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#0043_E言語(エーテル言語)誕生

「強度面も考えて行くと、やっぱり鋼と混ぜたこれがベターかな」


「そうですなぁ。他だと落としただけで変形して役に立たなくなりますからなぁ」


「ただあまり重いと私生活での活用には向きませんし、利便性、量産性、充填量を考えるとこちらの物も良いとは思います」


「取り扱いに皆がどれだけ気を使えるかになるよなぁ。気軽に扱える物っていうのは維持したいし……うむむ……」


 あーでもない。こーでもない。

 そーでもない。どーでもない。

 

 職人だけでなく魔術師、城に勤めるメイド、商人、貴族。

 色々な人の意見を取り入れながら、俺達は魔動具のエネルギー媒体となるアイテムの試作に明け暮れていた。

 

 ミモザ叔母さんの国でラピスラズリの鉱床を発見してから、既に半年。

 11歳になった俺は、相変わらずの日々を送っている。

 

 といっても今はそのエネルギー媒体の最終的な仕様についてを議論している所だ。

 既にラピスラズリが持つ充填量とサイズの比率、最適な形状などについては調べ終わり、更に言えば金属や他の鉱石との混合による発展もある程度目星がついていた。

 石同士の掛け合いは余り意味がなく、金属との掛け合わせは単純にそのレアリティが性能に関係する事が分かっている。

 

 例えば1センチ四方の媒体を作るとして、一般的な「鉄」を基準とすると「銅」と混ぜた場合強度は落ちるが充填量は少し増える。

 銀と混ぜると更に充填量は増すが重さが少し上がる。金と混ぜると、更に重さと充填量が増す。

 ファンタジーな金属でもあるミスリルと混ぜると、強度は格段に上がり軽くなるが充填量は少し減った。

 オリハルコンと混ぜると充填量はものすごい増えたがその分もの凄い重くなった。

 メテオライトという隕石から取れる希少金属と混ぜると最強の強度、軽さ、充填量を誇ったが、そもそもメテオライトの加工コストがやばいのでこれは無し。

 

 こういった諸々のバリエーションを踏まえて、最終的には鉄か、銅か、銀か、辺りで悩んでいるわけだ。

 俺達の暮らす魔族の大陸のレアメタル埋蔵量が分からないのがもどかしいが、現状であれば恐らくどれをベースにしても問題にはならないだろう。

 結局最後は俺が決めるしかないのだが、どれも捨てがたいなーと悩み続けている。

 

「最終的な決断は陛下にお任せいたします。国営品でございますから」


 この通り皆も決定権は俺に丸投げする気満々だ。

 まぁ、結局どれを選んでも何らかの用途で不満はいずれ出る。

 その都度改善してバージョンアップを繰り返すしか無いのだろう。

 最初から完璧を目指してもロクな事にはならないし、ハードもソフトも、トライ&エラーしてなんぼだ。

 だったらもう選択肢は決まっていた。

 

「よし。強度、耐熱を優先して鉄バーションを最初の流通品にしよう」


「承知しました。私達も異論はありません。ところで陛下、この新しい金属には何か名前を与えるおつもりですか?」


「あぁ、そうだな。一般に流通するなら固有名詞はあったほうがいいか」


 要するに商品名だ。

 それこそ「乾電池」くらいの普及率になるわけだから、言いやすい単語、覚えやすい言葉が好ましい。

 うーん。俺その辺りのセンスがあるわけじゃねぇしなぁ……


「魔力を貯めておく金属、というのが伝わりやすい言葉ですかなぁ……むむむ」


「魔力……魔術……魔石……魔鉄……」


「マナ……マジック……マジカル……キャスト……」


 皆思い思いの単語を浮かべながら、言葉をつなげたり分解したりと試行錯誤を繰り返していく。

 言葉……単語……名称……あ。そうかそもそも命名の前段階が足りてないんだ俺達。

 

「なぁ。まず先にもっと根本の名前を決めないか?」


「根本の名前?」


 そう。俺達はそもそもがこの魔動具に使われている言語を、そのまま「魔術言語」としか呼んでいない。

 別にそれでも問題はないのだが、道具に限らず言語の普及も目指すならば「ルーン」の様な固有の名称を設定しておいた方がいい。

 あとほら「まじゅつげんご」って何か噛みそう。

 

「魔術言語自体の呼称と、後そうだな、魔力にも何か俺達なりの名前を付けたい」


「ふむふむ」


 実はここについてはもう一案あったりする。

  

「この前サイクロプス達と話してて知ったんだが、彼らの種族では魔術師の事を「言葉を行使する人」って意味で「スペルキャスター」って呼んでるらしい」


 いわゆる方言というか、種族的なニュアンス、捉え方の差で生まれた固有名詞の一つだ。

 関東の人からすると「なおす」というのは修繕といった意味だが、関西の人にとっては「片付ける」という意味合いを持っていたりする。

 この11年で色々な種族と話してて、魔術師も魔力にも様々な呼び方があるのだと俺は教えてもらった。

 なので折角だからそういう物の中から、耳障りの言い単語に出来ればどうかと思うわけだ。

 

「だから魔術言語はキャスター言語って呼ぶとかな。あと魔力もドワーフ達は「エーテル」って呼んでるんだろ?」


「えぇ。まぁ鍛冶職人特有の呼び方ですがね」


「なら、魔力は「エーテル」。魔術言語は「エーテル言語」で統一してもいいんじゃないか?俺、エーテルって単語は他に使われてる記録も無いしいいとおもうぞ」


「エーテル……エーテル……あ!陛下!エーテルの金属で「エーテライト」なんてどうでしょうか!」


「いいなエーテライト!うん、しっくりくる!」 


 某大作RPGでもその呼称出てきた気がするけど、その辺はこの異世界には関係ないしな!

 エーテルも地球では「第五元素」とかって意味の呼称を持ってた。

 なら「何かよく分かってないけど、火水土風とは違う何か」としても良い命名だと思う。

 何よりも俺が覚えやすいしカッコいい。

 

 そしてその上で、俺は俺らしい1案が固まった。

 

「エーテル言語は、頭文字を取って「E言語イーゲンゴ」にしよう。書類に書く時とか楽だ」


 生前馴染みに馴染んだ有名なプログラム言語。

 並びとしても、それに準じ、それの異世界発展系という意味も込めて。

 C言語を駆使して生きてきた俺が、異世界でE言語を使って生きていくのだ。

 Dについては他の異世界の人に任せるとしよう。


「正式名称をエーテル言語、一般的な呼称をE言語、って事ですね」


「うん。みんなどうだ?」


 特に反対意見も代案も無く、皆が一様に満足したように頷いている。

 こういうのは勢いで決めてしまったほうがいいだろう。

 経験上「もっといい案あるかも」と下手にあれこれやっても、結局は第一案に戻ってくるのがオチなのだ。

 

「決まりだ。今日から魔力を「エーテル」。魔術言語は「エーテル言語およびE言語」。魔力媒体の金属は「エーテライト」と呼称する」


 剣と魔法の異世界に相応しい素敵な名称が刻まれた。

 

 さぁさぁ。準備は整った。

 ソースコードは出来ている。

 ハードウェアも開発できる。

 

 始めようじゃないか、新しい時代を。

 始めようじゃないか、エーテルによる高度経済成長を。

 

 文明開化の時は来た!


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