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#0048_人間商人と異世界の真実_05

「うまい……超うまい……これだよ、これが食いたかったんだよ……」


「これはたまりませぬな。ついつい酒が進んでしまいます」


「いやぁ。ソイソーを甘くするというのはエルフもやってましたが、この太い小麦麺を入れるというのは凄い案ですね。牛の油を使って初めにお肉を炙るというのもまた素晴らしい」


「陶器の鍋でライスを炊く、というのも素晴らしいですね。ふかふかです」


「あ!陛下それ私が育ててたお肉ー!!」


 分かる人にはもうお分かりだと思うが。

 現在俺達は絶賛すき焼きパーティ中だ。

 それも研究室に持ち込んだ新型のコタツに小型化したコンロを乗せて鉄鍋を囲んでいる。

 脇に置いた土鍋には、炊いて蒸らした白米がたんまりと入っていた。

 日本と違う所といえば、大半の面子がナイフとフォークとスプーンで食しているという点と、日本人らしい人が誰も居ない点だろうか。

 

「しかし陛下は器用ですね。二本の棒で食材を摘むなど私には出来る気がしません」


「小麦麺思いついた時に、こういう道具の方が食べやすいかなってやってみたけど、竹を削っただけでも結構使えるもんだ」


 実際には、いつか麺類が普及した時の為に随分前からこっそり練習していたのだけれど。

 

「稲ライスの普及もだけどソイソー製法のもっと細かい部分が分かれば、この国の食文化が豊かになりそうだ」


「エルフの方から教わったのは触りの部分でしたから、色々と試してみるしかないとは思います。完成品はありますしね」


 醤油と米とうどんなどの麺類は、一般に広く普及して欲しい。

 それだけで色んな料理を考え試す人が出て来るだろうし、いつかは市勢でカレーうどんが普通に食えるようになってほしいな。

 

 シュヴァインフルトが流れ着いて半月。

 少しずつ魔族の国に変化が訪れていた。

 




*****************************





「と、いうわけで。お前には商人兼教師をやってもらいたい」


「すみません、おっしゃっている意味が分かりません陛下」


 何だとうこの野郎。

 そのままの意味じゃねぇか。

 

「と、いうわけで。お前には商人兼教師をやってもらいたい」


「いえ同じ言葉を繰り返されてもですね……」


 突然の無茶振りに聞こえる俺の発言にも、ちゃんとした意図はある。

 

 誰でも教育を受ける権利がこの国にはありますよ宣言から既に1年。

 ピアニーちゃんという、貧民からの成り上がりサンプルのおかげで順調に生徒の数は増えてきている。

 だが未だに、立場、種族による差別意識は根強く、今は俺という絶対者の下だから大人しくしているに過ぎないのだ。

 なのでこの辺りで「人間」でありながら教育の現場に立つという種族どころか敵対者に近い存在を現場に投入してみたくなった。

 

 勿論シュヴァインフルトの身の安全の為に護衛は常時つけるし、彼にも国内で相応の立場という肩書きは背負ってもらう。

 それだけの事を強要してでも「商人」である彼が物づくりに関連した教育の現場に立つ事は大きな意味があると俺は考える。

 

「外の商人だからこそ、この国で今育ちつつある文明を踏まえて教えられることがあると思うんだよ」


「あー……つまり、人間でありながら国内の魔族よりも魔動具を理解した存在をぶつけて、意欲や反骨心を煽りたい、と?」


「理解が早くて助かる」


 さすがシュヴァインフルト。伊達に小太りしてないな。

 だが彼はまだ何かが引っかかっている様で、少し考えた後に言葉を続ける。

 

「場合によっては。それこそ貴族のご子息などプライドの高い方が折れてしまう可能性もありますけど、そういう場合はどうしましょうか?」


「それで折れる奴はどうせ育たないからブチ折ってしまえ」


「け、結構陛下ってドライといいますか、切り捨てる物は切り捨てる派なんですね……」


 失礼な。まるで俺が悪くの大魔王みたいな言われ方じゃないか。

 

「貧富の差は環境の問題もある。だが意欲の差は個人の問題だ。自分より下に見てた奴に追い抜かれた程度で心が折れるなら「その程度」だろう。今一度追い抜こうとするなら俺は応援するし見守るけど、そこで匙を投げる奴はどのみちこれから発展するこの国についてこれねぇよ」


 冷たいとも、冷酷とも思われるかもしれないが、そうしないとこの国は前に進まない。

 実際、偉くもない偉そうな奴が、意欲ある国民の邪魔をしているというのはこの数年で良く分かった。

 だからある程度ふるいにかけて競争を促す環境を国王である俺が進めなければならないのだ。

 

 勿論毎度の事ながら一部の貴族や商人から文句は出るだろう。

 だが、そいつらを黙らせる為の仕組みも完成しつつある。

 ミモザ叔母さんとの会談という最大の問題は残っているがそれさえクリアされれば、この国は加速度的に成長する。

 正直人材の育成については既に後手に回っていると考えている位なのだ。

 既にこの件については爺やを初めとする国の重鎮には伝えて理解を得ている。

 ならば俺は彼らが支えてくれる事を信じて、任せて、目指した未来の為に「魔王」らしく振舞うべき時なのだ。

 

「自分の力で稼いで余生をだらだら豪遊して過ごすというなら俺も文句は言わないが、親の七光りでお小遣い貰ってる癖に他人を踏みつけて楽して生きているだけの奴を俺は許さない」


「商人としては「扱いやすい客」なのですが、陛下にとっては「発展を止める敵」なんですね。御歳11歳で余りに自己の正否が明確すぎて怖いです」


「そういう事だ。ある意味では勇者よりも俺の敵だ。あとこんな愛らしい少女目の前にして怖いとかいうな。泣いて爺や召喚するぞ」


 俺が大声で泣いてみろ。爺やが鬼の形相で抜剣しながら駆けつけるぞ?

 

「それはご勘弁を……しかし良いのですか?改めて申し上げますが僕は「人間」ですよ?」


「人間だからお前に頼みたいんだよ。最前線だ。報酬は弾むし護衛もつける。その代わり「国を育てる」という責任を負ってもらう」


 人間だから。敵対している種族だからこそ。

 これから「先」に進むには、その差を越えて学べる人材が必要になるし、行く行くは種族、民族、立場の差を問わない社会でなくてはならない。

 だからこれは、まだまだ入り口なのだ。

 しかして、絶対に必要な入り口でもあるのだ。


「どのみち帰れるようになるまで商売どころでもないでしょうし、ええ、わかりました。お引き受け致します」


 こうして俺は国の教育における新しい一歩を踏み出すことが出来た。

 数年後には義務教育となる、新体制の学び舎が始まる。





「じゃあ手始めにコレ全部覚えて理解してくれ。俺が用意した教材だ」


「えっと……やっぱ辞退してもいいですかね!?何十冊あるんですかこれ!?」


「爺やー。シュヴァインフルトが汚らわしい目で舐める様に俺の胸元や太ももを凝視するー。お嫁にいけなくなるー」


「ちょっとまってください冗談です!その発言は洒落になりませんって!?ぎゃー!足音が近づいてくるー!」


 同時に、彼の苦難の日々も始まる。


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