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#0010_これは魔法ですか?いいえ科学です_02_Sideアコナイト

「魔術を誰でも使える文明に落とし込みたい」


 最初に姫様から提案を受けたときは懐疑的だった。

 その考えはこれまでの魔術師が積み上げたものをある種否定するものだったからだ。


 ルーンが刻まれた魔剣の様な道具を自分で作ってみたい程度の事のかとも思っていたが、話を聞いているとどうも違う。

 より詳しく話を聞いている内に「ルーンそのもの」や「魔力そのもの」に関してもっと「学問」として整えたいというのだ。


「なぜ火を燃やすのに空気が必要かというのは、ランタンや蝋燭を密閉した空間に入れる事で実証できます。火を燃やし続ける空気という媒体が「燃焼」という行為で消費しつくされたから火は消えるのです。蝋燭を口で吹いて消すのはまた少し理屈が違いますが根本的には変わりません。このあたりは料理人や鍛冶職人ならば竈に火をくべる時の構造で自然と理解しているでしょう。お城でも暖炉は必ず煙突に繋がっていますが、煙を外に逃がす以外にも空気の通り道として火を燃やし続ける為に必要な構造の一つなのです。では、魔術を行使した際に消費される魔力というのは空気などと同じ何らかの目に見えない「物」なのではないかと考えました。物……いえ「物質」と呼びましょうか。物質ならばその存在を確認する方法は必ずありますし、物質ならば魔術以外の手段でそれを用いて魔術と同じか異なる何らかの現象を引き起こせると考えています。なので今日からは私に足りない魔術に関する学習を強化しつつ魔力に関連した研究を進めていきたいと思っています。魔術では改めて魔術の生まれと歴史上どのように使われてきたか、発展してきたかをより深く学習するのが大事ですね」


 正直、このお姫様は何を言っているのだろうと思っていた。


「つまり、魔術の歴史を紐解きながら「使える人と使えない人」の違いを調べていきたい、ということでしょうか?」


「うーん、それは副産物といいますか、後でいいです。まずは「魔力ってそもそも何なのか」をつきとめたいですね」


 魔力は魔力以外の何物でもないでしょう、とは思いましたが口には出さずぐっと飲みこみます。


「あ。アコと私で少し認識にズレがあるようなので補足すると、私は別に私自身が魔術を行使できるようになるのを目的にはしていません。それよりも「魔術」そのものをもっと言葉で説明出来るように、そうですね一つの「学問」として解析できないか。そしてその魔術の根源ともいえる「魔力」を誰にでも説明できる存在として暴く事はできないか?というのが目的です。なので魔術が使える人、使えない人の差はその研究の過程で分かれば儲け物、程度の認識にして頂ければ」


「それはつまり、魔術を「奇跡」ではなくしてしまうという事でしょうか?」


 世の魔術師達が聞いたらこの時点で引っ叩かれても仕方がない事を言っている。

 ここは教育係として叱咤すべき場所かもしれないと口を出そうとしたが、姫様はそのまま言葉を続ける。


「ありていに言えばそうなります。ですが現時点で既に奇跡などという曖昧なものではないのは明白なのです。ルーンという専用の文字といいますか法則が存在してますから。ならばそのルーンを最初に見つけて広めたのは誰なのだろう?という風に全てを遡っていけば、そもそもなぜルーンで魔力を魔術にできるのか?がわかると思いませんか?そもそもルーンって何なのか分かっていない事のが不思議なのです。歴史の中で何か意図があって隠蔽された様な気すらしています」


 と、ここまで言い切って姫様は傍らにあった紅茶を一口飲む。


 確かに言われてみれば「ルーン」の発端とは何なのか。

 私たち魔族の歴史の中でも、魔術師の歴史の中でも「ルーンの原初」については私が覚えている限りで記述がない。

 我々の置かれている特殊な環境故に喪失している可能性も考えられるが、そもそも「そういうもの」以上の知識の継承は行われては来なかった。


「この世界に説明出来ない事なんて絶対にないはずなんです」


 本当にこの少女は何を言っているのだろうと思った。

 だが、私はこの時既に姫様の考えに興味が出始めていた。


 魔術の根源、魔力の根源。

 もしも本当にそれを「言語」なり「何かしらの技能」として誰でも扱える物に出来たのなら、その先に立つ魔術師とは今と比べてどれほどの技量を備えた存在になるのだろうか。


「まぁ日々のお仕事に差し支えない範囲でしたらご協力致しますよ」


 興味がないと言えば嘘になるが、積極的に関わりたいかと言われても嘘になる。

 私にとってはその程度の、ちょっとした趣味のお手伝い程度の気持ちで安請け合いしたのが始まりだった。


 両陛下のご息女であるバレンタイン姫様は、間違いなく膨大な魔力を内包している。

 それは魔術師による魔力の調査でハッキリしている。

 だが、生まれつき備えている魔力量と魔力を扱うセンスに関しては全くの別物。

 それが魔術師にとっての常識なのだ。


 しかし彼女は諦めない。


「自力で放出する能力がないなら、道具側から吸い出してもらえれば……」


 過去に同じことを考えた人は何人も居ただろう。

 だが今日まで魔力を強制的に吸い出して動く魔道具が存在しないという事はそういう事なのだ。


 一国のお姫様にそんな無駄な時間を使わせるのは教育係としても良くないと思い、私は何度も彼女に魔術師の歴史や魔道具の歴史について説明はしてきたが、それでも彼女は諦めるつもりは無かった。


 両陛下とも相談した結果、日々の稽古や業務に差し支えない範囲の「趣味」としてなら自由にさせようという話に落ち着いた。


 業務をこなし、教育をこなし、空き時間や休日には両陛下がご用意した研究室という名の姫様の趣味部屋に籠る生活。

 子供の事だから1年もしない内に飽きるだろうなと思っていた。



 だが――――――ある日を境に私の考えは大きく変わった。



「アコ!魔術理論の仮説が出来たからアコの意見を聞きたいの!」


 姫様がキラキラした瞳でその書類を持ってきたのは、研究室の誕生からわずか半年後の事でした。

 

 この日から私と姫様の生涯に渡る「エーテル理論」の本格的な研究が幕を開けたのです。


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