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#0027_お前の名前は

 気がつくと俺は、黄金の草原に立っていた。


 胸元には先ほど刺されたはずの傷は無く、だがしかし身に纏ったドレスは母上の血で真っ赤に染まっている。

 周囲を見渡しても母上の姿も、さきほどの日本人らしき男の姿も無い。

 ただ当たり一面を、黄金の草花が埋め尽くした、どこか神々しくも悲しい草原が広がっていた。


「あぁ……そうか。あそこで終わり。死んだのか……」


(まだ死んではいない)


「誰だ!?」


 夕焼けなのか、黄金なのか分からない色の空を眺めて己の死を受け入れようとした時、誰かの声が響いてきた。

 周囲にはやはり人影は無く、先ほどの声もどこから聞こえてきたのか分からない。

だが確かに、恐ろしく鮮明にその声は俺に響いてきた。


(ここは我が彼方の心象。お前の心を今ここに繋いでいる)


 それはいわゆる「身体は無限の剣で出来ていた」的な場所って事かな?


(認識としてはそれでよい)


 ええんかい。

 っていうか謎の声さんにサブカルなジョークが通じたのがちょっとだけ嬉しい。

 実に10年ぶりの理解者である。


(これはお前の記憶を使って言葉にしている物、ゆえにこれは己との対話でもある)


 あぁ、うん。なるほど。

 多分だけど、前に死んだ時の天使さんとのやり取りに近いものなのだなと考える事にした。

 俺の記憶を参照しながら俺の質問に答えてくれている、と言う感じか。


(7世代目の継承者バレンタイン。お前に問いを投げよう)


 はいはい。何でも聞いてくださいな。


(お前は我に何を求め、そして如何なる名を与えるのか)


 うーん。その前に謎の声さんは何者?

 何を求めるとか依然に、何に対しての質問なのか教えてください。


(我は黄金。お前達が神器と呼ぶものの一欠片)


 黄金……神器……一欠片ってのがわからないけど、そうか、魔王の神器の声なのね。

 つまりこれは、あの土壇場で母上から俺に神器が託された……という事でいいんだな。


(そうだ。さぁ、お前は我に何を求め、如何なる名を与える)


 何を求め、如何なる名をか……・・

 何を求めっていうのは、神器の形と機能の要望。

 名前はそのためのキーワードとなる物か。

 母上も「魔王弓ミラージュ」って名前をつけていた。


 ……………………なぁ。


(それは叶わない)


 そうか……そこまで都合よくはないのか……


(二人は既に死した。我に死した物を救う奇跡は起こせない)


「そっか……そっか……そっかぁ……」


 あぁ。現実が押し寄せてくる。

 涙がまた瞳の置くから押し寄せてくる。

 思わず空を見上げて涙を堪えようとしても、押し迫る水圧はその程度じゃ抑えきれなかった。


「おれは!俺は……生きなきゃいけないんだ……」


(そうか)


「分かってるさ!運命の縛りがある事は!でもまだ何も返せてないんだ!」


(そうか)


「たった10年。たった10年あれだけ愛されて何も返せないままで死にたくないんだ!」


(ならば、何を求める)


「贅沢は言わない。あと20年でいい。この国に俺が愛された証を、国の発展と言う形でいいから残したい!」


(ならば、何を求める)


「俺は死ねない!だから殺されない為の力が欲しい!」


(それは剣か?それとも槍か?)


「そんなものはいらねぇ!必要なのは「生き続けるための力」だ!」


(それは弓か?それとも銃か?)


「殺す力は文明でどうにでもなる!大事なのは死なない事だ!」


(それはすなわち……守る力か?)


「そうだ、俺は俺を守る力が欲しい!爺や、アコ、レット、皆が俺の心配をしなくても済む為の守りが欲しい!」


(ならば授けよう)


「あぁ、よこせ!その力で俺は生き続けてやる!」


(ならば想像せよ、お前が望む我の姿を)


「俺のほしい物は決まった!俺が欲しいのはこれだ!」


(ならば名づけよ。我に名を。お前と共に歩む我にお前が名を与えよ)


 草原から、キラキラと光る蛍の様な物が身体に集まってくる。

 暖かいこの粒達が俺の神器になってくれるのだろう。


 気がつけば周囲の景色は夜空に変わり、蛍火達の輝きが一層存在感を増していく。

 空に月は無く、ただ煌く星と蛍の灯りのみ。


 空を見上げ、涙を拭いてただ黙って想像する。

 俺が手にしたいもの。その完成系を只管に想像する。


 ふと腰に下げた剣が左手に触れる。

 その形を指で確かめた後、俺は徐に頭の冠を取り外した。

 仰々しいデザインだが、俺に合わせて俺の為に両親が残してくれた最後の形見。


 この王冠に相応しい王にならねばならない。

 この剣に相応しい王でありたい。

 この二つに相応しい神器を想像しなければならない。


 考えて、考えて、考えて。

 想像して、想像して、想像して。


 空想するのだ。

 妄想するのだ。

 連想するのだ。


 創造―――するのだ。


(決まったようだな)


 あぁ、決まった。

 これでいい、これがいい。

 俺はこれを背負って、お前を背負って生きていく。


 それが俺に出来る、最初の両親への恩返しだ。


 だから名づけよう。

 だから声に出そう。


 声高に!想いの全てを乗せて!


「お前の名前は―――」


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