。
街道とは別に専用路を設置した事で、搭乗する人員を交代制で雇い現在は24時間体制でエーテライトの原石ラピスラズリが王都から運ばれてくる。
稀に複数の人員を急ぎで送迎する必要がある時は、別途用意した人員運搬車両を導入する事もあるが、現状では滅多に稼動していない。
人の行き来を劇的に時間短縮するのは、もう一つの高架線路が実装されてからで問題ないだろう。
二つ目の、列車を想定した高架線路。
これは「新幹線の線路」を想像しておいてもらえると良いかもしれない。
徹底した直線構造、高さもビル数階分、広さも最大で上下合わせて6車線を想定したサイズで準備を進めている。
行く行くは全ての街や村に駅を作り、誰もが当たり前に長距離をインフラで楽に移動できる世界にしたい。
だから交通網についても町や道路の再設計とある程度同時に進めなければならないのだ。
いま王都があるのはこの大陸の少し北西よりの位置で、各所に直線で線路を敷くにはどうしても無理が出てくる。
故に俺は、王都そのものについても現在の場所から少し南下した位置、この大陸のど真ん中へと移設を検討している。
ただ流石に大規模な都市工事となる為、土地の確保をしながらまだ図面を引いている段階だけど。
円形の街と城を軸にして、各所への線路が直線で放射状延びている地図を想像してほしい。
●●の町に行くなら、何時の方角の列車に乗ればいいよ、といった具合に整備された街が俺のイメージしてる完成図だ。
一度に全部を実装するのは難しいだろうけど、この数年の急激な発展で俺のやる事に対する横槍も相当鳴りを潜めている今の内にやれる事はやっておきたい。
少なくとも今現在。国民の皆様から王位継承時の公約は本当だったと評価されているのだ。
支持が集まっている間に目指した理想へ突き進むのは政治的に間違ってはいないと思う。
まぁそれが腐敗してなぁなぁになると、日本みたいな半端な国に成り下がるので利権に固執するだけの無能には本当に気をつけておきたい。
マジで国の発展の邪魔しかしねぇからな連中は……
「……いっそ、国の発展の邪魔をする奴を闇に葬る影の専門部署とかつくろうかな」
「馬鹿な妄想に浸ってないで手を動かしてください。今日の分の書類まだ残ってるんですから」
「はーい」
割と本気で考えてはいるのだけれど、それを言うと拗れそうなので出かかった言葉を飲み込んで俺はお仕事を再開した。
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「いらっしゃいまー……せっ!?」
「チャーハン大盛りと揚げ鶏、サラダを二人分ね」
「あ。レモンスカッシュも一つ追加でお願いー」
「は、はい!6番席チャー盛、鶏、サラ二人前~!……レモンスカッシュはお先にお持ちして宜しいですか?」
「うんお願いー」
バイオレットがそう答えると、ウエイトレスさんは深々とお辞儀をしてカウンターの奥へ消えていった。
周囲からは「うお。マジで陛下だ。マジで作業服だ」とか「バイオレット様も!?こんな薄汚い店に!?」と言う声が聞こえてくる。
いや薄汚い店呼ばわりはお店の人が可愛そうだろ。十分綺麗だって。
一部のお客さんがザワザワしはじめたので、俺はそちらに向って軽く手を振り「非番だ気にすんな」とサインを送る。
それだけで俺の出現に慣れている常連などが「いつもの事だから普通にしとけ」と慣れてない人に声をかけてくれ、皆が各々の食事を再開してくれる程度にはこの店に来ているのだ。
「楽しみですね、陛下お勧めの炒めご飯」
「チャーハンな」
あくる日のお昼時。
俺はバイオレットを引き連れて例のお気に入りのチャーハンを出す飲食店に来ていた。
勿論彼女も私服で、俺も普段着のオーバーオール姿である。
流石に王冠や王剣は自室だろうと放置して外出したら爺やの怒りが頂点に達するので、俺は王冠王剣のみを、バイオレットも護衛用として私物の刀剣を下げている。
本来お忍びで城下に来るならこういった物は外すべきなのだが、どうせ外した所で俺達は顔でバレるのだからと割り切った。
ちなみに今日はちゃんと仕事を片付けて来ているしバイオレットも護衛として連れているので爺やに怒られる事は……多分ない。怒られたらバイオレットのせいにしよう。
「まぁしかし、こうして外に飯を食いに出られる様になっただけでも、大きな進歩だよな」
「確かにそうですねー。数年前なら考えられなかったなぁ」
単に俺の年齢が幼女から少女という歳まで来たのもあるだろうが、この城下においてはかなり治安が良くなった。
貧しい家庭といえども、文明の発展と普及によって多様な食料の保存が可能になり飢えるという事が大きく減った。
それによって物乞いや引ったくりといったスラムの様な暮らしをしていた貧民は激減している。
また、教育の一般化に伴い「無料で受けられる勉強を履修しておけば仕事を探せる」という認識が、同時に最低限の道徳心を育んだのも大きい。
勿論思想教育の一つとして道徳を説く授業をやっているのもあるが、人々の財布と心に余裕が生まれた事がやはり一番大きな理由だと俺は思う。
お腹いっぱい飯を食い、暖かい部屋でちゃんと眠れるだけで人は割と幸せになれるもんだ。
「お待たせ致しました。チャーハン、揚げ鶏、サラダ二人前と、こちらレモンスカッシュです。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう。さてさて、いただきま―――」
届いたご飯をスプーンで掬いあげて、今まさにチャーハンが口へ運ばれようとした時。
「火急の連絡につき、お食事中失礼致します!陛下はこちらにおられますか!」
「―――す……ほうひは?」
店の扉を押し開いて伝令兵が俺の下へとやってきた。
既に鼻先をいい感じの醤油の焦げた香りが擽っていたので、俺は躊躇う事無く口に飯を放り込んで返事をする。
お行儀よりも食欲が勝ったのだ俺は悪くない。
兵士さんは流石に空気を読んだのか、俺とバイオレットにしか聞こえないヒソヒソ声で報告を続けた。
「報告致します……ヒソヒソ(西の港町に、エルフの帆船が渡来し入国と謁見を希望しているとの事です)あとその料理美味しそうですね」
昼飯を咀嚼しながら訪れたのは、待ちわびていたエルフ族との邂逅だった。




