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#0038_過労と雪国_05

「申し訳ございません……ミモザ様はその……部屋に引きこもっておりまして……」


「アンタも苦労してそうだな……」


 雪国の国境を越えてすぐ。

 銀世界の寒さに負けじと活気付いた城下を抜けて、巨大な氷山の麓に立てられた城へとやってきた。

 

 最初は「歓迎されてないとしたら気まずいだろうなぁ」とか思っていたのだが、案内に出てきてくれた側近の方を含め、城内に勤める人たちは皆とても好意的であった。

 そこまで持て成さなくて良いよとこちらが言わなければ、ファーストクラスか、スイートルームかというくらいの至れり尽くせり。

 貴賓としてサービス精神溢れる対応をされて拍子抜けというか、むしろビックリしてリアクションに困ったくらいである。


 客室に通され荷物を整理して、同行した面子の中から事情に詳しい代表者数名を引き連れ、いざミモザ女史との対面!となったのが今しがた。

 肝心のミモザ叔母さんはどうやら部屋に閉じこもって出てこないという事だ。

  

「バレンタイン国王陛下がお話の通じるお方で、心底安堵しております」


「あ~……ミモザ叔母さんってもしかして、人の話あまり聞かない?」


「側近としてお恥ずかしい話ですが、私でも閉じこもったミモザ様は手が付けられません……」


 申し訳無さそうに深々と頭を下げているのは、整った顔立ちの妙にマッチョな青年執事だ。

 話を聞く限りでは、どうやら俺で言う所の爺やくらいの立場にある人で、事実上この内国のナンバー2に相当する。

 ならばもう、引きこもりババァは放置して彼と話をする方が早いだろうと俺は頭を切り替えて行く事にした。

 

「事前に書面で連絡したとおり、俺達はこの山に埋蔵されてるらしき鉱石の調査がしたいんだ。その許可さえ頂けるならほかの事については別に気にはしないでおこうと思ってる」


 まぁ?正直、可愛い姪がわざわざ会いに来てんのに面も見せない叔母にちょっと腹は立ってるけど?

 でもいいのさ。それならそれで俺も無理に会おうとは思わないし、何で俺がそこまでしなきゃなんねぇんだ!ってちょっとスネてるのもある。

 いい歳した大人が気まずいから部屋に閉じこもって出てこないってホントどうなのさ。仮にもこの地を納める人として……

 

「それについては問題ございません。こちらからも力仕事に適した種族を何名かお貸し致しましょう。ただ、これは交換条件というほどでもないのですが、ご滞在されてる間だけで構いませんので……ミモザ様と蟠りを無くす事に勤めてはいただけないでしょうか?」


「うーん。その蟠りって母上との間の事だから、俺に何とかできるって言い切れないが正直なところだ」


「承知しております。ただ「そういう意思があるのだ」という事実が欲しいのです。気の長い話ですが、国王陛下ご自身の交流の意思が明確かどうかだけでも今後のミモザ様の説得材料としては大きな物になると思いますので」


「一つ、宜しいでしょうか陛下」


「おう」


「ミモザ様との交流について、まずは私にお任せ頂けませんでしょうか?歳も近く、それでいて立場が下の私ならばいくらか話がしやすいと思うのです」


 そう提案してきたのは、俺の側近。正確には四天王が1人。

 貴族のご夫人達を取り纏める交渉官のマゼンタさんだ。

 

 今回の遠征では、俺以外に護衛兼魔術関連代表でアコナイトが。

 鉱石の調査という事もあって、石工職人と鍛冶職人の親方。

 そして、ミモザ叔母さんの性格が分からないのでご婦人の取り扱いに長けたマゼンタを連れてきていた。

 この辺りの采配は、安定の爺やプランである。


 元々ある程度ミモザ叔母さんとの緩衝材的な仕事を頼むつもりだったのだ。

 ここで俺が断る理由はないだろう。


「いいぞ。むしろこういう時の為にマゼンタには同行してもらったんだからな。貴婦人のお茶会取り纏め役の腕前を見せてくれ」


「では、お茶請けに陛下の悪口の100か200飛び出すと思いますが、それについても事前にお許しを頂きますね」


「まって。100も200も俺に対して悪感情あるの!?むしろそれについてまず俺達が話し合うべきじゃないかい!?」


 今まで彼女達が開催している貴婦人のお茶会に参加した事はなかったけど、もしかして旦那とか上司とかの悪口で盛り上がるお茶会なの?

 ていうか俺そこまで色んな所から影であれこれ言われてんの?

 本人に直接言われない陰口なんぞあって無い様な物だと思ってたけど、さすがに少し泣きそうだよ? 


「冗談でございますよ。10か20でございます」


「数の問題じゃない!」





******************************





「洞窟内は外に比べれば随分マシなんだな」


「ここは火山も近いっすから、地熱が伝わる洞窟内の方が過ごしやすくなってるんすわ」


「氷に覆われた洞窟とかじゃなくてホッとしてるぜ」


 引きこもったミモザ叔母さんをマゼンタに任せ、俺は職人達と執事さんが紹介してくれた鉱山夫数名と共に、氷山の麓から入れる洞窟へとやってきた。

 他にもいくつか洞窟、鉱山はあるが、この場所が一番鉱石などの採掘幅が広く可能性が高いとの事なので、まずはそこから調べようという事に。

 こういう場合は現場に慣れたプロの意見と勘に頼った方がいい結果になるもんなのさ。

 

「しかしアレっすなぁ。陛下はお若いのにしっかりしてますなぁ。そこらの若手に見習わせたいっすわ」


「何の準備も覚悟も無い中で突然王様やる羽目になったんだ。使えるものは見栄も虚勢も使うってだけの事だよ」


「いやいや。逞しい人が新しい王様で嬉しいっすよ」


 へへっ。褒めても何もでねぇぞ?

 でもこんな幼い王様を見てそう思ってもらえるのは少し嬉しいし自信にもなる。


「そういえば初めてサイクロプス族に会ったけど、よくこの暗がりで奥が見えるよな。その目の能力羨ましくなる」


「俺ら単眼は本来二個にする目を1個にした代わりに目の能力が高い、ってご先祖が言ってたらしいですが、実は自分等でもよくわかってねぇんすよ」


「あぁ。俺の角がなんの役に立つのか自分でも良く分かってないのと同じか」


 先頭を歩きながら洞窟を案内してくれている鉱山夫の男性。

 彼らは目が一つしかない単眼の種族サイクロプス。

 RPGなどでは中盤~後半の強敵として登場する定番のモンスターだが、実際には気のいいほんわかした人たちだ。

 ファンタジー知識と合致する点といえば、高身長で筋肉質。そして腕力や体力に秀でている事。

 逆にファンタジー知識にはない能力として、今話していた異様な夜目の強さがある。

 体力と暗視能力の高さを活かして種族の多くが鉱山夫という最適な仕事に従事しているらしい。

 まさに適材適所である。

 

「自分の事が一番わからねぇもんっすなー」


「だなー。それが分かったら苦労しねぇよなー」


 緊張感皆無な、ゆるーい会話を繰り広げながら俺達は洞窟の奥へと歩みを進めて行く。


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