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#0045_人間商人と異世界の真実_02

「あ、あのう……僕はどうなるのでしょうか?」


「さぁ?それはこれからの答え次第だなぁ?ククク……」


 王座に腰掛け、跪く人間の前で存分に魔王ムーヴを繰り広げる。

 肩肘を付きながら気だるそうに受け答えする俺が、彼には逆に恐ろしく映っている事だろう。

 金剛夜天を装備し側近たちを並べ、俺こそが魔王であるという雰囲気をわざわざ準備したのだ、ビビッてくれる位が丁度いい。

 最近発明馬鹿ばかりやってて魔王らしい事を久しぶりにやりたかっただけでは無いからね?

 

「あぁ……何でこんな事にぃ……」


 人間の漂着に慌てふためくピアニーちゃんを大人しくさせ、俺はアコにその人間を城まで連れてくる様に指示した。

 正直直接この目で見に行きたい位だったが、どのみち城には連れてくる事になるのだ。

 だったらここで準備して待っていようという事に。


 一応アコには「抵抗しないなら無闇に怪我をさせない事。逆に漂流で怪我をしてたら治療してあげる事」を命じておいた。

 いやだって瀕死の人間連れてこられても困るし、今後の事を考えると最初の心象を悪くするのは宜しくない。

 勇者の一件もあって、確かに俺も人間という種族に対して良い感情は持っていない。

 城下で人間の兵士達と切り結んでいたアコ達はよりその思いが強いだろう。

 

 だが、だからこそ、流れ着いた人間に敵意が無いなら俺達が害するべきではないのだ。

 それでは連中と同レベルに落ちる事になる。

 

 俺は。俺達はあの侵略者達とは違う。

 種族や民族で差別はしない。

 言葉が通じて利害が一致するならば、それは少なくとも「敵」ではないと考えるべきなのだ。

 

 そうして連れてこられたのは人間の商人。

 名前を「シュヴァインフルト」というらしい。


 えらいカッコいい名前だが、外見は小太りの20代くらいの男性。

 ザ・商人の倅!というビジュアルがより一層名前との距離を突き放している。

 

「さてシュヴァインフルト殿。我等魔族の地に流れ着いた経緯を話してもらおうか」


「は、はい……えっとですね……」


 おずおずと語り始めた彼の経緯はこうだ。

 

 ある商人の家庭の末っ子に生まれたシュヴァインフルトは、親や兄達の背中を見ながら育った。

 それこそ成功も失敗も、あらゆる商人としての生き方をその背を見て学んできたそうだ。

 自分が見習いから脱却して独立した際には、それらの学習を活かして自分なりの流通経路を獲得したと自負していた。

 

 だがそこで欲が出た……ヒトの中だけでなく異なる種族との商売をするべきではないのかと。

 親兄弟も手をつけていない、手を付けられていない「エルフ」との貿易。

 これが成功すれば自分はあの兄達を、それこそ父親をも超えた商人になれるのではないか?

 気がつけば情報を集め、商品を集め、エルフの集落の前まで足を運んでいた。

 

 今にして思えば門前払いで弓矢の雨を受けて死んでいてもおかしくは無かったが、幸か不幸か彼の商談は大成功を収めた。

 勿論一度で成功はしていない。何度も足を運び、エルフが欲している物を聞き出して流通できる手段の確保に奔走した。

 おかげで彼は、エルフの里から多くの支持を集める事に成功し、とても大きな交渉を成し遂げたのだ。

 

 その帰り。ヒトの国に流れていない多くの物資の試供品は陸路で運ぶには困難であると考えた彼は、エルフ達に頼んで船を手配してもらったらしい。

 陸がだめなら海路で自分の拠点に戻ればいい。幸い小さな船なら自分でも動かせるし、陸伝いに船を走らせれば問題は無いだろう。

 

 これが、失敗の始まりだった。

 

 陸伝いに進んでいたはずの船は予想だにしない潮の流れで沖に流され、そして陸に戻ろうと舵をきったはずがどんどん陸からは離れていった。

 遠ざかる故郷の大地。気がつけは大海原の真ん中で方角も分からぬ状況に陥っていた。

 要するに遭難したのである。

 

 幸い食料になるものは大量に船に積まれている。

 少なくとも半月は生き延びる事ができるだろう。

 節約すればもっと長い間も飢える事はない。

 とにかく進行方向を決めて船を走らせ、どこかの陸地にさえたどり着ければ何とかなる。

 

 そう決断して行動を開始したその翌日。まさかの嵐に見舞われた。

 

 嵐は三日三晩彼の船を煽り続け、何処とも知れぬ海域へと船を押し流していった。

 雨も風も収まり、船が転覆しなかったのだけは幸いだと胸を撫で下ろしていた時、奇跡的にも陸地が目に入った。

 この機会を逃してはならないと、一路その陸地へ船を走らせていた途中で彼は気がついたのだ。

 

 自分が知っている大陸にしては、そこが妙に「小さく」見えた事に。

 

 気がついた時には既に手遅れ。

 魔族の大陸を巡る内向きの海流に飲まれた船は、抵抗も空しく丘へ丘へと運ばれていった。

 

 そして今のこの状況に行き着くわけである。

 

「…………」


 気のせいだろうか。

 俺は以前、似た様なノリで海に出てこの大陸に流れ着いた人間を1人知っている。

 その人は女性だったが、流されていく経緯に強烈なデジャヴを感じるのだ。

 

「……おっしゃりたい事はわかります」


 思わずそちらを見ていた俺に、何故か少し照れた様子で咳払いをする爺や。

 うん。だよね。あんたの奥さん確かそんなノリで流されてきてなかったっけ。

 まぁアルメリアさんの壮絶さに比べたら、シュヴァインフルトの話は間抜けさ200%増しだけど。

 

 うーん。さてどうしたものだろうか。


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