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#0054_魔動の国と新たな来訪者_02

 魔術のオブジェクト指向化。

 魔力エーテルをエーテライトに保存できた時、真っ先に思い浮かんだのがコレだ。

 

 現在、アコナイトたち商会の研究者と実験している「属性」保存はその第一段階。

 第二段階では「結果」……つまりエーテライトそのものに「どういう魔術か」を保存できればいいなと思ってる。

 そうすれば魔動具側はさらに構造を簡略化できるし、恐らくそれが実現できれば俺の目指す「情報」の保存も実現すると考えてる。

 

 銃器に例えてみるなら「弾を高速で射出する」エーテライトを銃にセットすれば、銃本体には弾を装填する構造と打ち出す穴、後は魔術のトリガーがあれば良くなる。

 道具側で結果を設定しないなら、サイズや形状の自由度は格段に上がるわけだ。


 それこそビームサーベルみたいな「魔力の剣」とかも実現出来ちゃうかもしれない。

 このファンタジー世界にSFチックな光の剣が登場とか、考えただけでワクワクする。

 

 そして。結果のエーテライトが実現するならば「コンピューター」も夢じゃなくなる。

 いわゆる「ICチップ」の役割を持ったエーテライトを役割別に用意して繋げて行けばいいわけだからね。

 こうして夢はどんどん広がっていくのだけれど、その道程は地道なトライアンドエラーの繰り返し。

 毎度の事といえば毎度の事か。

 

「あぁ……国営放り出して実験に明け暮れたい……」


「お気持ちは察しますけど、トゥアレグ卿の雷が落ちるのでやめてください」


「わーってるよ……」


 以前あまりにも仕事が増えすぎて「もういやだ俺は旅に出る!」ってお城を抜け出して城下町で飯を食ってたら、鬼の形相をした爺やに連行された事がある。

 国王陛下が当たり前の顔をして普通の麺屋でラーメン的な物をすすってる時点で周囲は相当ざわついてたけど、爺やが来てからはちょっとした見世物になってた。

 その後も何度か脱獄しては城下でご飯を食べていたのだけれど、その度に正座でお説教されたからね。

 

「1週間前に城下でチャーハン食べてた人の言葉だから説得力は皆無ですよね」


「いやあの店のチャーハンすげぇ美味いんだって」


 マジで美味いのよ。

 怒られたくらいでは諦められない味なんだ。


「稲を持ち込んだ身としては、国王が城下でご飯食べる原因の一端を担ってしまっているので勘弁して欲しいんですよ!なぜか僕も怒られるんですから!」


「怒られる時には必ずインフルが道連れになるよう仕向けてるからな。旅は道連れっていうだろう?」


「どうりで!全部アンタのせいかぁ!!」





**************************





「そういえば陛下。随分とその格好が馴染みましたよね」


「この1年は特に、四六時中この格好だからなぁ」


「正直、国王陛下のする格好ではないですよねぇ」

 

 言われて、改めて自分の今の服装に視線を向ける。

 身に着けているのは王様然としたドレスではなく、なんと真っ赤なオーバーオールだ。

 一応デザイン的に女の子らしさを取り入れてもらってはいるものの、その基本設計は「作業着」のそれである。


「俺に言わせれば常時ドレスを着るなんて合理性に欠けすぎる」


「研究にドレスが向かないのは僕でも分かります。でもまさか流行そのものを変えてしまうとは思いませんでした」


「皆が同じ格好をすれば自然とそれが当たり前になるもんだからな」

 

 コルセットの廃止。

 シンプルなドレスの普及。

 オーバーオールの一般化。

 現在主流となっているこれらの流行は、主に国の貴婦人達から広まった物だ。

 

 まず俺が「コルセット無しでも美しい体を維持する事こそが淑女ですよ」とミモザ叔母さんを愛らしい姪っ子のつぶらな瞳で懐柔する。

 続けてマゼンタ女史をミモザ叔母さんと一緒に「シンプルな物ほど本人の女の質が試される」とか言って懐柔する。

 すると不思議な事に貴族や商人の奥様方ご令嬢に自然とその流行が浸透し進化していくのだ。

 

 流行は女性が作るというのは本当だった。

 今ではよほど形式ばった儀式でもない限り、ボディラインを強調した胸元や背中、肩周りを魅せるセレブっぽいデザインが一般的だ。

 

 まぁ俺は1年の大半が研究仕事してるので、ほぼオーバーオール着て過ごしてるけどね。ドレスなんて久しく着てない。

 動きやすいしポケット多いし便利なのよ?エプロン代わりにもなるからこのまま飯も食える。爺やに見つかったら怒られるけど。

 

 こちらは研究室の皆が取り入れ、各職人が現場の作業着にしたのが、いつの間にか農家にも普及してた。

 今では働く人のスタンダードウェアみたいな扱いになって色々なバリエーションの物が売られている。

 ただこの前城下で赤色のオーバーオールが「陛下も愛用」のキャッチコピーで売られれたのを見て「これで良いのか俺」とは少し思ったけど。


 魔族は母上を含めた女性が過去にも最高位の魔王に君臨してた事もあってか、男性の思想が絶対という概念が薄い。

 女性の流行が国民に普及しやすいのも、この辺りが大きく関係しているだろう。

 シュヴァインフルトの話を聞く限り、人間の社会の方は未だ典型的な男尊女卑が主流みたいだけどね。

 カテゴリーが「人間」しかない地域と違い、多様すぎる種族民族がいるからこそジェンダーな面はとても発展している。俺たち魔族の凄くいい文化の一つだ。


 まぁその恩恵というか何と言うか、LGBTについても魔族は広い視野を持っていて、それ故に俺の「ガチレズロリ魔王様」疑惑は未だに広く普及したままだ。

 何か国民全体が「まぁべつに普通だよね早熟だとは思うけど」って感じでさらっと受け入れてるのよ……今更否定すんのも面倒だから放置してるけど。

 

「そういやさ。どうにもピアニーは俺が彼女を狙ってると思い込んでる節があるんだよな……」


 最近、ピアニーちゃんに優しくすると「私は男性が好きなのでごめんなさい」って一々言われるのがちょっと悲しい。

 別にナンパしてねぇから!ただ上司として優しくしてるだけだから!って言っても頑なに信じてくれない。

 無意識に俺から「今夜俺のベッドに来いよグヘヘ」みたいなオーラが出てるのかとすら疑ってしまうくらい警戒されてる。

 ちゃんとその辺りのケジメはつけて仕事してるつもりなんだけど……


「え。てっきり陛下はピアニー女史を狙ってるんだと思ってました。彼女に聞かれて普通にそう応えちゃいましたよ僕」

 

「どおりで!全部お前のせいかぁぁぁ!!」


 誤解の犯人はこの中どころか、すぐ傍に居た様だ。


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